大人の嗜み
外伝が盛り上がっているようで、本編が喰われないように頑張らないと!
皆さん、主役はモブじゃないですからね!
ちょっと、文章くどいですがラガービール飲みながら書いてるのでご容赦を 笑
1
「暴風」
ディックはボールマンに内緒で【コマンド】〖必中〗、〖捨て身〗を使った。魔法が発現するコンマ数秒の間に演算をかける。もう、持ち得る手札はない。
この一撃必殺の槍は外せない。
ディックの演算は完璧な…はずだった。
様々な事象が重なったのだろう。
この怪物が神話の時代より始めて、慣れない陸上に歩を進めたこと
怪物の左目や各部位がモブ達の救済により傷つき、先ほどの《竜巻》により致命傷にはほど遠いが万全な状態ではなかったこと
シーランドの身体に、ランベルトの独自魔術による滑りがまだ残っていたこと
アーモンドと同じく、水遊びと砂遊びによる砂浜が足を取られやすい状態であったこと
ディックの演算の数式にこれらの〖環境要因〗の記入がなかったこと
天上の神々は残酷だ
海の王は、ウェンリーゼの陸の洗礼を受けた
ウェンリーゼの王は神殺しの光の矢を投擲した。
時に逆らった大罪人の精算は終わらない
ビジビシビシ
何かが朽ちる音がする。
放たれた神殺しの矢は海の王を捉えることなく、ウェンリーゼの薄暗い空を貫いた。
後に残ったのは、音を立てて荒れ果てた右腕と杖を失くした〖裸の王様〗だった。
ランベルトの眼鏡が予測した未来通り、彼らに二発目はなかった。
2
「外した…か」
ボールマンは残った動かない左腕を垂らし、ディックの行方を追う。
的を外したディックは途中で軌道を修正しようとするが時すでに遅し、《暴風》の勢いは天上の神々の世界まで届きそうだ。
天界の女神たちは男達の後ろに隠れた。
神殺しの矢はその名の通り、神をも傷つける厄災だ。
武神は一歩前に出て受け止める気満々だ。
武神は久しぶりにワクワクしている。
バアアアーン
ディックは苦肉の策で、《暴風》を薄暗くなってきた空に向けて発現した。二つの月は安堵したように輝きはじめた。ディックとボールマンや仲間達の想いは、暴れ狂う無慈悲な風と共にウェンリーゼの風として還っていった。
美の女神はその風の叫びを聴き、胸を締め付けられた。
その余波は地上に到達し神の怒りに相応しく、海と大地がざわつき揺れた。
シーランドは、その怒りに身体を屈め赦しを乞う。
怒りを招いた張本人は、数十年振りに石碑に吹き飛ばされた。石碑は、かつての泣き虫少年を受け止めたが…以前彼を助けてくれた魔法の杖は遥か彼方だ。幸いにも今回は、ガキンにはならなかったようだが、見るからに立つのもやっとであろう。
海の水面は揺れたが、潮の流れは未だに変わらない。
神々の怒りが過ぎ去った後に
「ガラ、ガラ、ガララララララ」
シーランドは、母なる海と水の女神に祝福を返した。この数千年の間に、このような楽しい〖祭典〗は始めてだったと…母達に感謝と祝福を唄う。
海と水の女神は、我が子の様子に嬉しさが全くないわけではない。だか、この幼子は少々やりすぎた。〖海王神祭典〗は本来、迷える魂の救済であり、霊を増やすものではない。
シーランドは、石碑にもたれ掛かりながらも立とうとしている〖宿敵〗を見つめた。そして、残った右目で涙を流した。
それは、一体どんな感情だったのだろう。この祭りを終わらせなければならない侘しさだったのだろうか…
自身の傷の痛みであったのだろうか…
それとも、自分を獲物として狩りを行っていた宿敵に対する遅れてきた、〖恐怖〗であったのだろうか…
ガサッ
ボールマンが立ち上がった。彼は自身の背を石碑に託し、震える足で立ち上がる。彼を支え続けてくれた魔法の杖はここにはない。その魔法を掴む右腕すらない。
記録をしていたハイケンは、ボールマンの肩を支えたい。しかし、ハイケンは記録しかしない。安全な場所で、この主の勇姿を次の世代に繋げるために…
ましてハイケンは戦闘機械人形ではない、それは主が平和を願った人形の象徴であり、主の夢でもあるのだから…
彼は自分が足手まといであると、自身の演算が証明している。
シーランドは、致命傷ではないがボロボロだ。
神々ですら、自身の眷属がこのような姿になろうとは想像しなかったであろう。
ボールマンは、致命傷でありボロボロだ。
禁忌に触れ、無理矢理に延命し若くしたその偽物の誓いによる身体は、あと少しで失くした右腕と同じく朽ち果てるであろう。
神々は容易に予測してい出来ていた。そして確信していた。ボールマン達の末路を…神々が彼にしてやれることはもはや何もない。
ボールマンはシーランドを見つめる。睨むわけではない。見つめている。
シーランドもボールマンを見つめる。既にその瞳の涙は渇き、何処までも澄んだ母と同じ海と水のように青く深く哀しみを写している。
哀しい
お互いに哀しい目をしている。
二人は見つめ合い惹かれ合う。
時の女神は地上の時間を止めることは出来ない。
たが、見つめ合う二人の王は、絵画のように時間が止まったようだった。
「ガラ、ガラ、ガラ」
時が動き出した。シーランドは、いよいよ祭典を終わらせようと、傷ついた口を開く。そのノコギリ歯は幾分丸みを帯びていた。
シーランドは、神々に感謝を込め宿敵を口に運ぼうとその長い脊椎を伸ばす。これは、遊びではなく祭りをはじめたシーランドのケジメだ。気高き海の王は、誇り高きウェンリーゼの王に敬意を払わなければならない。
せめて痛みの無いように刹那の間に…
3
その時、招待状を持たない余所者がやって来た。その余所者は、王族のようで最低限の【マナー】として帯刀しておらず。足音を立てずにフラフラと、絵画の中に迷い込んできた。
酔っぱらってでもいるのだろうか。
高貴なる血筋であろうと、お子様に【アルコール】はまだ早い。
「海王神祭典」は大人の催しであり、子供は参加出来ない。ましてや、その入場料は命という【チップ】が必要だ。お子様の遊びではない。
幼き頃より、その少年を見守ってきた時の女神は理解に苦しむ。子どもは早く、安全な巣へ帰り早く眠りなさいと…
大神は時の女神の肩を叩き、そっと耳打ちする。古来より、十の年月を二回りしないと大人として認められなかった。
だだし、現代では十と八の年月を過ぎた人種は【成人】と呼ばれたようだ。
この〖銀狼〗と呼ばれた成人は少年の頃から既に酒を飲み、猿と踊り、猫を手懐け、西と東の姫君を囲っている。ましてや、この狼は既に余所者の王子ではなく、正真正銘〖浜ッ子〗のようだ。
それにこの浜ッ子は、十の年月が回った日より東の姫君の美しさに酔いしれていたようだ。
この狼は一日として、彼の姫君に酔わない日はなかった。
全くもって武神と大神が呆れるほどの、相当の酒飲みだ。
狼は…その空を曇らせる訳にはいかない。
その美しい空を求めたおかげで、この獣は温かいぬくもりのある巣を手に入れたのだから。
狼は今日もいつも通りに温かい巣に帰り、いつものように酒を飲み干し、酔わなければならない。
そして、美しい子守唄を聴かなくてはならない。もう一人の命と幸せな夢をみるために…
狼は石碑に供えてあったパンを見る。随分とくたびれたパンだ。だが、とても味わいがありそうなパンだ。
あぁ、そうだ、お土産に持ち帰ろう。
彼の女神はくたびれたパンを食べはしないが、いつも大事そうに眺めていたのだから、狼が嫉妬するほどに…きっと喜んでくれるだろう。
そのパンを巣穴に持ち帰り、今日も皆で唄を唄うのだ。
先約がいたようだか、その余所者はパンに負けず劣らずくたびれている。随分と他のパンを食い散らかしたのだろう。見るからに腹が膨れている。
一つくらい譲ってもらおう。
狼の口から血が滴る。
譲らぬというならば、奪えばいい。この血は古来より、欲しいものはすべて手に入れてきたのだから…
この血はかつて、大陸全土に美しい血の雨を降らせ、賢き竜すらも喰らった気高き血なのだから…
その瞳が血の色に染まる。
海蛇ごときが邪魔を出来るはずもあるまい。
この獣は余所者の前に立ちはだかり、その牙をたて絵画を喰い破る。
まだまだ酒が足りない。
この食い意地の張った〖銀狼〗は、まだまだ飲み足りないようだ。
チャリン
誰かがカウンターに【チップ】を置いた。古来より、神々からの施しは厳禁である。
時の女神はいう、これは施しではないと
いつの間にか大人になってしまった、可愛い坊やへの【成人祝い】であると
死神は珍しく、納得した表情だった。その手には鎌ではなく、【アーティファクト】となった酒を飲むための杯を傾けていた。
コトッ
死神の前に【サービス】が置かれた。どうやら女神達が先ほど焼いたパンのようだ。少々歪な形だが、焼きたてである。
死神は神話の時代よりはじめての〖好意〗である、その味わいのある幸せを噛みしめた。
二つの月が重なりあう今宵、銀狼はまだ眠らない
ちょいリスペクトさせて頂きました。
これも酒のせいということで 笑
アーモンド君、僕はビール一杯分の幸せで十分ですよ!
給料日なので普段買えないラガーを!笑
モブ達の装備の挿し絵、原案者様より頂いたので休みのうちに追加しておきます。
後で外伝のリンク貼れたら貼ります。
読者の方々、いつも夜遅くに読んでくれありがとうございます。
「機械人形がみる夢は~モブ達の救済(海王神祭典 外伝)」
https://ncode.syosetu.com/n1447id/
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