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9 グルドニア王国歴史450年 東の臣下

皆様お忘れかもしれませんが、ハンチングは第一部に出てきたウェンリーゼの医術士ジョーの父です。

「命の選択」参照です。

1

「ハンチング……ベルリン家の名代として、戦争に参加した実績は十分に果たした。元々、お前は今回の遠征も乗り気ではなかっただろう」

デニッシュがハンチングを諭す。


「……ハンサムです」

「……なんだって? 」

「……殿下のお心に惚れました。お供させて下さい」

ハンチングがデニッシュと共に戦いたいという。


「……ハンチング、それは出来ない。この場で一番安定した火力を出せるのはお前だ。撤退にはジュエルだけではなく、怪我人や砦の使用人もいる。ジョルジはジュエルの護衛で手が離せなくなる。道中には、野良魔獣もいるだろう。非戦闘員を守れるのは、弓矢のような遠距離攻撃に特化した手練れが必要だ」

「しかし……」

「ハンチング、確か、春には、子が生まれるそうではないか」

「……私はまだ家督をついではおりません。兄弟(ベンジャミン)もおります。家には何も問題はありません」

「そうではない。新たな命の芽吹きだ。神々の祝福があってこその授かり物だ。そんなめでたきことに一つお節介を焼かせてくれないか」

「お節介ですか」

「ハンチング、そなたの子が男であったなら()()()と名付けるがいい。偉大なる祖先にして、『我竜誇ジョン』からとったものだ」

「殿下から、お名前を頂けると……」


ハンチングは驚いた。

王族が名を授けるということは、基本的に臣下にすると同義である。


さらには、自身の子以外で名を授けることができるのは、男女一名ずつと王家の決まりがある。


そのために、普通であれば上位者や主君などから、騎士誓いの場で新たな名付けをされることが一般的である。

ある意味では、デニッシュに将来的に娘ができた場合は、婚姻関係を結べるということである。


ベルリン伯爵家は商会から財力(援助)により、グルドニア王国に貢献したとして貴族になった家である。


つまりは、元は平民である。

数世代に渡り、貴族との婚姻してきたがいずれも男爵クラスの下位貴族である。

ベルリン家は名目上は伯爵の位であるが、その血統ゆえに他の伯爵、下位の子爵にすら疎んじられることがしばしばあった。

伯爵の位に就いたのも、武功に優れた等ではなく、位が高いほど税を納めなければならないために与えられた()()()()のようなものだ。

おそらくこの集金を納めることができなければ、王家や中央貴族は難癖をつけて、ベルリン家を降格させるだろう。

商会が肥えればまた、昇格させて奪うだろう。

ジワりジワりと()()()()痩せすぎないように...…


だが、仮にここに高位貴族、ましてや王族の血が入ればどうなる。

安易にベルリン家に手を出すハイエナやハゲタカはいなくなる。


仮にジョーが成人するまでにデニッシュに何かあっても、王家が後ろ楯となるのだ。


アートレイの名にかけて……


王族の血。


今のベルリン家は喉から手が出るほど、先祖代々の祈願なのである。


「ハンチング、そなたは私のワガママ(冒険者稼業)に十分に尽くしてくれた。ジョルジ、お前が証人となれ。我、デニッシュ・グルドニアは、ハンチング・ベルリンの新たなる命の芽吹きにジョーと名を授けよう」


「勿体無き……ことにあります……私はハンサムでは、ありませんね」

ハンチングは跪き、尊き名を貰った。

実際ハンチングは、今回の依頼を機に『銀狼』からは抜けるつもりだった。

だが、この地に来てみて血統に劣等感をもったであろう、西の大地の人々に触れた。


豪雪地帯に住む人々は、体は冷たいおもいをしていたが、心暖かき人々であった。


また、先のデニッシュのパフォーマンスに心打たれたのは、ウーゴの兵士や獣人だけではなくハンチングもだった。


ただ、ハンチングは折れた。

なぜなら、ハンチングもまた、父になるのだ。

本音としては、産まれてくる我が子に会いたくない訳がない。


「健やかなれ。ハンチング、私は特別に頭がいいわけでも、弁が立つわけでもない。王族の、王としての資質は低い、兄上に比べれば凡人だ。薬神ハンチング、聖女ジュエル、お前達のような天才が羨ましい」

「殿下、何を」

「多くを救うのは、私のような剣ではない。お前達のような人を癒す手だ……グルドニアを頼むぞ」

「……ご武運を」

ハンチングはそれしか言えなかった。


「ハンチング、ジョルジ、今宵私は、グルドニアの剣ではなく、ただの獣となろう。自分の力をただただ鼓舞したいだけの、天におられる武神様にこの武を捧げよう」

デニッシュがニコリと微笑んだ。



2

ウーゴ領 とある東の村


「それでは失礼致します。食糧難のなかで芋まで頂いてありがとうございます」

「いやねぇ、お兄さん。宿屋なのに対したおもてなしもできないで悪かったねえ」


「いえいえ、おかみさん。この宿がなければ凍え死んでいましたよ。流石に野宿はきついですからね」

青年が外套を羽織りながらいった。


「それにしても、ここから先はまだ大丈夫だと思うけど、戦場も近くなるしウーゴ迷宮もあるからね。この寒さであまりいないと思うけど野良魔獣には気をつけるんだよ」

宿屋のおかみがいった。


「どうしても、お会いしなくてはいけない御方がおりまして、それでは失礼しました」


チャリン


「えっ! 金貨、ちょっと待っとくれ! お兄さんちょっと多すぎだよ。ウチは銀貨三枚目の安宿だよ」


「この時期の食料やワインに、薪は貴重品です。たっぷりの温かいお湯で身体も拭けて天国でした。それに、おかみさんや娘さんの楽しい話しも聞けて、良い一時を送れました」

青年は微笑みながら西へ向かった。


「あっ! お母さん! 昨日のお客さんもう行っちゃったの」

「パーラ、起きるのが相変わらず遅いね」

「だって、戦時下で宿に泊まるのは兵士さんくらいで、しばらく、お客さんなんて来なかったじゃない。しかも、あんなにカッコいい人……」

パーラが頬を赤らめた。


「……パーラ、昨日のお客さんのことは忘れなさい」

おかみが掌の金貨をみながらいう。

「どうしたのよ。お母さん、そんな怖い顔して」


「金髪に、丁寧な言葉遣い、逞しい身体に、使い込まれた剣、ありやぁ、どう見ても冒険者じゃなくてお貴族様だよ。または、戦地を視察にきたお忍びの代官様さ。とても、いい人だったけど基本的に外の貴族様とは、関わっちゃいけない。宿泊名簿も破棄しときな」


「えー! 」

「パーラ」

「はい! 分かったわよ。もう、怖いなぁ。お母さんわ」


パーラは宿泊名簿を破棄した。

ただ、不可抗力で昨日宿泊した青年の名を見てしまった。


「うーん。キーリライトニング? はぁー、何処かの王様みたい。確かに、どうみても平民の名前じゃないわね」


外には西へ西へと、青年の足跡が続いてた。


皆様お忘れかもしれませんが、キーリライトニングはデニッシュの臣下で、ラザア・ウェンリーゼの祖父にあたります。


間章『巡る剣』参照

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