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23 グルドニア王国歴史450年 穴熊

1


「そうだよ! オイラが騎士マウだよ」


 マウは『騎士』という言葉に反応した。


そして、思い出した。自分がデニッシュの騎士であることを……


そして、デニッシュよりこの短剣とともに王命を授かったことを……


(デニッシュ様は、オイラにズーイ伯爵に援軍に来いといった)


(ウーゴの未来はオイラにかかっているといった)


(ガージャのおっちゃんは、オイラのこと立派な戦士だどいってくれた)




「伯爵様、三獣士です。今の戦力では直接戦うのは、少し厄介かと……」


 副官シュリがズーイ伯爵に耳打ちする。


「ふん、坊主よ。お前のその短剣はワシが預かろう。雲行きも怪しい、一旦撤収だ」


 バシッ


 マウがズーイ伯爵の手を払った。


「小僧! 何をするか」


「ダメだ! この短剣はデニッシュがオイラに託した短剣なんだ! 死んでも他の誰かに触らせるわけにはいかない。これは、伯爵様でも触っちゃいけないんだ! そんなことより援軍を、ウーゴ砦に援軍を送ってくれよ。いや、送ってください! お願いします! 」


「貴様! さっきから、こっちが優しくしてれば付け上りおって、シュリ! この小僧から短剣を奪え」


 副官シュリがマウに近づく。


「炎の息吹」


「なっ! 平民が魔術だと、しかも中級以上、やはり迷宮品の装備か」


 マウが『二極鳥の槍』からブレスを発現した。


 ブレスはズーイ伯爵達を威嚇すように空を燃やした。


「はぁ、はぁ、はぁ、オイラはいや、私はグルドニア王国第二王子デニッシュ・グルドニア様の騎士マウ! これは、王家の短剣である。ズーイ伯爵! デニッシュ・グルドニア様の命により今すぐにウーゴ砦に援軍を要請せよ! これは、王命だ! デニッシュ・グルドニア様の王命なんだ! はぁ、はぁ、はぁ」


 マウは震える手でズーイ軍に槍を向けて宣言した。


「なんだ、なんだ、仲間割れか」


 三兄弟で末っ子のゼオが挑発する。


「黙れ、糞犬が! 」


「ほう、つれないな。穴熊さんよう。俺はここで始めちまってもいいんだぜ」


「ゼオ、あまり刺激するな」


次男のヒノトがゼオを制する。


「つまんないな。兄者、なあ、大きい兄者もそうだろう」


「お前たち、穴熊、俺が騎士マウと話しをしているのだが」


ヒノエがズーイ伯爵と兄弟に睨みを利かせる。


「狼の兄ちゃん、頼むよ。いや、お願いします。みんなを助けてくれよ」


 マウが崩れ落ちた。


 極度の緊張で膝が笑っている。


「騎士マウよ。伯父貴のガージャが独りでウーゴ砦に戻ったのはなぜだ。伯父貴は、ああ見えて頭で物事を判断できる戦士だ。ハクから聞いたが、聖女たちに手厚い手当を受けたと聞いた。獣人は義に熱い。だが、それだけで伯父貴が戻ったとは思えん」


 氷帝ヒノエが震えるマウを見つめる。


 その瞳は不思議であった。そこには、マウを侮蔑するような視線はなく澄んでいた。


「ガージャのおっちゃんは、牙帝ガージャは騎士なんだ。この土地には、騎士として騎士であれって言葉があるんだ。ガージャのおっちゃんは、馬鹿だよ! オイラみたいな、ドベの平民なんか見捨てて、いけばいいのに、約束を守った。敵の騎士達を、きっとカッコいいって思ったんだと思う。でも、オイラはおっちゃんをカッコいいって思った。獣国の偉い人なのに、みんなを助けにいったんだ。独りで、でもね。騎士ってさあ、オイラが思うに馬鹿なんだよ。馬鹿みたいに一度心に決めたことは、自分の心に正直なんだよ。おっちゃんは、自分の気持ちに正直になったんだと思う。その、上手く言えないけど」


「……そうか、馬鹿だな」


「大きい兄者」


 炎帝ヒノトが氷帝ヒノエを見る。


「敵の事情なんぞ。放っておけばいいものを、任務そっちのけで人種に加勢に行くとはな。指揮官失格だ」


「大きい兄者言い過ぎだぜ」


 水帝ゼオがいう。


「だが、伯父貴はやはり誇り高き狼だ。ここで、尻尾を巻いて逃げていたら、我々の獣神様に合わせる顔がない。父上にはそれこそかみ殺されていただろう」


「大きい兄者」


「そうだ、大きい兄者のいうように伯父貴は埃が高いんだ。で、どうするんだい大きい兄者」


 水帝ゼオは少し頭が弱い。だが、大まかな意味は理解している。


「決まっているだろう。伯父貴に手を出したケダモノどもは、皆殺しだ。騎士マウよ。大儀であった」


「……良かった」


 マウは疲労と緊張が限界を超えたのか気絶した。


 氷帝ヒノエがマウを優しく受け止めた。


「こんな小さな体で、我々と穴熊に物申すとは大したものだ」


「そうだぜ、そうだぜ、人種にしとくのは勿体ないぜ」


「穴熊、騎士マウはいい戦士になるぞ。貴様らのような騎士道を忘れた、小賢しい老いぼれと違ってな」


「抜かせ、犬っころが」


「まあ、いい。貴様とやりあっている暇はない。臆病な熊は名前の通り砦という穴熊に張り付いているといい。ヒノト全軍でウーゴ砦に向かう」


「大きい兄者! 全軍ですか」


「ああ、全軍だ! すべての責は俺が担う」


「おおう! 流石、大きい兄者だぜ」


「ハク、道案内を、騎士マウは」


「ヒノエ様、騎士マウは私が運びすどうか、同行する許可を」


「……いいだろう。疲れているだろうが、なるべく早く行くぞ」


「かつてないほど、体は軽うございます」


「ふん! 全軍! 目標変更だ! ウーゴ砦にいる魔獣を皆殺し! 牙帝ガージャの勇士を獣神様に捧げるのだ! 」


「「「ウォーン」」」


 獣国軍およそ二千がウーゴ砦を目指した。


2

「行ってしまいましたね」

副官シュリがズーイ伯爵にいう。


「アイツらは本当に馬鹿なのか、城を落とさないで南へ進軍すれば、こっちがその気になれば背後を討たれるというのに」

ズーイ伯爵が進軍していった獣人達を見ながらいった。


「彼らも馬鹿ではありません。それが、分かっているからにらめっこをしていたのですが、して、如何しますか」


「何がだ」


「今なら、狼煙で合図を送れば、四方八方から囲めますよ。なんたって無策のまま敵地のど真ん中に突入していくのですから。あちらは進むだけ。こちらは、それこそ左右から潰してもいいし、ウーゴ砦で挟み撃ちに出来ますが……まぁ、先ほどの少年がいった魔獣大行進があるなら、それどころではありませんがね」


「あのような戯れ言を私に信じろと」


「普通のお貴族様ならば信じないでしょうね。申し訳ありません。とても行きたそうにしていたので」


「馬鹿をいうな! ワシにあの犬どものケツを追い回せと」


「鬼ごっこはお嫌いではありませんよね。昔から……」


「先の小僧」


「騎士マウですか」


「何が騎士だ! まぁ、ワシ達相手にあれくらい啖呵を切った度胸は買ってやるがな! 」


「あの位の歳でしたね。閣下が、先代様に捨てられそうだったひ弱な私を、身をもって守って下さったのは」


「ふん! そんな、昔のこと等とうに忘れたわ」


「そうですね。穴熊のズーイに物申した騎士マウのほうが立派ですね」


「なにを! ワシだってな親父殿に! 口答えしたときはな、半分ションベンチビって」

「チビってたんですか」


「半分だ! 馬鹿が」


「行っちゃいますね。獣人達」


「ふん! 」


「ウーゴ男爵と私と閣下で、駆け巡った戦場は数知れず、そういえばウーゴ男爵にはここ数年お会いしておりませんでしたな」


「何がいいたい」


「いえ、ふと、ウーゴ男爵も久方ぶりに閣下にお会いしたいのではないかと思いまして」


「……幾つだ」


「はい? 」


「融通の利かん奴だな……何人ウーゴ砦に派遣したらいいんだ! 」


「……我々には、地の利があります。同数以下でも十分かと」

副官シュリがニヤリとした。


「……すぐに! 支度をせい! 」


「ご安心を! もうとっくにできております」


「ふん! 貴様は本当に可愛くない奴だな! 皆のものー! 我らが友! ウーゴ男爵の危機だ! 力を持て余した戦士達よ! 存分に振るえ! 」


「「「オオオオオ! 」」」

「穴熊! 」「穴熊! 」「穴熊! 」


「行くぞー! 私のズーイの騎士達よ! 」


穴熊のズーイ、鉄壁の守りではグルドニア王国でも一二を争う猛将である。

守ることに特化した穴熊だが、本来は自分の身に危険が迫ると、隠していた爪や牙を立て獰猛になる。


それが、自身の大切なものであれば尚更である。


「好きに暴れろ! 余所者に! 騎士はズーイということを、教えてやれー! 」


「「「オオオオオ!」」」


冬眠から目覚めた熊は非常に腹が減って危険なようだ。



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