7 スケジュール
1
十年後
そこからの十年は忙しかった。
まず、クリッド達は試験的に迷宮を作った。
初めは、十階層の小規模迷宮だったのだが、自称ゲーマーのクリッドの血が騒いだ。そのために、一階層ごとに十体の魔獣が出現する作りになり、最終的には九階層で九十体という高難易度の迷宮になってしまった。
「やりすぎためメェェェッ! 」
クリッドは反省した。
ユーズレスと補助電脳ガードは作ってしまったのは仕方がないと、割り切ることにした。
迷宮の難易度よりも、最終階層の迷宮主と門番をどうするかが問題だった。
フワフワ
どうやら、アノンがこの場所を気に入ったらしい。
少し寂しかったが、アノンは魔素を媒介にして成長する魔獣だ。迷宮作成の技術は、古来の人工魔石作成の技術を応用して作ってあるために、魔獣は一度倒しても地上の魔力粒子を吸収して時間が経てばリポップする仕組みである。
それが、クリッドが作ったアノンでも迷宮にいれば対象になると補助電脳ガードが《演算》でシミュレーションした。
フワフワ
アノンが飽きたら秘密の部屋に遊びにいくとのことだったので「寂しくないよ」と伝えた。
ちなみにアノンに声帯器官はないが、魔素に言霊をのせてクリッドとユーズレスに感情を伝えていた。
補助電脳ガードは後になって気付いたが、機械人形であるユーズレスは生物ではない。しかし、ユーズレスは確かにアノンの感情を受信できた。さらには、気づくのが遅れたが、クリッドとも《心音》で感情のやりとりをしている。これは、通常の機械では不可能なことなのだ。
補助電脳ガードは何度も《演算》したが答えは分からなかった。
2
二年後(十二年後)
迷宮の数は順調に増えていった。
まだ大迷宮こそ作っていないが、現在は小規模迷宮が十個に、中規模が三個稼働している。
基準として二十階層までを小規模迷宮、三十~五十階層ある迷宮を中規模迷宮、それ以上を大迷宮とした。
小規模迷宮の迷宮主はそれほどの強さが必要なかったので、迷宮機構からリポップする。中規模迷宮では、門番と迷宮主をクリッドが実験を兼ねて《生命置換》により作成した。ベースとしたのは魔石だが、時には核となる素材を別に使った。そうすることで、不思議なことに魔石だけで作った魔獣に比較して、強さが増した。ここら辺は、検証が必要だった。
3
三年後(十五年)
海にいくとシーランドがいなかった。
いつもは、浅瀬で泳いでおり呼ぶと『ガラララン』と愛くるしい声で寄ってくる。
『ビィー、ビィー、沿岸部の魔力濃度の低下を確認しました』
補助電脳ガードがいうのは、シーランドはこの一帯の魔力を吸収し終えたようだった。そのため、本能に従いより魔力濃度が濃い場所や、海底と海を巡るのだろうとのことだった。
(ところで、どうしてシーランドって名前だったんだ? )
「ええ、実は古来の資料に夢の国、理想郷といわれる場所があったらしいです。そこは、皆から、『シー』『ランド』と言われていたみたいですね。なんでも、入場券というもを持っていれば身分に関係なく誰でも出入りができた、まさに夢の国だったようです。海を浄化しシーランドは、地上に再び楽園を作れるようにと願いを込めました。ですが、物価は物凄く高かったらしいです」
『ちょっと、残念な楽園ですね』
補助電脳ガードがアナウンスした。
「この海が再び母なる生命の源となった時にまた、会えるでしょう」
クリッドが少し寂しそうにいった。
シーランドは世界を回る旅に出た。
海と水の女神の涙から創られた神獣は、何を想い世界を回るのだろうか。
4
七年後(二十年後)
大迷宮を除いて、中小規模迷宮の数は百を超えた。
後は要所に大迷宮を十近く創る予定であった。
その前に、食糧庫の食材が無くなった。
クリッドは悪魔なので特別、食べなくても問題なかったが……
「無理だメェェェぇぇ! ポテチに! カレー! ハンバーグ! ピザ! ラーメン! パンケーキ! フライドチキン! スパゲッティー! ピラフ! アイス! ハンバーガー! もう無理だメェェェ! 」
禁断症状は治らない。
仕方なしに備蓄の『永久カップ麺』を三日に一回渡した。クリッドには全然足りなかったが、仕方なかった。
「予定を変更します! 作物を! 食べ物を植えるメェェェ! 」
クリッドはかつてないほどに燃えていた。




