25 グルドニア王国歴史450年 キーリライトニング・オリア
1
「……キーリ? 何故、お前が? 夢か」
デニッシュがキーリを見ながらいう。
「はぁー、しばらく見ないうちに、剣も判断力も鈍ってますね。これは、救いようがない。まだ、剣を握りたての時のほうがマシですね。あっ、後ろですよ。もう、遅い! 」
スパン
キーリがデニッシュに向かってやって来た魔熊を切り伏せる。
目の前のデニッシュはキーリの剣筋に見とれた。
キーリの流麗な剣に荒らしい呼吸だったデニッシュは、息をすることさえ忘れた。
数々の迷宮を踏破して、実践に明け暮れたデニッシュは、少しでもキーリに近づけた。いや、追い越したとさえ思っていた。しかし、今のなんでもない一閃を見てデニッシュは剣士としてキーリの足元にも及んでいないことを自覚した。
(なんなんだこの化け物は)
「いかがしましたか? 殿下、早くしないとまた熊さん達が遊びに来ますよ」
スパン
キーリは返しの剣で「ついでにどうぞ」とでも言うように魔熊を屠った。
「お前……相変わらずふざけた口調だな! 何しに来た」
デニッシュの手に自然と力が入った。
スパン
デニッシュも負けじと剣を振るう。
「ああ、失礼しました。最近になって魔力感知が大分上達しまして、こちらで、泣きそうな王族の気配を感じましたので、遥々、東の海からやって来ました」
スパン
「お前の憎まれ口は、潮風でより辛辣になったな」
スパン
「いえいえ、私は事実しか言いませんので、殿下のお心に思うことがあるのでしょう」
スパン
「お前、気づいてないがオリア伯爵によく似てきたな」
スパン
「……へぇー、そういうこと言っちゃいます」
スパン、スパン、スパン
「「「ガガッツ! 」」」
魔熊が八つ当たりのようにキーリの荒々しい剣の犠牲になった。
「ふん、心当たりがあるようだな」
デニッシュの剣からは、いつの間にか殺気が消えた。今はただ、無意識に肩の力が抜けた柔らかい剣を振るっている。それでいて、鋭さが増していた。
「俗世の風に当たって、少しは言葉遊びを覚えたようですね。おかげで、肩の力が抜けたようで、ちゃんと周りが見えていますか? 呼吸ですよ、呼吸」
キーリはデニッシュに見本を見せるかのように剣を振るった。
「……ぐうう」
ガクガク
デニッシュはキーリの登場によって緊張が緩んだのだろう。
身体の感覚が戻り始めた。眠っていた疲労と痛みが一斉にフラッシュバックする。
「随分とお疲れみたいで、少し、お休みになられてはいかがでしょうか」
「抜かせ、ぐうう」
見た目通り、デニッシュは限界だった。
2
「ガウガウガウガウ! 」
いきなり現れたキーリに、息を吹き返したデニッシュに対してフューネラルは、面白くなかった。しかも、手下を子供でもあやすかのように倒していく。
「ガウウウウゥ」
フューネラルはお手玉をしていた騎士の頭部を握りつぶした。
「ペロ、ペロ、ペロ、ガウッフィ」
フューネラルは握り頭部から溢れた脳漿を舐めとる。手についた騎士の脳漿を舌で味わったフューネラルは機嫌を取り戻した。
「あいつ! 」
「あれは、自軍の兵ですか」
「……私の騎士たちの……頭だ」
デニッシュが苦虫を嚙み潰したような表情でいう。
「殿下の騎士、そうでしたか」
デニッシュの騎士という単語を聞いた瞬間に、キーリは自分でも気づいていなかったが嫉妬した。キーリはデニッシュの従者であったが、今の正式な所属はウェンリーゼ海軍大尉である。さらには、自分はフラワーに騎士の誓いを立てた。そのことに後悔はしていない。だが、自分はもうデニッシュの専属ではないのだ。
それと同時に、デニッシュの騎士達に敬意の念があった。彼らは自分の命をチップにデニッシュを守ったのだ。
それとフューネラルに対しての怒りが湧き出る。
「あのような、獣は生かしておく必要はありませんね。戦いですらなく、蹂躙させていただきます。害獣の駆除はどうぞ、お任せください」
キーリが構えた。
キーリは思考した。
周りは魔熊が二百五十体、後方には魔力欠乏症により沈黙している魔獣五百体がいる。状況的には絶望的だが、親玉のフューネラルを倒すには悪くない状況である。さらには、今、魔熊達の注意はキーリに向いている。
キャハハハハハハハ
絶剣が笑う。
魔熊はキーリの剣に圧倒されており、距離を取り様子を伺っていた。
「四極」
キーリが剣を振るう。剣からは四つの真空の刃が飛ぶ。
「ガギャン! 」
魔熊が四つ刃に斬られ、群れに隙ができる。フューネラルまでの道ができる。
キーリが走る。
軽装であるキーリは、まるで風のように魔熊の隙を抜ける。
「元つ月」
キーリの神速の一閃がフューネラルを襲った。
今日も読んで頂きありがとうございますm(_ _)m




