21 グルドニア王国歴史450年 銀狼
1
「がっ、うう……」
ガージャが目を覚ました。
ガージャは戦闘の負傷により死んでもおかしくない状態だった。
たが、先の戦闘でデニッシュ同様に倒した魔獣から『存在の力』が流れていたため身体能力が向上、体力が上がったことでギリギリ一命を止めていた。
「動け……ない」
ガージャは目を開けることはできたが、身体は動かなかった。負傷したせいもあるが、『存在の力』を受け入れた際は、身体の自由が利きづらくなる。
これは、急激な身体向上の変化に休養が必要だからだといわれている。
チラチラ
空からは愁いを帯びたように雪が下りてきた。
水分を含んだ重く、冷たさのある雪だった。
キャハハハハハハハ、キャハハハハハハハ
「なんだ……あれは」
雪の隙間から、怒声と不気味な笑い声と共に一人の剣を振るう銀髪の獣の姿が見えた。
スパスパスパスパ
デニッシュの剣は荒々しくも静かな剣であった。
いや、強者であるガージャから見たデニッシュはまるで何かに取り憑かれたような、剛と柔が酷く調和の取れていないような歪な剣であった。
「ガアアアアアア、フシュー! フシュー! 」
デニッシュは全身に返り血を浴びながらも二刀の剣で魔獣を屠っていく。体を無理やりに動かして可動域の限界により、筋や腱は悲鳴を上げていたが今のデニッシュには自身の体の状態など関係なかった。
体を焼くような業火すら生温い怒りと、剣を振るう快楽が入り混じったような解放感はただただ血を求めた。
「「「ぎゃわん」」」
魔獣も瞬く間に数が減っていく。
百近くいた魔獣はすでに十数体の大型魔獣を残すだけとなった。
「ハシュー、フシュー」
飢えた狼の腹は膨れない。殺しても、殺しても殺し足りない。
「はは、銀狼とはよく言ったもんだ。これじゃあ、どっちが魔獣か分からないじゃねーか」
ガージャは怯えていた。今は味方であるデニッシュに怯えた。
デニッシュの姿に、獣王ガルルの姿を連想した。
いるのだ人知の理を超えた。物差しでは測れない怪物が……
スパッツ
「ぎゃん」
デニッシュが最後の魔獣の首を屠った。
ピィー
それと同時に何処からか笛の音が聞こえた。
2
「グルアアァァァァァ! 」
何処からか大地すら震えあがるような雄たけびが聞こえた。
その雄叫びが合図だったのだろう。
魔獣からドロップした魔石が輝き出した。
パリン
魔石が四散したと思いきやそこから大型魔獣である魔熊が出現した。
その現象は魔猿や魔虎、魔牛といった個体の違った魔石からも魔熊が生成されたのだ。
デニッシュを囲むようにしておよそ三百体の魔熊がドロップした魔石より生成された。
魔熊は大型魔獣に指定されており、討伐に推奨される騎士は五人~十人、冒険者であれば銀級でも上位とされている。
「ガルラアアアア」
その叫びで魔熊たちは列をなした。
ドシン、ドシン
地響きが聞こえるほうから魔熊たちが道を開けて頭を垂れる。
「なんだ、あのデカい熊は……まさか、鬼熊フューネラルか」
ガージャが体長十メートルはあろう紅蓮大熊を視認した。
フューネラルは熊の魔獣であるがその体長から超大型級に属する。
背には三本の氷柱のような魔石が突き刺さっているかのように、生えている。
だが、フューネラルの本当の恐ろしさはその戦闘力ではない。
「グルゥ! 」
フューネラルが一声唸る。
すると、十体近くの魔熊がフューネラルに近づき四つん這いとなり土台をつくる。
フューネラルは、まるで椅子となった魔熊達に腰掛ける。
「ガグガグガグガグガグ! 」
フューネラルはご機嫌である。
フューネラルはこのように、魔石から生成した魔熊を支配に置くことができる。
魔獣の軍団を作ってしまう魔獣である。
魔獣大行進ではかなり相性が良い。
故に、個としての戦闘力は厄災級に一歩及ばずだが、軍団を統率するその能力は、単騎の竜より厄介である。
「グルゥ! 」
フューネラルが唸る。
魔熊達が標的であるデニッシュを注視する。
キャハハハハハハハハ
巡剣が笑う。
その笑い声は「もっともっと遊ぼう」といっているようである。
「ハハハッ、そうだよなぁ、それくらいやらなきゃなぁ、一回殺したくらいでは、私の騎士達の無念も晴れないよなぁ」
デニッシュが再び二刀流を構えた。
「ガルルオオオオオ! 」
フューネラルの雄叫びと共に、パーティーが始まった。




