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4 兄さん


「ピスタチオ様! ピスタチオ様! お気を確かに! 」


 副代表のバイタルが騒がしくいう。


「どうした、ピスタチオ! なっ! これは、酷いここは私が《回復》を! 」


「お待ちください。ナッツ様! 《回復》ではなく、《治癒》を! ここで《回復》を使うと、骨と臓器がくっついてしまいます。いや、既にもう……《治癒》で体力を、私が出血を止めます」


 第一王子ナッツが《回復》を発現しようとしたところを神官に止められた。


「分かった《治癒》」


 ナッツが《治癒》を発現した。


「ピスタチオ、これは、ひどいな」


「陛下! 皆! 控えろ! 」


「そのままでよい、それで神官、ピスタチオは助かるのか? 」


 ピーナッツが宰相のバーゲンと近衛を引き連れてやって来た。


「はっ! 大変申し上げにくいのですが、こうまで複雑に骨と臓器が損傷しておりますと、魔術での治療は難しいです。古来の外科的な治療をしようにも、体がもたないでしょう。申し訳ございませんが、私のできる範囲を超えております。むしろ、今、生きていることが不思議なくらいです」


 神官が《治癒》を発現しながら非常に申し訳なさそうにいった。


「バーゲンあれを」


「はっ! 神官、迷宮産の上級回復薬がある。これではどうだ」


「恐らく、多少なり延命させる程度かと」


「バーゲン、使え」


「はっ! 仰せのままに」


 バーゲンがピスタチオに上級回復薬を使った。


「ぐううううううう! 」


「「ピスタチオ様! ピスタチオ様! 」」


 ピスタチオが悲鳴を上げた。多少なり傷は良くなったがやはり、骨や臓器は完全には治らなかった。


 他の神官も駆け付けて、出血部位を清潔な布で圧迫した。いや、それぐらいしかできることがなかった。


「はあ、はあ、痛い、痛い」


 ピスタチオが掠れ声でいった。


「王陛下、ナッツ様、アーモンド様、何かお伝えすることがあれば……今のうちに」


 神官が最後の別れをどうぞといった。


「私は……ああ、死ぬのか……」


「そんなことはない! そんなことはないぞ! ピスタチオ! 陛下! いや、父上、父上ならば、何かしら方法が! 」


「……さっきの上級回復薬は、深層の品物でも最上級の品だ」


「そんな! それでは、聖女ジュエル様! 皇太后様なら! 」


「皇太后さまは、現在、先王デニッシュ様の千日の祈りを捧げております。そこに、乱入するのは、禁忌中の禁忌です。それ以前に、結界が張ってあるために、内側からしか出ることは出来ません」


「くそ! そんな! どうしたらいいんだ! 」


 ナッツが泣きそうな表情になる。


「兄上……ありがとうございます。もう、良いのです」


「何をいうかピスタチオ! 気を強く持て! 」


「思えば後悔ばかりの人生、人を蔑むことでしか己の肯定することしかできない。なんとも、哀れな男でした。私は、自分で自分のことが嫌いでした。今回のことも、弟のアーモンドに対する嫉妬です。もちろん、なんでもできる兄上にも……」


「ピスタチオ……お前」


「兄上、最後の死に水を取ってください。最後くらいは……王族らしく潔く散りたいのです……がふっ! 」


 ピスタチオが血を吐いた。


 残された時間は多くはないようだ。


 神官も首を振った。それは本当に手がないといっている。


 ポン


「父上? 何を?! 」


 キャハハハハハハハ


 ピーナッツが、ナッツの肩を叩き巡剣を抜いた。


 ピーナッツが巡剣を振り上げた。


「父上……ありがとう……」


 ピスタチオが最後の力を振り絞った。


 ピスタチオは最後に父に感謝を告げた。




2


「父上! お待ちください! 親が子を殺すなど! 」


 ナッツが叫んだ。


 ピーナッツが巡剣を振り下ろす。


 キャハハハハハハハ、キャハハハハハハハ


 ガキィィン


「何をする! 」


 アーモンドが絶剣でピーナッツの巡剣を止めた。


「決闘の勝者は私です。生殺与奪の権利は私にあります。いくら、王陛下といえど、邪魔しないで頂きたい」


「あん?! 」


 ピーナッツがアーモンドを睨んだ。


 アーモンドはピーナッツを無視してピスタチオに駆け寄る。


「シュー……ア、モンド……? 」


 ピスタチオの意識が途切れようとしている。




 グッ


 アーモンドが絶剣を握りしめた。


「ピスタチオ」


「……兄……上だろ……いや、もう……いいか」


 ピスタチオが瞳を閉じた。


 アーモンドが絶剣を振り上げた。


 ヒュー


 その刹那に風が吹いた。


『貴方のいう通りよ。アーモンド、でもね。アーモンド、貴方には後悔して欲しくないのよ』


 風がまるで母の言葉を綴る様にアーモンドの脳内がフラッシュバックした。


 アーモンドが絶剣を鞘に納めた。


 アーモンドはピスタチオのことを兄とは思っていなかった。年も近いし、いつもアーモンドに意地悪をする身内という認識だった。だが、ピスタチオの悪戯はいつも最終的に自分に跳ね返ってきて見ていて面白かった。アーモンドが本当につらい時は、皮肉交じりに励ましてくれていたのも分かっていた。ピスタチオ・グルドニア、不器用なのだ。アーモンド以上に不器用な兄だったのだ。


「そうか、ピスタチオは私の兄だったんだな」


 アーモンドは『四次元の指輪』から『神誓薬』を取り出した。


「アーモンド様、恐れながら上級薬でも治らなかったのです。いたずらに、薬を使っても余計に苦痛が増すだけかと」


 神官がアーモンドにいった。


「心配ない。これは、魔法の薬だから」


「待て! お前! その薬は! まさか! 」


 ピーナッツが『神の瞳』で『神誓薬』を《鑑定》した。


 アーモンドは、ピーナッツが喉から手が出るほど欲していた『神誓薬』をピスタチオにかけた。

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