プロローグ2
ユーズレスとクリッドがお別れして、魔界で数千年たったある日の出来事です。
魔界 ブラミガメノキト城 クリッドの執務室
「タンテール、また腕を上げましたね」
クリッドが『お子様ランチ』を食べながら料理人のタンテールを褒める。
「勿体なきお言葉です」
タンテールは主にお褒めの言葉を頂いたが喜びはない。
『霊僧タンテール』クリッドのカードから具現化した三位階の魔獣である。タンテールが召喚されてから既に五千年の月日が流れた。
この五千年で様々なことがあった。地上からユーズレスと別れたクリッドは、真なる悪魔の格と、地上の食材、悪魔遊戯に代わる魔獣召喚カード『ガチャ』によって魔界大帝の座に就いた。
そこからクリッドの改革は凄まじかった。悠久の時を生きる悪魔は怠惰である。そして、暇を持て余している。悪魔は闇より出でるものであり、魔界の芳醇な魔力を糧としているので、食事は必要ない。だが、味覚はある。クリッドは、悪魔社会に地上で学んだ食文化を広めた。
「「「ウンメェェェェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 」」」
悪魔に胃袋があるかどうかは不明だか、美味いものは万国共通、魔界でも胃袋を掴んだようだ。
さらに悪魔社会の序列も変化があった。
神話の時代にあった『悪魔大戦』で神々の軍門に下った悪魔たちは基本的に、武力、力による優劣、力による統治を禁じられた。悪魔の優劣は『悪魔遊戯』というボードゲームによる知力で決められた。魔界の芳醇な魔力を糧にしている悪魔は常に鬱憤が溜まっていた。だが、神々との制約により武力を発揮できる場がない。一部の狡猾な悪魔にとっては、上級悪魔を手玉に取れる面白い社会であった。
そこにクリッドが『悪魔遊戯』に代わる『ガチャ』を持ち込んだ。魔獣召喚型カード遊戯は、魔獣の序列が第十位階~第一位階まであり、第三位階~第一位階に至っては神話の魔獣、下手をしたら神獣レベルの魔獣召喚が可能である。また、例の如く位階が上がるにつれてカードの入手率は困難で、本当に運に左右された。
始めは下級悪魔から批判の声もあったが、この『ガチャ』の面白いところはまず、魔獣を召喚するのに必要なのは魔力ではなく、精神力であることクリッドのようにその気になれば永続的に『六星柱』と呼ばれた第三位階の魔獣六体を長期召喚することも可能である。
また、二位階と一位階は幼体で召喚される。三位階までは成体で召喚されるために、すぐに戦闘が可能であるが、上位の第二、第一は幼体に召喚者自らが育てなければならない。
だが、侮るなかれ成長した上位位階の魔獣は神にも迫る個体に進化する可能性がある。勿論、幾千幾万幾億の月日を労するが……。
聡い悪魔は気付いたのだ。最初こそ、十位階の魔猿にも劣る第二、一位階の幼体だがいずれは自身を凌駕し上級悪魔にも追従するポテンシャルと秘めているのである。
「ちなみに、愛情をもって育てないといい関係にはなれませんよ」
クリッドから悪魔たちに釘を刺された。そして、悪魔たちは『愛情』というものを理解していなかった。
「クルルルゥ」
「キャンキャン」
「クーン」
ズキューン
何処からか悪魔たちの核に特異的な矢が付き刺さった。
幼体の可愛い神獣たちを召喚した悪魔たちが『愛情』を理解するのにはそう長くは掛からなかった。
2
「うん、ナポリタンのギトギト具合にハムとピーマンが絡まって最高ですね。ハンバーグは、ミンチ肉だけではなく繋ぎに玉葱のみじん切りを炒めたものを入れましたね。始めての方にも食べやすくしてある点がポイント高いですよ。バターライスはあえて、味を薄くして全体のバランスを保っていますね。ポテトサラダは、芋の触感を残してキュウリは塩揉みして水分を出していますね。味がまとまっています。メインはエビフラですか? 」
「はい、クリッド様。今回は、魔界の魔力豊富な黒竜海老を加工したものを二本つける予定です」
「それは大盤振る舞いですね。あえてタルタルではなくウスターソースにしたのもいいと思います。ハンバーグにかかっているケチャップの再現度も申し分ありません。当日は来賓の方々もきっとお喜びになるでしょう」
クリッドが『お子様ランチ』の味見をしながら感想をいう。
タンテールは安堵していた。
魔界では近々、クリッド主催のパーティーが予定されている。
クリッドの父である先代の魔界大帝が、死神になり数千年が過ぎた。先の『海王震災祭典』で武神の腕を切り落とし、神々の干渉を最小限に抑えた死神は、上位の神である『運命神』へとなった。元、悪魔が運命神になるなど快挙でありまさしく奇跡である。
今回はそのお祝いを兼ねたもので、主賓の『運命神』の他に招待客として神々が天界よりお越しになる。ちなみに、魔界大帝であるクリッドは亜神と同じ位であるために厳密には神の扱いとなる。
今日はその料理のプレゼンとして、クリッドの腹心であり六星柱筆頭の『霊僧タンテール』が、腕に寄りをかけた。
「流石は我が主であります。恐縮でございます。」
タンテールは頭を下げた。しかし、タンテールは知っている。クリッドが今回の料理に対して合格であるが、いつも通りであることに。
タンテールは地上で召喚された。
地上でのクリッドは、機械人形ユーズレスの料理を「ウンメェェェ! 」とそれは満面の笑みで涎を垂らしながら食べていた。魔界での料理を極めたと自負してるタンテールである。他の悪魔からは『厨房のマエストロ』『職人』『巨匠』と称され「ウンメェェェ」と称賛の嵐であるがクリッドからはただの一度も「ウンメェェェ!」を貰ったことがない。
それが、この数千年タンテールに知らずのうちに影を落としていた。
魔界でも食料自給率はすべての悪魔にいきわたるくらいに豊富である。それを可能としているのが、クリッドが地上で品種改良した『スーパーフード』である。
『スーパーフード』は収穫して加工することですべての野菜、果物の代用品にすることができる。だが、欠点として味に関しては地上の作物よりも一~二段落ちる。一旦、加工するため新鮮なものではないのだ。いうなれば、魔界の食べ物はすべてが加工食品という定義になる。
それと料理人の問題もある。クリッドとタンテールを除くと、他の悪魔では料理の腕は数段落ちる。また、悪魔の中ではクリッドとタンテールの技術はまさに『神』であり、新しい創作料理や新メニューの開発など『神』の前では愚かなことなのだ。
このように切磋琢磨する環境がないために、魔界の料理は進歩しない。
ピシリ
「「!! 」」
その刹那にクリッドの足元に急に魔法陣が浮かんだ。
「クリッド様! 」
タンテールが即座にクリッドに近づき警戒する。
「このブラミガメノキトで《強制転移》の魔法陣ですか? いや、違いますね。召喚ですかね。何方様かは知りませんが、私を召喚するとは国一つでも贄にしましたかね? 」
クリッドがニヤリと嗤った。
「クリッド様、レジストされますか」
タンテールが魔法陣も荒を見つけた。
「せっかくのご招待です。地上にはもはや受肉する肉体はないと思っていましたが、これほどの濃い魔力溜まりでしたら数時間は召喚可能でしょう。タンテール、カードに戻りなさい。あなたもお呼ばれしましょう」
「なっ! お供をお許し頂けるのでしょうか」
「ふふっふ、久方ぶりの地上です。しかも、肉体つき心躍りますね」
真なる悪魔クリムゾンレッドが数百年ぶりに地上に召喚された。
クリムゾンレッド 原案 ヴァリラート様
次回は査問会会場です。




