10 帝王学
1
地上 パンドラの迷宮 入口
「あー、これは育ち過ぎてますね」
(チートってやつか)
『緑豊かになりましたが、完全に生態系が崩れてます』
三人は外の景色に驚いた。
あの何もなかった大地が、緑で溢れている。溢れているというよりは、作物の花がデカいのだ。葉っぱ一枚でユーズレスと同等の大きさであった。
『でも、大気中と土壌の魔力濃度はそれなりに薄くなったようです』
(その分、作物の一つ一つに魔力が詰まってるってことだろう)
ユーズレスは足元から自分より大きい大根や株を引っこ抜きながらいった。
「でも、助かります。これだけの魔力豊富な媒介があれば、いい迷宮主が作れそうです」
クリッドは右手を上げて魔力を纏わせた。
漆黒の大きな手が発現する。
「《強奪》…………これは、相当量ですね。イメージはカードで召喚できる強い魔獣……《生命置換》」
クリッドの大きな手が大地を覆うように伸びた。
クリッドは、一気に六体の大型魔獣を作った。
『堅鎖虎シャトー』『百刃犬ハミーラ』『覇王蛇ザブート』『烈激鼠カビル』『闘玄ルマーダ』『霊僧牛タンテール』後に、クリッドのカードでも成体で召喚できる最上位(三位階)の六星柱と呼ばれた。
ちなみにクリッドは意識しなかったが、カードによる召喚は魔力ではなく召喚者の精神力を消費する。クリッドの精神力は食べ物に対する我慢は別として、一万年をボッチで過ごした経験値、『霊獣麒麟バゼロフ』相手に五日間も《強奪》しまくった経験も併せて、本人でも気づいていなかったが相当の精神力を持っていた。
これも後になって知るが上位悪魔といえど、使役したての第三位階の魔獣を長時間召喚するにはかなりの精神を疲弊した。他の悪魔からクリッドは古代の言葉で『廃人』と呼ばれた。
(みんな、カッコいいな)
『ビィー、ビィー、単純な戦闘力は百階層主レベルですね。おそらく、それぞれに特殊能力もあるでしょうから』
「皆! やることは分かってますね」
「「「ガルル! 」」」
「よろしいです! それではそれぞれに散らばって間引きといきましょうか! ああ、魔石の回収も忘れずに、いや、食べっちゃってもいいですよ」
「「「ワフ! 」」」
六星柱たちは顔に似合わない甘えた声を出した。
2
一週間後
各地の魔獣大行進は、六星柱の働きもあって終息した。六星柱は四桁の魔獣達を駆逐して、魔石を吸収したために当初の倍以上の強さとなった。
『これでは、いくら大迷宮といえど強すぎます! 却下です! 』
クリッドはそのままカードから自由に動けるようにして大迷宮主になってもらうつもりだったが、補助電脳ガードに却下された。仕方がないのでそのままクリッドがカードとして所有することになった。
作物にも変化があった。
なんと貯蔵していた十年物の作物を調理したところ、味がしたのだ。
「なんたる芳醇な味わいだメェェェ! 」
それだけではなく、巨大化した作物からも十年物には劣るが素材の味がした。十年物は長期保存したせいで魔力が変質して味に影響を及ぼしたのだろうと補助電脳ガードは推察した。巨大化した作物は、どうやら土壌の魔力濃度が一定数まで低下して作物本来の味を邪魔しないようになったのではないかと、どちらも推測の域を出ないが……残念なことに、人種にはまだ魔力濃度が濃すぎるため毒と変わらない。
「大変だメメェェェ! 早く! 収穫しないと」
クリッドは急いで、眷属を増やした。強さは求めずそこそこ手先の器用な魔猿と大量にカードでの創った。
「「「ギィギィ」」」
クリッドは一気に五十体くらいの魔猿と、護衛として魔虎を十体追加した。
収穫は捗った。魔獣大行進の生き残りの魔獣もいたが、護衛の魔虎の敵ではなかった。
ひとまず、クリッドの食料事情は解決した。
3
『商会を設立しませんか?』
補助電脳ガードが唐突に提案した。
「商会ですか?」
(急にどうしたんだガード?)
『この作物の山を見て下さい。この作物の一つ、一つは旧ヴァリラート時代では国宝級のお宝です。このような純度が高すぎる作物は正直世に出してはいけないと進言します』
(確かに、いいたいことは分かるが、人種にも食べれないから毒だよな)
「でも、悪魔なら食べれるますよ。実際に私は魔力で体が満たされていくのが分かります」
クリッドは無造作に魔力たっぷりのトマトを齧る。
『我々が麻痺していますが、本来ならそのトマトですら無造作に食べていいものではないのです。クリッドは悪魔なら食せるといいましたが、実際に悪魔の観点からこの食料は売れるでしょうか?』
「残念ながら悪魔には元々、食を楽しむ文化はございません。ですが、断言します! これは間違いなく売れます! まあ、流通とか硬貨での売買という文化もないので、物々交換?」
(悪魔社会って、なんかつまらなそうだな)
「神々との闘いに負けてから、文明はほとんど進んでいないでのです。娯楽自体が、悪魔遊戯しかありませんし、基本的に悪魔同士の争いも神から禁止されていますから」
『それでしたら、尚のことです。この作物を始めとしてクリッドの魔界での立場を決めるのに、重要なカードになると思考します』
(売り手側としても予めルールを明確に決めておけば、揉めることもないか)
「なんだか難しそうですね」
クリッドが唸った。
『商売の基本は、安い時に買って、高い時に売るです』
(身も蓋もない)
『もっと、いえばお客様を第一に考えて、価値ある商品を提供する。過剰な利益を追求するのではなく、地味ですが誠実な商売を心がけることですね』
「おおお! 私のような紳士にはぴったりな職業ですね」
『その利益をひいては悪魔社会に還元することは統治者としての重要な能力かと』
「なんと、商売を学ぶことは帝王学なるものに通ずるわけですね」
クリッドは眼をキラキラさせている。
(……)
ユーズレスは作物の山を見て「これって、ほぼ原価かかってないから、ぼろ儲け?」と思考したが口には出さなかった。