12 潮時
1
五年後(四十年後)
「完成しました! 」
(やったな! クリッド!)
『おめでとうございます』
三人は召喚魔獣のカードを創った。
召喚魔獣の材料は、芳醇な初期の作物に貯まった魔力をクリッドが《強奪》《生命置換》で作りまくった。
ユーズレスと補助電脳ガードは販売するためのパッケージを決めた。
販売する顧客が悪魔なので、デザインは重厚感を第一に背景は魔界にない星空をイメージした。ロゴは古代ルーン文字を使用し、神々と悪魔の絵をデザインとした。まずは、お試しで十枚一組のブースターパックを作成した。
初心者用には三十枚入りですぐに遊べるスターターデッキも作成予定である。
魔獣は十位階~一位階で数字が少なるにつれて、レア度と強さが高い。その代わりに、召喚者の精神力をその分消費する。なお、第二位階と第一位階は、成体ではなく幼体が出現し、育成が必要となってくる。そこの部分を悪魔と神々がどう捉えるかが懸念材料だったが……
後に魔界と天界では、食料品と抱き合わせで予想を遥かに超えて売れた。
2
「どうやらあまり時間がないようです」
クリッドの身体が透けた。
(どうした! クリッド! 身体が透明になっている! )
『これは、《鑑定》《演算》……クリッド! 』
「シャチョウ、言わなくても分かっています。受肉した肉体の限界が近付いているようですね。地上の魔力濃度が薄れてきた証拠です。思ったより早く、人類が地上で暮らせる日は近いかもしれませんね」
クリッドに動揺はなかった。どうやら、数年前からクリッドも肉体の異変は感じていたようだ。
(クリッド……魔界に帰っちゃうのか?)
ユーズレスがエメラルド色の瞳を点滅させる。
「今すぐではないです。でも、潮時かもしれませんね。幸いにして、調理の腕もあがりましたし、魔界でも『スーパーフード』で食料供給体制を整えられそうです。私の魔猿さん達もかなり仕事を覚えましたので、魔界でも従業員として活躍してくれるでしょう」
クリッドが微笑む。
(……いつか、地上には帰ってくるのか? )
ユーズレスが勇気を出して聞いた。
「勿論です! ユーズ兄上! 数千年は魔界にいなくてはいけませんが、必ず戻ってきます。実はその時のために前もって依り代を用意していたのです」
クリッドがシルクハットの『四次元』から宝箱を出した。
(これはなんだ)
『宝箱の中から物凄い潜在的な魔力を感知します』
「実はこの中には、召喚魔獣と同じカードが入っています。媒介として私の一部を使いました。召喚されるのは人種です。これでも、悪魔よりはスペックを落としているので、魔力濃度が今より低くても生命活動は可能です。魔界から戻ってきた際には、これを私の受肉する肉体とします」
(位階でいうと一位階か?)
「うーん、一応、上位のカードと同じように作ったのですがテストしていないのでなんとも、ある意味では私の分体みたいな扱いになるので潜在能力は一位階の魔獣より上かもしれませんね」
『ちなみにかかったコストは?』
「一位階の……十倍くらいですメェェェ」
クリッドが目をキョロキョロさせた。
(借金増えたな)
『増えましたね』
「ご勘弁ください」
クリッドは土下座した。
(しょうがないか、本機もまたクリッドと冒険したいしな)
『テンスがそういうのであれば、いいでしょう。いつか再起動するかもしれないアペンドにツケといてもいいですしね』
「ママにだらしない子って思わちゃうメェェェ! お慈悲を! 」
(まったく、しょうがない子だなクリッドは)
3
三人は『秘密の部屋』からエレベーターで地上に出た。
雨上がりの地上には大きな虹がかかっていた。
「美しいですね。魔界に虹はないのでこの景色が見れなくなるのは寂しいですね」
(一人で大丈夫か? なんだったら、本機が魔界に行って手伝おうか)
ユーズレスがクリッドにいった。
「ありがとうございます。お気持ちだけで十分です。自分でいうのもなんですが、少しばかり、いや、かなり兄上とシャチョウに甘え過ぎました。悪魔にとって五十年程度は昼寝程度の時間ですが、私は本当に多くのことを学びました。悪魔には成長という言葉はありません。私はこの感動を同族にも理解して欲しいと思います。私の心は今、とても豊かです。それは、きっと何かをやり遂げた満足感、それと誰かと何かに一生懸命打ち込むっていうのは本当に楽しいですよね」
(本機も楽しかった)
『僭越ながら私もです』
ユーズレスと補助電脳ガードも同意した。
いつの間にか虹は消え、太陽は隠れ月が顔を出した。
三人は『秘密の部屋』には帰らずに焚火をした。
ユーズレスは焚火でチーズをトロトロにした。携帯食料の硬いパンにたっぷりとチーズをつけた。スープには野菜と魔牛肉を切って入れた。クリッドは「ウンメェェェ! やっぱり外での焚火料理は別格だメェェェ!」と舌鼓した。
別れの日は近い。
ガチャブースターパック