13 プレゼント
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1
「お猿さんは本当によく働きますね」
クリッドは非常に感心していた。カード召喚によって、召喚された魔猿達は五十体近くいる。クリッドは五年近く魔獣を召喚し続けていた。魔猿達の中ではいつの間にか、序列が決まっていて数匹は十位階から九位階の強さになっている。ちなみに、この群れをまとめている『大猿』は六位階である。
(種族として進化したのか? )
『もしくは、同じく召喚した魔獣でもレアな個体が出現するのかもしれませんね。検証が必要でしょう』
ユーズレスと補助電脳ガードが不思議そうにいう。
クリッドは地上にいられる時間がそう長くないことを察すると、カードのままにしていた『六星柱』を召喚した。魔界での事業を立ち上げるに至っては、流石に一人では難しい。
『六星柱』は第三位階の魔獣だけあって強さは格別で、知能も高い。『烈激鼠カビル』と『堅鎖虎シャトー』は好戦的な性格だがクリッドには忠実である。
知能だけでいえば『霊僧牛タンテール』が優秀だった。補助電脳ガード曰く、しっかり教育するれば一流の執事になれるとのことだった。
実験の一環として、クリッドは余っていた機械人形の予備パーツと魔力でも召喚魔獣を作った。外見は『鉄骨竜』をイメージしたせいか類似していた。目的としては、ユーズレスと『ビックデーター』にある『古代図書館』をコピーしたかったのだ。これは、クリッドの持っている管理者権限で入手できる情報までとした。ユフト師の研究資料は、どれもピーキー過ぎたのでやめた。
魔界で『鉄骨竜』がどのように活躍するかは今後のクリッドの運用にかかっている。
クリッドは『秘密の部屋』に宝箱を置いた。中身は自身がいずれ受肉するためのカードである。クリッドは中身のいないアペンドに挨拶をした。
『……』
アペンドは何も反応はない。
「ご無沙汰していて申し訳ありません。ママ、今日は報告があります」
クリッドは、動かないアペンドにいままでの出来事を話した。勿論、アペンドからは何も反応はない。地上に来てから、楽しかったこと、悲しかったこと、嬉しかったこと、美味しい食べ物、迷宮の話、何故か神獣ばかりと戦って死にかけたこと……ユーズレスと、補助電王ガードのこと、いつの間にかクリッドは泣いていた。
「やっぱり、二人と離れるのは嫌だメェェェ」
チャラリ
クリッドが涙で視界が覆われている時に何かの金属音が聞こえた。
「え……あ、これは?」
不思議なことにクリッドの首には、アペンドがアリスから貰った『時の首飾り』がかけられていた。クリッドは訳が分からなかった。
「ママ……」
アペンドは相変わらず反応がない。
『時の首飾り』はうっすらと光っているようだった。か細く小さな光はまるで、クリッドを慰めているようだった。
『時の首飾り』またの名を『おまじないのペンダント』は神代級魔法《干渉》を発現するアーティファクトである。アリスはアペンドの夢の中で言っていた。発動条件は魔力ではなく、想いの力であると言っていた。
「ありがとうございます。ですが、今はまだ甘える訳にはいきません。いつかまた、ママの前で泣きごとでもいわせて下さい」
クリッドはアペンドに首飾りを返した。
アペンドは何も言わない。
クリッドはゆっくりと扉を閉めた。
2
三か月後、地上
(行くのか?クリッド)
ユーズレスがクリッドに聞いた。
「ええ、五十年近く地上にいました。魔力濃度もだいぶ、薄まりましたし実をいうとこの身体を維持しているだけで、結構きついのですよね。お世話になりました」
クリッドが青空を見上げながら言った。
『僅か五十年でここまで、魔力濃度が下がるとは驚異的です。自然の自浄作用に任せてもシミュレーションでは数千年かかるとの試算でしたから……』
「頑張り過ぎましたかね? まあ、そのせいで当初より早く魔界に帰らなければいけないのですが」
(……)
ユーズレスがエメラルド色の瞳を点滅させた。
『テンス、いいのですか?』
補助電脳ガードがユーズレスにいう。
(これ、やる)
ユーズレスが、クリッドに手のひらサイズの四角い箱を渡した。
「これは、開けてみても」
ユーズレスが頷く。
クリッドが箱を開けた。そこには束になった名刺が入っていた。
「このカードは? 株式会社ガチャ 代表取締役社長 クリッド ?」
クリッドが名刺を見ていった。
『クリッド、それは名刺といって、古来に使われていた簡単な自己紹介カードです。このカードは相手に自分の情報を提示することで、プロフェッショナルな印象を与え、信頼感が五割り増しになる魔法のカードなのです』
(ガードそれはちょっと言い過ぎじゃ)
「おおおお! なんとそのようなアーティファクトが存在するとは! 地上の知識を網羅したかと思われましたが、私のやはりまだまだでした。兄上にもらったこの名刺大切に致します」
(いや、ちゃんと配れよ)
ユーズレスはさらに予備の名刺を十セットと名刺入れを渡した。名刺入れは革製の安物だったがクリッドは嬉しそうだった。
余談ではあるが、この名刺の素材はただの丈夫な紙であり特殊効果はない。だが、魔界でクリッドがこの名刺を差し出したところ、悪魔たちは驚愕した。魔界では名を持った悪魔はほとんど存在しない。その中で、クリッドが名刺を差し出したことはある種の信頼をした。地上でこそ本来の力は抑えられているクリッドであるが、魔力粒子が濃い魔界ではその存在の格は計り知れない。神にも近し存在が、頭を下げながら自分の名の入ったカードを差し出してくる。悪魔たちは恐縮しまくった。さらには、この名刺をもらった悪魔はクリッドとの縁を持つものであり、注目の的だった。
『ガチャ』と『美食』を優先的に手に入れることができる。
「ウンメェェェ」を舌で覚えてしまった悪魔にとっては名刺は、それこそ財産全てを賭しても手に入れたいアーティファクトとなった。