3 熱しやすく冷めやすい
1
「おおおおおお!」
アーモンドが『大剣夜朔』を振るう。
「「「うわあああぁぁぁ! 」」」
ピスタチオの叫びが会場に響く。
ガッシャーン
『大剣夜朔』元はヒョウ専用の武器で、重量が三桁を超えるため人種には持ち上げることも難しい。アーモンドは本能的に奇跡的なタイミングで、『大剣夜朔』を出した。隻腕のアーモンドは身体の重心を上手く使った一撃は十メートルの塔を倒壊させた。
会場に砂埃が舞う。
「がっ! やはり、ヒョウ殿の武器は重いな、片腕では使いどころが限られる」
「「「にゃん、ニャー、ニャース」」」
ブーツの中の猫たちもアーモンドに同意した。
アーモンドは『大剣夜朔』のあまりの重量に着地を失敗した。アーモンドは『大剣夜朔を『四次元の指輪』に収納した。
「あああ、痛い」
「痛いよう。なんだよぅ。話が違うよ。簡単な遊びだって聞いたのに」
「腕が、あああ、曲がってる」
「母上、助けてよ」
「うわーん、お家に帰りたい」
塔にいた、残りの聖戦騎団は戦意喪失している。
「銀の豚ぁぁぁ!よくも! よくも! 私が心血注いだ聖戦騎団を! 」
「アズールか? まだやるか」
アズールただ一人を除いては……
2
「黙れ! 黙れ! 黙れ! 王族だけで無能な最底辺のお前が! 私を見下すなー! 」
アズールが剣を抜いた。
アズールは塔が崩れる瞬間に、副代表バイタルが庇うように落ちたために軽傷で済んだ。
「私は別に見下してなど、昔からその、ただの勘違いじゃないか」
「うるさーい! 」
アズールが癇癪を起した子供のように突っ込んできた。だが、その剣筋は鋭い。
アーモンドは剣を抜くわけでもなく避けた。
「こいつ! 素手で! 舐めるなぁー! 」
アズールが激昂し、剣を振るう。
その連撃は常人であれば、目で追えない速さである。
だが、アーモンドは躱す。最小限の動きで躱す。
「「「にゃん、にゃ、ニャース」」」
アーモンドの華麗なステップにブーツの猫たちも上機嫌である。
隻眼となったアーモンドの重心移動と間合いの取り方は独特であった。パンドラの迷宮でこそ、苦労したがアーモンドは二十階層で剣帝インヘリットとの戦闘を経て自身のスタイルを確立した。
「はあ、はあ、はあ、馬鹿な、なぜ、当たらない。どわっ! 」
疲労で無為に突っ込んできた。アズールにアーモンドは足をかけて、軽く肩を押した。出足払いのような形でアズールは一回転し、地面に伏した。
「がふっ! うわっ! 剣が! うわあああああああぁぁぁ! 」
宙に浮いた剣がそのまま刃先から落下し、アズールの顔に刺さろうとしている。
「あぶないな! 大丈夫か?」
アーモンドはアズールの顔面に剣が刺さるであろう数センチのところで、剣の柄をキャッチした。
「はあ、はあ、はあ、はあ、うわあああああああぁぁぁん」
アズールは漏らしながら泣いた。
アーモンドは気の毒過ぎて、追撃できなかった。
「勝者! アーモンド!」
審判もアズールが気の毒過ぎて判定を下した。
ラザアの怒りとは裏腹にアーモンドは、アズールは一発も殴ることができなかった。
聖戦騎団 対 アーモンド
勝者 アーモンド・ウェンリーゼ 戦闘時間50秒
「まあまあね」
「胎教によろしゅうごさいます」
ラザアとマロンはとても満足そうにしていた。
「まあ、こんなものでしょうね」
「流石、ご主人様です」
リーセルスとラギサキは自分のことのように誇らしげだった。
「……家門の恥の上塗りだ」
エメラルド翁は、恥ずかしすぎて顔を上げることができなかった。
3
観客席
「おお! まるで相手にならないではないか」
「アーモンド殿は、剣士ではなかったのか? なんだ、あの《水球》は王宮魔術師でもあのように自在に制御できるのか」
「あの大剣の一撃はさすがだ! あれが、竜殺しの剣か? 」
「いや、その前の加速と《転移》に跳躍だ。あれは何かのアーティファクト? 」
「それよりも、本当に百人に勝ったぞ! 百人斬りだ! 」
「馬鹿! 斬ってないよ。 決闘っていうか、ほぼ、遊びだろ」
「てか、アーモンド殿下ってよく見たら、カッコいいじゃない」
「本当、いままではお太りになって分からなかったけど」
「すっ……素敵、でも、もう結婚されてる? 」
「ああん、昔からもっと優しくしてればよかった」
「竜殺しは本当だったんだ」
観客席にいた貴族や使節団、ご令嬢の皆も、査問会前の余興にそれなりに楽しめたようである。
「「「アーモンド! アーモンド! 」」」「「「竜殺し! 竜殺し! 竜殺し! 」」」
闘技場の熱は最高潮であった。
「ピスタチオ様、ピスタチオ様! おい! 誰か! 救護班を! いや、神殿の神官を呼べ! 」
「カシュー、カシュー」
闘技場で副代表のバイタルが叫んだ。
ピスタチオは上手く息ができないのであろう。喉鳴りが聞こえる。
「これは、《回復》、いや、ダメだ! アバラが肺に刺さって、各所の臓器がはみ出している。ここまで、くると手に負えない」
神殿の神官が駆け付けたが匙を投げた。
闘技場の空気が一気に冷めた。




