プロローグ 1
査問会でカエルさんが召還の儀式をしたあたりです。
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査問会会場 同時刻 グルドニア王国 下町
「おい! 聞いたか、どうやらお忍びで子豚ちゃんがウェンリーゼから戻って来たらしいぜ」
ドーナッツ屋のオールドが隣の屋台にいるフライドポテト屋のケンタにいう。
「おお! 俺も聞いたぞ! なんでも、とんでもねぇデッカイ海蛇を倒したんだってな! 」
「海蛇じゃなくて、海王神シーランドって海竜だ」
アイスクリーム屋のダッツが会話に割って入った。
「かぁー! あの子豚ちゃんが立派になりやがって」
ドーナッツ屋のオールドが涙ぐむ。
「馬鹿! いい加減に子豚ちゃんはやめろ! おれらのパトロン様だぞ! 」
「まあ、気持ちは分かるわな。あのプクプクで丸々としたプリッとしたボディの無垢な王子様が、俺らが作った物を「最高だ! 貴公らは天才だ! 」ってあの真っすぐな目で見るんだぜ。スラム上がりの俺らに出資もしてくれてよぅ」
「従者の眼鏡の子は呆れたわな」
「まったくだ。まあ、それが普通だよな。食うや食わずの俺らをまっとうな道に戻してくれた。おかげで息子らも成人して本店を継いでる」
「俺らもお気楽に、昔みたいに酒飲みながら屋台営業ができるってもんさ」
この三軒の露店は隣接している。
実はこの三軒の店はアーモンドが出資している店である。
アーモンドは幼少より下町にリーセルスとお忍びで来ることが多かった。お忍びとはいっても、下町の皆にはバレていたが……。何故下町かというと、アーモンドは買い食いが大好きだったのだ。王族や貴族は、基本的に外出は馬車となる。グルドニア王国にも明確な線引きはないが、貴族街と平民の居住エリアがあり貴族街で歩くのは一部の使用人である。
アーモンドは下町のような屋台がいくつもある美味しいものの匂いを五感で感じ、食することが楽しみであった。
当時のアーモンドは、この『ドーナッツ』『フライドポテト』『ミルク氷菓』に可能性を感じた。簡単に言えば、アーモンドはこのお菓子を食べたときに自分だったら、こうするのになという、創造からこのお菓子をどうしたらもっと美味しくできるかという点で試行錯誤したのだ。
アーモンドは出資したこの三人とリーセルスでどうしたらもっとお菓子を美味しくできるか会議に会議を重ねた。
ドーナッツ屋は『リングドーナッツ』という小ぶりのドーナッツを開発した。これは、指輪のようにしてアーモンドが指にはめてニコニコしながら町中で食べた。
子豚ちゃんが嬉しそうに、美味しそうにしている『リングドーナッツ』はバカ売れした。
フライドポテト屋はメイン商品である『フライドポテト』に塩味の他に、ほかの調味料で味の種類を選べるようにした。また、蒸した芋にバターを置いた『ジャガバター』を発明した。これは、元々、アーモンドが夜中にこっそり食べていた夜食が原案となっている。
アーモンドはニコニコしながら歩きながら町中で食べた。歩く広告塔であるアーモンドを皆が微笑ましい視線で見る。芋はバカ売れした。
アイスクリーム屋は難しかった。実は、アイスクリーム屋のダッツは水魔術の使い手であった。だが、悲しいことに水魔術を体外魔術として放出することが出来ない。彼が出来るのは、触っている物体の温度を下げるだけのまるで使えない魔術の出来損ないのようなものだった。
しかし、ダッツはある時にコップの中のミルクが凍っており、これは夏に売れるんじゃないかと露店市進出を思い切ったのである。
ただ、当初の『ミルク氷菓』はミルクを凍らせてだけの味の薄い氷のようなものだったので、ほとんど売れなかった。
だが、アーモンドはこの『ミルク氷菓』に可能性を感じた。
アーモンドはリーセルス、サンタにクロウも巻き込んでレシピの開発をした。
そこで、卵黄と砂糖、ミルクを混ぜてから一度温めるというダッツとは真逆の方法を取った。そこから粗熱をとった液体を金属製の特製のボールをダッツが魔術で覚ましながら混ぜた。始めは、疑わしい目で見ていたダッツだったが二十分後には滑らかな舌触りの『ミルク氷菓』ができていた。
ちなみにここまでくるのに試行錯誤を重ねて一ヶ月かかった。
『ミルク氷菓』は売れた。面白いくらいに売れた。ダッツの研鑽もあり、味が濃厚になった少し割高な『アイスクリーム』も発売された。
これに、アツアツの『リングドーナッツ』『フライドポテト』と組み合わせて食べると、冒涜的なマリアージュが生まれた。
ちまみに、店を持つようになってからはダッツの手には余ったので魔導具を作って『ミルク氷菓』と『アイスクリーム』は作られるようになった。他の店も似たようなものを出したが初期の味の薄い『ミルク氷菓』レベルでダッツの敵ではなかった。勿論、レシピは門外不出である。
2
「ご無沙汰しております。皆さま」
サンタとクロウが屋台の前に現れた。
「「「おおお!」」」
三人は驚いた。
「もしかして、サンタ君にクロウ君じゃないかい」
「大きくなったね」
「久しぶりじゃないかい。いやー、びっくりしたよ」
三人がサンタとクロウを見て懐かしそうにする。
アーモンドが学園に行くまでは良く付き添ういで来ていたが、それ以降は、三人は店を貴族街に移したこともあり会う機会は減っていた。
「急なお願いで恐縮なのですが、屋台の出張を頼めるでしょうか? 」
サンタが三人にいう。
「出張かい? もちろん、いいとも、元々移動するために馬車を改造した屋台だからね」
「地面があればどこで行くよ」
「また、孤児院かスラムかい? 」
アーモンドはリーセルス経由で時折、孤児院やスラムに屋台の出張を御願いしている。だが、大半は新作メニューの試食会も兼ねてのもので、費用はアーモンドからなっていた。
「急なお願いにもかかわらずありがとうございます。今回は事によっては我が主の進退が関わっておりますゆえ」
「「「え!」」」
三人は混乱した。何がどうなってアーモンド殿下、子豚ちゃんの『進退』などに自分たちのお菓子が関わってくるのだろうか?
「話は、移動しながらでお願いします」
サンタが急いでくれと急かす。
三人は混乱しながらも撤収作業を行う。
「ええっと、ところでサンタ君どこに行けばいいのかな? 」
ドーナッツ屋のオールドが聞いた。
「ああ、すみません。私としたことが、場所は、王宮の査問会の会場です」
「「「………ハアアアアアアァァ?! 」」」
下町に三人の叫びがこだました。
体調に合わせてボチボチ更新していきます。




