11 株式会社 ガチャ
1
「正直、何を勉強したらいいのでしょうか?」
クリッドが率直な意見を聞いた。
(作物を売るにしても、そのままじゃ、味気ないしやっぱり料理スキル?)
『始めは、地上の作物を在庫として使用できますが、それではいずれ底を尽きます。魔界でもしっかりと生産、流通できるように、改めて農業を学ぶべきです。自分で商会設立を焚きつけておいてなんですが、長期的に安定したビジネスですね。初期投資こそ多少のコストがかかりますが、継続的に安定した収益を確保できるビジネスモデル、顧客さえ掴めばいいと思考します。悪魔の寿命は長いと聞いたので、その時代、時代でニーズは多様化すると思われますが』
補助電脳ガードがクリッドにいう。
(ガード、それも大事だけど、まずはクリッドが何をしたいかが大事じゃないか。モチベーションがなにより大事だと本機は思う)
ユーズレスがクリッドを見る。
「実は、お恥ずかしいのですが、悪魔は正直な話、魔界の濃い魔素さえあれば生きていけます。地上の生物のように食は必要ありません。その分、娯楽もありませんが、そこで、私は食と娯楽を広めたいのです。具体的には、このカードゲームです。幸いにも私の能力で、カードで魔獣を召喚できる仕組みでカードゲームを作りたい。いや、悪魔遊戯に代わるものにできるのではないかと思うのです」
クリッドはとても興奮していた。
ユーズレスと補助電脳ガードはとても生き生きしているクリッドを見て嬉しかった。
補助電脳ガードが『株式会社なら出資しているのはユフト師の子であるテンスで、クリッドは雇われ社長になりますかね』と言った。
「おおおお! 私もシャチョウなる時の王よりも位の高い者になれるのですね」と興奮していた。
クリッドのいうことはある意味では間違いではない。
その後、クリッドはカードを作りながら、農業と調理に経済学等の勉強を頑張った。
2
五年後(三十五年後)
地上は変わった。
曇天だった空は青く晴れ晴れとしていた。太陽が顔を出すようになってからは、植物は通常サイズになり味も戻った。
始めは育てやすい根菜を中心に研究をしていった。根菜類は、植物の地下部分を食用とする。一般的に水分が少なく、加熱すると甘みが増す作物である。また、保存が効くものが多い。根菜類は、土壌の魔力粒子を吸い上げてくれたために、以降の作物が育てやすくなった。
その後に果菜類に挑戦した。トマト、ピーマン、ナス、キュウリ、カボチャ、スイカ、メロン等がある。曇天の空が晴れたことで、地上に四季が戻った。
いままでは、日光が遮られていたために基本的に冬のような寒い状態だった。果菜類は、夏によく育った。特に、スイカとメロンをクリッドは気に入っていた。
主要な穀物も育てたが、始めはトウモロコシから育てた。理由は、クリッドが気に入ったからである。収穫は大変だったが、壮大なトウモロコシ畑ができた。
その緑豊かな壮大な景色をクリッドとユーズレス、補助電脳ガードはきっと忘れないだろう。
問題だったのは地上の作物は順調だったが、魔素の多い魔界では作物が育つか未知数だった。それに、多くの野菜をクリッド一人では手に余った。今は、カード召喚の魔獣がマンパワー不足を補ってくれている。だが、長期的にみれば魔界で『召喚魔獣』はクリッド以外長時間の召喚は難しいと考えた。
クリッドは『秘密の部屋』で品種改良の実験をした。
サンプルとして、荒廃した土地の魔力濃度の高い土で実験が始まった。幾度の失敗の末に、クリッドはとんでもない作物を作った。
穀物類だが、収穫して加工することですべての野菜、果物の代用品にすることができる『スーパーフード』である。だが、現状の魔力粒子濃度が薄まってきた地上の土壌では栽培が難しい。ちなみに、加工はユーズレスの《演算》を補助電脳ガードが補助しながら、有線ケーブルで『ビックデーター』と接続して得た答えだった。
だが、欠点として味に関しては通常の作物よりも一~二段落ちる。現在は、魔界のような魔素が高い場所でしか栽培は難しいが、後の人類が改良を重ねることができれば文字通り、世界の食糧問題を解決する『スーパーフード』となるだろう。
「ウンメェェェ! 」
とりあえず、クリッドは食品に関しては満足したらしい。
3
カード事業を始めるにあたって、まずはクリッドは大迷宮主を作成した。結局のところ、クリッド達が作った大迷宮は六つだった。それぞれに、六星柱級の魔獣を置いた。なお、この魔獣は成長限界を定めた。器が大きすぎると迷宮機構の一部と判断されずにリポップされないらしい。場所によっては、ドロップ品に『神誓薬』をバラまいた。ある意味ではボーナスである。
カードゲーム事業は慎重に行った。
アンケートや商品開発、マーケティングができない以上は過去の歴史からひも解くしかない。
クリッドとユーズレスに補助電脳ガードは意見交換を重ねた。
ちなみに、現在の役職はユーズレスが株主兼会長、補助電脳ガードが相談役、クリッドが発起人兼取締役社長である。本来なら、そこに取締役が三人以上欲しかったがないものねだりはいけない。
ちなみに株式は現在、ユフト師の遺産を受け継いでいるユーズレスが100%である。クリッドは凹んだ。形式上、クリッドが労働で返却するとのことで、株式の20%を譲渡してもらった。
クリッドは実は、借金まみれだった。
受肉した際のユーズレスの魔力に、依り代の影。
『秘密の部屋』の食糧庫を空にした食費。
施設利用は『パンドラの迷宮』クリア特典のために管理者権限のため発生していないが、作物の種や、研究で使ったアイテムはすべてユフト師亡きあとは、ユーズレスシリーズの機械人形たちが相続している。
そのために補助電脳ガードは細かくクリッドが消費した経費を計算していた。
『多分、すべて返済するのに五千年くらいかかりますが……』
クリッドは「メェェェ」と鳴いて気絶した。
『株式会社 ガチャ 代表取締役 クリムゾンレッド』が誕生した。