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16 あの時の君へ

1


「なるほどな。確かに、今までのウェンリーゼ実績が証明しているな。賠償としては、むしろお釣りがくるだろう」


 マウがいった。


「お待ちください裁判長! 実際にその事業を行うには、人材が足りません! 魔導具の管理には専門的な知識が必要です。設備と人材が揃ってではないと本当の価値はないのではないでしょうか? 」


 この一言はマゼンタにとって悪手であった。


 ニヤリ


 リーセルスが笑った。


「それでは、人材がいれば問題ないということでしょうか。実を申しますと、ウェンリーゼでは人材育成のために支援学校を開設する予定です。期間は四年の学校で、一年は基礎科目、二年から三年は専門、四年目は実践で現場での実習となります。その学校は、平民でも受け入れる予定です。授業料は賠償の意味も込めて、成績に応じてウェンリーゼが支援します。もちろん、年齢は十を超える年から上は不問です。貴族の方々も大歓迎です」


「ほう、それは六十を超えてからもいいのか」


 マウがリーセルスに聞いた。


「勿論でございます。むしろ、読み書き、計算ができるのであれば一般教養の基礎科目は免除でもいいので、実質三年の特別制を設けるのも検討したいと思われます」


「そのようだ。マゼンタ殿、オスマン殿、司法としては、ウェンリーゼ前領主の首に、グルドニア王国に対する技術提供と人材の育成、今回のマナバーンは実質的な大きな被害はなかった。それに比べれば、十分すぎる賠償といえよう」


「お待ちください! 裁判長! そのような理想に丸め込まれては! 」


「分かりました。裁判長!ウェンリーゼの広い御心、軍務としても理解しました」


 オスマンがマゼンタの会話を遮った。


「オスマンなにを! 」


「サファイア卿、もういい。もういいんだ。目が覚めたよ! このウェンリーゼの計画は間違いなくグルドニア王国に富をもたらす。私のような無能な元帥と違ってな。裁判長、先のクリムゾンレッドの件、ラガー少尉に虚偽の証言をさせたのは私です。浅はかにも、私は、ウェンリーゼの魔石の利権に目がくらんだようです。サファイア卿を騙し、この計画を立てたものすべて私、黒幕はオスマン・ルビーであります」


「オスマン、はっ! 何を言っているの! 」


「サファイア卿、いいんだ。私は恥ずかしい。軍のトップともあろうものが民の危機に立ち上がれずに自身の利益を優先しようとしたこと。それに比べて、ウェンリーゼの騎士達はどうだ。自身を顧みずに騎士道を通した。ボールマン殿に至っては、その身が朽ち果てようと、愛するものたちのために魂すらチップにできる。負けたよ。お情けで元帥になった私とはまるで役者が違う。サファイア卿、君にも迷惑をかけた。どうか許して欲しい」


 オスマンの瞳は真っすぐだった。その瞳をみたマゼンタはオスマンに騎士の姿を誇りを見た。


「オスマン、ダメ、オスマン、なんで、なんでよ」


 マゼンタは泣いた。ここまでくるといくらマゼンタでも起死回生の一手はない。


「やっぱり、背伸びし過ぎたな。二人でロウソクでも作ってるのが、お似合いだったな。マゼンタ」


 オスマンがマゼンタ赤毛を撫でながらいう。その姿はまるで、泣きじゃくる子供をあやすようであった。


「へ、えっ! オスマン、あなた、いつから気付いて? 」


「自分の顔をよーく鏡で見てごらん。私の初恋は君のお母さまだ。赤毛でその美貌は、亡くなったお母さまと瓜二つだ。お母さまも私の力不足、今回のことも私の弱さが招いた結果だ。本当にすまなかった」


「そんな、ずっと、私、忘れられてると、思って……ううう、騎士様(オスマン)


 マゼンタはまるで長年閉じ込めていた感情が溢れるようにそれでいて、鎖から解放されたような気分だった。


「おやすみ、マゼンタ。今度こそ、本当に私のことは忘れておくれ」


「えっ! うっ! 嫌……だ……オスマ……」


 オスマンがマゼンタのみぞおちに拳を叩きこむ。マゼンタはオスマンの優しい顔を瞳に映しながら、ゆっくりと気絶した。


「裁判長、サファイア卿は持病の発作により意識を失いました。医務室に運んだほうがよろしいかと」


「オスマン殿、マゼンタ殿は、そうだな。衛兵、マゼンタ殿を医務室へ」


「ありがとうございます。裁判長、ラザア様、この度の海王神祭典によるウェンリーゼ、王都の被害はすべてこのオスマン・ルビーの罪、許してくれとはいいません。その罪はこの場で、首を刎ね、魔獣の餌にされても文句はいえません。いかなる罰も受け入れます」


 オスマンは罪人だ。


 だが、状況的に黒幕はマゼンタであろうことは誰の目から見ても明白であった。


 会場の皆は裁判長マウも含めてまるで、出来の悪い喜劇を見ているようだった。


 だが、皆はオスマンのその堂々とした振る舞いに、不覚にも嫉妬を覚えた。愛する者のために、すべての罪を被る騎士オスマン、カッコいい以外の言葉が見つからなかった。


「どうして、その男ぶりをもっと早く軍で出せないんだ」


 ピーナッツの言葉が宙に浮いた。

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