9 コツコツやらなきゃ、後の祭り
1
『ビィー、ビィー、ビックデーターから緊急信号です。地上で、魔獣大行進が発生しています』
「なんですか?それ?」
『各地で暴走しています。正確な数は特定できませんが、一つの群れでおよそ五百前後です』
(もしかしてヤバい?)
「まあ、今の、地上は荒野ですから別にいいのでは? それより、迷宮から魔獣が溢れ出たということでしょうか?」
『恐らくですが、地上の魔力粒子の濃度が濃すぎて、迷宮での魔獣生成が限界を超えたのかと推測します』
(想定外の数になった魔獣が迷宮の外に出てきたんだな)
「ちょうど、生物がいなかったからいいのではないでしょうか? 新たな生態系の誕生?」
『それが、その、不測の事態が起きています』
(不測の事態? )
『地上に作物を植えてからおよそ十年経ちました』
「早いものですね。相変わらず、味はしませんが……それでも、ユーズ兄上のおかげでとても美味しく頂いております」
(照れるじゃん)
ユーズレスはエメラルド色の瞳を点滅させた。
『それは、置いといてその……迷宮にいる魔獣は基本的に食を必要としないのです。ですが、地上に放たれた魔獣は生存本能が活性化されて食を求めるのです』
(地上に適応するということだな。クリッドみたいじゃないか)
「誠にお恥ずかしい限りです。真なる悪魔クリムゾンレッドとなった私ですら、食の魔力には抗えませんでした。これぞまさに『人類の英知』なるものでしょう」
『二人の茶番はそのくらいにして、この十年近く作物の収穫をサボっていましたよね』
「(あ……)」
ユーズレスとクリッドは顔を見合わせた。
『実は、もう随分前から手遅れだったんですが、大陸に作物が溢れてしまったのです。しかも、魔力芳醇な作物は腐ることなく魔石のように形状を保ったままです』
(生態系、ぶっ壊れちゃった)
「おおおおお! お芋さん、大根! いっぱいだメェェェッェェ! 」
『その魔力たっぷりな作物を魔獣が摂取しています』
「味がないのに可哀そうですね」
食いしん坊のクリッドは魔獣に優しい。
(ん? それって、魔獣が魔力を摂取すると強くなっちゃったりする? )
『ビックデーターからの情報によると、各地で中規模迷宮主の魔獣が誕生しております。このままでは、自然と大迷宮主クラス、放置すれば神獣に近い厄災級の魔獣が高確率で誕生すると予想されます』
「……」
(……)
『クリッドは将来的には魔界に帰るのですよね』
「そうですね」
『現在、人類は貴族だった上流階級は衛星となったマザー・インテグラの中で永い眠りについています。そして、残りの人類はユフト師の残したワクチンを接種して、地下都市、バイブル、コンパス、ガイドラインで数世代後に魔力適応可能な種になるのを待ち続けております。その時に、魔獣が溢れかえっている場合は……おそらく人類が滅亡して、地上は迷宮魔獣の支配する原始的な世の中になるでしょう』
「そんな! それでは、将来的に地上で美味しいものが新たに作られないではないですか! 」
『魔獣が突然変異で、文明を理解し、新たな世界を作るかもしれませんが、美味しいものは期待できないでしょうね』
(オトウサンの期待を裏切っちゃうじゃないか! )
『非科学的ですが、ユフト師も成仏できないかもしれませんね』
2
「兄上、こうしてはいられません! 魔獣達を駆逐しにいきましょう! 」
(もちろんだ! )
『ちょっと待って下さい! 現在、魔獣は大陸全土に広がっています。いくら、クリッドとテンスが一騎当千の猛者でもすべての地域をカバーするには限界があります』
「では、いったいどうすれば」
(まったく、手が足りないな。こうなったら、眠っているデクス兄さんを起こしてでも)
ユースレスは何気に社畜的な思考だった。
『提案があります。クリッドに聞きますが、クリッドの《強奪》《生命置換》から創られた魔獣はクリッドの支配下にあるのでしょうか? 』
「そういうイメージを持てば可能だと思います。アノンやシーランドは、特にそういった縛りを作りませんでしたが」
『でしたら、クリッドには自分の眷属を数体そうですね。大迷宮主クラスの魔獣を六体ほど作ってもらえますか。あまりに多くても逆に統制がとれないでしょう』
「分かりました。そうだ! このカードゲームのように、召喚できるようにしましょう。そうすれば、暴走してもカードに戻せばいいだけなので」
(ちょっと、羨ましいな。中二っぽくって)
『クリッド、ベースとなる魔石の代わりに地上の作物を使いましょう。この地域は他と比較して海が近いので、より高純度の作物が育っていますから』
「シャチョウ! 了解しましたメェェェ! 」
こうして一行は『秘密の部屋』からエレベーターで地上に向かった。




