2 死合
1
「始め! 」
審判がアーモンドの抗議を受けずに死合を開始した。
「《濃霧》」
先手は聖戦騎団魔術師だった。
立ち込めた濃い霧が闘技場を覆う。
聖戦騎団は約百人の団体である。魔術師が二十人、盾持ちが二十人、弓兵三十、槍と剣が二十人に加えて幹部十人がアズールとピスタチオを護衛するように配置していた。
「我は練る練る母なる大地の恵みを、新たな命を与えん《建築》!はああぁぁぁぁぁ! 」
アズールが全魔力を練った。アズールは三男とはいえ公爵家の出身であって魔力量は多い。土魔術は創造魔術とも言われており、使用者のイメージによって造形を作るなど、他の属性と違い自由度の高さが長所である。
アズールは高さ十メートルになる三重塔を《建築》で創造した。
最上階の玉座にはピスタチオが王のように座る。両側にはアズールと副代表のバイタルが立っている。
それでいて、塔には弓兵と魔術師を配置した。
「ほう、あの坊やなかなかの練度だねぇ。大将は要塞の上で高みの見物ってところかねぇ。防衛戦でもない決闘で要塞を作るのはよく意味が分からないけどね」
観客席から木人がある意味、感心した。
「木人様のご意見に大いに肯定します。一部の報告を終わります」
ハイケンが同意した。
「アズールは性格最悪な嫌な奴だけど、各教科で次席だから変に優秀なのよね」
ラザアが困った顔でいった。
「ピスタチオ様! 号令を!」
アズールが大将であるピスタチオにいう。
「うむ! 《魔力感知》から目標は動いておらん! 弓兵と魔術師は目標に向かって放て! 銀の豚を料理してやれ! 」
「「「「おおおお!」」」」
塔より、アーモンド目掛けて初級魔術と矢が嵐のように放たれた。
2
一連の動きは、開始十秒程度だった。
「まだだ、まだまだ! ここですべての矢と、魔力使い切っても構わん! 我ら聖戦騎団の想いを! 力を! 思い知らせてやれ! 」
魔術と矢の嵐は収まらない。霧は爆風により四散して代わりにアーモンドが居た場所は砂埃が舞っていた。
「ようし! いいだろう! 」
「打ち方、やめ! 」
アズールが大声を出す。
「はっはっはっはっは、少しやり過ぎてしまったかな。流石だな、アズール、騎士達の練度も近衛に見劣りしないではないか」
「恐縮でございます。わざわざ、塔を作る必要もなかったようです。魔力を無駄遣いしてしまいました」
スタスタ
砂埃から人影が見えた。
「なっ! 目標が! 」
バイタルがいう。
アーモンドがまるで何事もなかったかのようにゆっくりと歩いていた。
「なんだと! 馬鹿な! 先の攻撃をすべて捌いたとでもいうのか」
「ええい! 怯むな! 再度、攻撃開始だ! 」
アズールが号令を出す。
再び、魔術と弓の嵐がアーモンドを襲う。
「《水球》」
アーモンドは歩みを止めずに《水球》を発現した。アーモンドを中心に半径一メートルの《水球》が発現された。
「おおおお! なんだあの馬鹿デカい水の塊は」
「あれは上級魔術《水月》か」
魔術や弓は水の膜に勢いを削がれて、アーモンドを傷つけることができない。
「ありりゃ、アーモンドの坊やは初級の《水球》が上級魔術《水月》になっちまってるねぇ。しかも、防御に使うなんて大したもんだよ。術の密度も素晴らしいね」
木人が大変感心した。
「ええい! ならば、抜剣! 接近して仕留めろ! 相手は水の重さで素早くは動けない亀だ! 」
アズールが指示を出した。
「「「おおおおおお!」」」
槍兵と剣士が構えている時である。
「啼け、トラ」
「ニャース!」
アーモンドが『猫啼のブーツ』の効果を発現した。
《水球》を纏ったアーモンドが慣性の法則を無視するかのように加速した。
「「「ぎゃ! ぐはっ!」」」
「なっ! これが噂に聞いた肉車輪か!」
槍と剣を構えていた兵は油断も相まって、吹き飛ばされた。
痩せて体重が減ってしまったアーモンドは体積を《水球》で補った。
四十人はいた兵のほとんどが重症である。
「盾兵! 」
「「「はっ!うおおおおおおお! 」」」
盾兵が集まって密集し、アーモンドの『肉車輪』を止めた。
「水が勿体ないな。コトラ! 」
「ニャース! 」
アーモンドが《転移》で盾兵たちの視界から消えた。
「「消えた! 」」
「後ろだ! 」
アズールが塔から盾兵に声をかける。
「遅い!」
アーモンドが体に纏った《水球》を放出した。
二メートルはある密度の高い《水球》が盾兵達を襲う。
「「後ろ! ぎゃ!」」
盾兵たちは後方からの《水球》に対処が間に合わずに陣形が崩れた。
盾持ちの重騎兵は装備が重いために一度転ぶと体勢を整えるのが難しい。
「弓兵! 魔術隊! 撃て! 撃て! 撃て! 」
ピスタチオとアズールの声に余裕がなくなってきた。
「ホーリーナイト! 」
「ニャース! 」
弓矢と魔術を避けるようにアーモンドは『猫啼のブーツ』の効果で十メートル跳躍した。
「「跳んだ! 」」
会場を含めて皆が驚愕した。
アーモンドは空中で『四次元の指輪』からヒョウの武器である『大剣夜朔』を取り出した。
「おおおおおお!」
アーモンドは上空より塔目掛けて、渾身の垂直切りを振るった。




