月と風の女神の祝福(馬耳東風)
犬のお医者さんに行ってきました。具合悪くなるのは、人種ばかりではありませんね。
皆さん御待たせしました。やっと主役が参戦します。
1
〖ユフト師による機械人形の四原則〗
・第一条
機械は人の幸せのためにある。
・第二条
機械人形は、人を傷つけてはならない。また、自分自身を守らなくてはならない。
ただし、「スクラップ」「ポンコツ」「ブリキ野郎」のキーワードが対象より発せられた場合はその限りではない。
・第三条
機械人形は、マスターの命令に忠実でなければならない。UFTシリーズは、ユフト師をマスターとして、序列三位までマスター登録可能が可能である。
・第四条
機械人形は、機械を使えない。
2
『マザー・インテグラ(始まりの機械人形)より、メッセージを受信しました』
補助電脳がアナウンスを鳴らす。
「ユーズが…また喋った」
ラザアが驚いた様子でユーズレスを見る。
『ミス・ウェンリーゼ、我らが父ユフト師に連なるものよ。ウェンリーゼの姫巫女よ。会話をするのは初めてですね。初めまして、〖テンス〗の補助電脳です。私のことは〖ガード〗とでもお呼び下さい』
ガードは流暢にアナウンスする。どうやらユーズレスの保護者のようだ。
「よく分からないのだけど、ユーズ…ではないのかしら?」
『私は個としては存在しません。十番目の機械人形〖テンス〗、個体名〖ユーズレス〗を補助する保護者のようなものです。以後お見知りおきを…』
「はぁ、よく分からないけどよろしくお願いするわ」
ラザアは適応が早くて助かる。
『それでは本題です。マザー・インテグラよりメッセージです。ラザア・ウェンリーゼは、マスター権限を持っておらず、あくまで次代のマスター候補です。また、現時点における最重要保護対象であり、ラザア・ウェンリーゼの安全はすべてにおいて優先される。テンスは現状待機とのことです』
ユーズレスは月を見上げ、再びエメラルド色の瞳を何度も点滅させる。
『マスター権限において、序列一位のユフト師は永眠、序列二位のマザー・インテグラは通常運転、序列三位のボールマン・ウェンリーゼのマスター権限は現在封印中です。現状では、序列二位のマザー・インテグインテグラの命令が優先されます』
ラザアは再び泣きそうな顔になってきた。
ユーズレスはかつてないほどにエメラルドの瞳を点滅させる。
『どうにかインチキできないか?その回答に対しては、〖ユフト師による機械人形の四原則〗に反します。テンス、十番目の子よ、誰にそんなことを学習させられたのですか?』
この統合型大器晩成の機械人形は、古来より様々なことを学習してきた。ただ、それはちょっと悪いことも学習してきたようだ。
馬耳東風
その時、この偏屈な機械(馬の耳)に春風ともに声が聞こえた。
オトサーン
その叫び声は、ユーズレスの【聴覚センサー】には感知されなかったが確かにこの機械人形に聞こえたのだ。
『ビィー、ビィー、信号受信しました。マスター・亜神ユフトの権限により、ボールマン・ウェンリーゼの封印が解除されました』
補助電脳のアナウンスが先ほどと違い、心なしか驚いているように聞こえる。
『続けて、序列一位のユフト師がマスター権限の辞退にともない序列の変動があります。ビィー、ビィー、序列二位のマザー・インテグラが序列の変動を拒否しました。〖ユフト師の機械人形四原則〗に反するとし、機械人形を機械を使うことはできないの観点から、マザー・インテグラの序列はそのままです』
「えっ!なんかよく分からないけど勿体無い」
ラザアは、混乱しているのか自体が飲み込めないのか、ともかく…
『以上のことから、繰り上げにより序列三位のボールマン・ウェンリーゼが序列一位の【グランドマスター】となります。最優先保護対象がラザア・ウェンリーゼより、グランドマスターであるボールマン・ウェンリーゼとなります。マザー・インテグラより、〖テンス〗ユーズレスへ【なるはやで】大至急、グランドマスターの元へ向かいなさいとのことです』
月の女神に機械人形とワガママな女神の祈りは通じたようだ。
ユーズレスは、保管していた〖限りなく透明に近い玉虫色〗賢き竜の魔石を見る。
『緊急事態により、最適解を〖演算〗します。ビィー、ビィー、この石ころの魔力を使い神代級魔法《転移》を行います。マザー・インテグラにバックアップを要請します』
ユーズレスは石ころ(玉虫色の魔石)を手に取る。どうやらまだ、この石ころの所有権はユーズレスにあるようだ。
「ユーズ」
ラザアは、ユーズレスを見た後にその泣き腫らした顔で一言…
「気をつけて、行ってらっしゃい」
(無事に帰ってきてね)といった。
ユーズレスはエメラルド色の瞳を一回点滅させてから一言…
『…マ…ア…マア…デス』
(すぐに帰ります)といった。
『グランドマスター、ボールマン・ウェンリーゼの位置を特定、賢き竜の魔石(石ころ)を媒介として、神代級魔法《転移》を発現します』
ユーズレスはエメラルド色の瞳から、ブルーの瞳を一回点滅した。
魔道機械人形ユーズレスは記録する。この機械人形が記録するであろう、女神の化身の最後の涙を…その頬から流れる雫石は、機械人形が握りしめている〖この世で一番美しい宝石〗よりも、キラキラと澄んでいた。
 
古来よりこの東の地、ウェンリーゼは馬と人種が仲良く支え合い暮らしてきた。馬は土を耕し、荷を引き、人々の恵みとなった。人種は、馬に寝床と安らぎと慈しみを与えた。【馬の耳に念仏】等という古代語があるが、このウェンリーゼの馬は【念仏】すら理解するかもしれない。
【馬耳東風】古来よりこの言葉は、あまりいい意味では使われないようだが、どうやら機械人形の耳には東の風が届いたようだ。
風の女神がニコリと微笑んだ気がした
 
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