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エピローグ2

1


 部屋にはグルドニア王、巨帝ボンドにジャンクランド使節団、ミクスメーレン共和国外交官を中心に諸国の重鎮たちがいた。


 四年に一度行われる世界会議の打ち合わせ中で今回はグルドニア王国がホスト国であり、次回開催がジャンクランドであったため巨帝ボンドが参加していたのだ。


「見ての通り、余は忙しい。邪魔をするな」


 グルドニア王国ブレッド王が息子であるデニッシュにいう。


「非礼はお詫び致します。直接報告したかったものでして、厄災級フューネラルの首を第二王子デニッシュ・グルドニアが国王陛下に献上致します」


 ドン


 デニッシュが円卓向かってフューネラルの首を投げる。


「「「うぉぉおぉぉぉ」」」


 死体とはいえフューネラルの首を目の前にした使節団の一部の者たちは慌てた。中には、気絶するものまでいた。


「ほう、《鑑定》どうやら本物のようだな。して、獣人たちはどうした? 」


「撤退しました。損害もあったのでしばらくは手が出せないでしょう」


「そうか、まあいい。ご苦労だったな。用が済んだなら下がれ」


「私は、国王陛下に戦果を献上しました」


「……何がいいたい」


「褒美を下さい」


「なんだと! 」


 ブレッド王の気が逆立つ。


 ブレッド王は、デニッシュが黙っていれば後で、功績に応じた褒美を与えるつもりだった。だが、デニッシュの態度はとてもではないが、上位者に対してのものではない。


『カッカッカッ! あの泣き虫だった第二王子が偉くなったもんじゃねーか』


 巨帝ボンドが場を茶化す。


「……うるさいな。()()()人形」


 ブチ


 その刹那に嵐のような風圧と共に巨帝ボンドが腕を振るう。今のボンドは武器こそ持っていないが、フルアーマー装備で三メートルの巨体である。


 キャハハハハハハハ


 デニッシュは巡剣の腹で巨帝ボンドの一撃を受けた。


 だが、その衝撃は凄まじく床が沈む。


『ほう、ネズミのくせに俺様の一撃を受けるか』


「……なんだ。大したことないな」


『ああん』


 巨帝ボンドはブチ切れた。ボンドは『ジャンクマント』の四次元から専用武器である六メートルある大斧を取り出す。


「「わあああ! 逃げろ! ボンド王がご乱心だ」」


『おい! ブレッド! この生意気な息子は死亡決定だ! 』


「……ふん! 好きにせい」


『ハハハハハ! 王様の許可取ったぞ! 後で国際問題だとか抜かすなよ! おりゃあああ』


 部屋に暴風が吹き荒れた。


 巨帝ボンドが本気で巨帝を振り回す。


「元つ月」「気更月」「弥生」「卯の花月」「早苗月」「水の月」


 デニッシュが連戟で応戦した。


『なっ! こいつ! 』


 デニッシュの連戟はボンドの巨帝を弾いた。


「雷無月」


 デニッシュが音をすら消える急所を狙う突きを放つ。


『しゃらくせぇ! 』


 ボンドが巨帝を投げ捨て再び拳を振る。




2


 二人の戦闘は、洒落にならないレベルだった。


 戦闘には途中でレングとフェンズが割って入った。


 デニッシュは各国の重鎮がいる中でボンドとほぼ互角に渡り合った。正直なところ、長期戦になればデニッシュが不利ではあったが……ボンドはデニッシュに物差しとして使われたのだった。


「もういい、好きな褒美を取らせる」


 ブレッド王が呆れていう。


「ありがたき幸せ」


 デニッシュは気絶した。


3

その夜、ブレッドは一人で浮かれていた。

正確にはブレッドの中にいる四百年間《強奪》を繰り返したタイムである。

「やっと、育った。やっと見つけた。第二のアートレイ」

タイムは《強奪》を繰り返し過ぎて意識の集合体に近い存在になっていた。

母であるエミリア(マム)の支えがあって、どうにか自我を保てている状態である。

「デニッシュ、デニッシュ、デニッシュ、デニッシュ、デニッシュ、デニッシュ、待っていて下さい! 父上、やっとあなた様の後を継ぐものを! 悪魔を! あなたを殺せる逸材を見つけましたぞ! 」

「早く! 早く! 早く! 《強奪》しないと」

「まだ、まだ、早い、まだ、早い」

「早く! 早く! 殺して差し上げないと」

「あれ、あれれ、何で父上を? ガーヒュを殺す? グルドニア迷宮? あれれれ」

ブレッド王の中で集合体が混乱している。


『……』

王座となっているアナライズは今日もエメラルド色の瞳を点滅させ記録していた。


螺旋の王座は終わらない。



4


 翌日に急遽、査問会が開かれた。


 ウーゴ迷宮魔獣大行進についての責を問うものだった。


 ウーゴ男爵死亡により、息子のウーゴ少尉。


 寄り親であるズーイ伯爵の代理として副官のシュリが呼ばれた。戦時下であるために、ズーイ伯爵の召喚は代理で止む無しとなった。


 デニッシュも同席した。本来であれば味方としてジュエルも同席を頼みたかったがまだ眠りから覚めなかった。眠りから覚めたジュエルが事の顛末を聞いたら胸を痛めることは分かっていたので逆に良かったのかもしれないと、デニッシュは思った。


 査問会は厄災級フューネラルの件も間接的に議題に上がった。厄災級の討伐案件は、数百年ぶりの快挙であったが、魔獣大行進に付随することで素直には喜べなかった。


 査問会には観覧席に各国の重鎮もいた。


 デニッシュとキーリは二人で厄災級、『銀狼』はパーティーとして金級となった。また、デニッシュとキーリは単体では金級を通り越して準厄災級として登録された。


 フューネラル討伐で場が沸いたせいもあってかウーゴ男爵家のお家断絶は免れた。これは、西部貴族の指揮を下げないパフォーマンスでもあった。その代わり、ウーゴ少尉は男爵の継承は出来なかった。四歳の息子が中央の学院を卒業し成人した後に、男爵位を継承することになった。


デニッシュにできた最大限の譲歩だった。


 騎士マウも証言台に立った。


だが、あくまで形式に則っただけで、参考意見にも記録にも残らなかった。騎士マウは無力だった。


デニッシュは十二人分の騎士爵の任命権を褒美として貰った。


異例のことだったので、他貴族から反対意見があった。


デニッシュは少しだけ殺気を開放した。


皆が黙った。


巨帝ボンドが「続きをやろうか」と息巻いていた。


巨帝ボンドは後に、レングとフェンズに絞られた。ちなみに、先日の戦いによる王宮の損害はすべてボンドに個人的に請求が来た。中には国宝級の美術品もいくつかあった。


 ボンドは五年間のタダ働きが決定した。




5


 ジュエルが目覚めた場所はズーイ伯爵の館だった。


 ハンチングとジョルジが交代で護衛についた。


 フューネラルが討伐されて二日後のことだった。


 ジュエルの枕元には手紙が二通あった。


 フラワーからとミクスメーレン共和国からのものだった。


 ジュエルはまだ手紙を読む気にはなれずに、《異空間》に閉まった。


 ジュエルはデニッシュを探した。だが、デニッシュは王都にいた。


 事の顛末を聞いたジュエルはデニッシュに対してやり場のない怒りと寂しさを覚えた。でも、ジュエルには自分が守ってもらってことが良く分かっていた。


 ジュエルは戦死者の名簿を見た。幸いにも、ハンチングとジョルジにウーゴ男爵親衛隊のおかげで砦からの避難者には被害はなかった。


 ジュエルは別室で養生しているキーリの見舞いに行った。


 キーリはベッドの上だったが元気だった。


「こちらの依頼書に完了のサインをよろしくお願いします」


 キーリは手紙の依頼を終えた。


 ジュエルはキーリの状態を見て驚いた。キーリからは魔力を一切感じなかったのだ。


 ジュエルは魔術で魔女に先触れを送った。


 ジュエルは、本当は直ぐにデニッシュの元に行きたかった。デニッシュはきっと今も王都で戦っていることは、分かっていた。自分のためではなく、仲間のためにデニッシュは自身の傷など厭わない。だが、他者の痛みには自分のことより敏感なのだ。


 今回の犠牲は人数で見れば軽微だ。魔獣大行進に、厄災級フューネラル討伐も考えれば上出来であろう。


 だが、ジュエルは知っている。デニッシュの心は今、孤独であることを、狼は孤独な生き物だ。誰よりも臆病で、傷つくのを恐れる生き物だ。


 だからデニッシュは戦うのだ。


 いつまでも残る傷跡を忘れるために……いや、より傷を深く抉り、過ちを二度と起こさないように。


 


 ジュエルに出来ることは、デニッシュを慰めることではない。


 キーリの状態を少しでも軽快させるために、どんな手段でも使うことだった。


 例えそれが、竜すら恐れる魔女の巣穴であろうとも。

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