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6 グルドニア王国歴史 450年 グルドニアの心臓

遅くなって申し訳ありません。

1

「ズーイ伯爵領、いや、このウーゴ男爵領は穏やかな領地だ」

デニッシュが皆を見ながらいった。

「緑が芽吹き、水は澄んで、大地は肥えて潤い、ウーゴ男爵を始めとした統治者は自身の身を削り、民達の生活を守っている。領地の書類も見せて貰ったが、この豪雪地帯で、さらに戦時中ありながら飢えに苦しみ亡くなったものはいなかった。目立った犯罪もない。これは、王都では考えられないことだ。改めて見習わなければならない。素晴らしい領だ! マウよ、それは何故だか分かるか」

「へっ……うっ……、分かんないです。……みんな、仲良し、だから……? 」

マウは緊張しながらも、頭をフル回転して精一杯を答えた。


「……凄いな。マウよ! どうやら、そなたには物事の本質を見抜く力があるようだ」

デニッシュが素直にマウを褒める。

「へっ! あっ、はい? 」

「何故に、この領地は素晴らしいのか! それは、皆が仲良し……満たされているからだ」


「「「! ! ! 」」」

「……満たされているですか? 」

皆がデニッシュを見る。


「吟遊詩人が唄った唄に、このような唄があった。遥か東の地では、鳥は四度鳴くと聞く。夏は子の成長に鳴き、秋は様々な実りを与えてくれる自然の寛大さに鳴き、冬は皆で手を取り合い人の情けに鳴き、春は厳しい冬を越えることができた喜びに鳴く。そして、鳥は四季を巡り、新たな生命の息吹に感謝して鳴く」

デニッシュは旅の途中で、酒場や商隊の護衛任務で夜になると、吟遊詩人の唄をよく聞いた。

西へ西へと進めば、進むほど、ズーイ伯爵領にとって馴染みのある唄が多かった。


今では、メロディーも含めてだいたいであるが『銀狼』の皆は歌詞を覚えている。



「おお、殿下、まさか、殿下が雪国の唄をご存じとは」

ウーゴ男爵始め皆は、デニッシュに頭が下がった。中央の貴族からしたら、辺境の田舎の唄など、唄ではなくただの言葉に過ぎない。


デニッシュ殿下は何と博識であるかと、そして、雪国の文化を理解されているのだ。皆は感動した。


ちなみにであるが、デニッシュの学園での学力はさほど高くない。

さらにいうなれば、唄では鳥は五度鳴いている。

皆は感動あまり気付いていない。


「運命神は時にダイスを振らない」

デニッシュはいった。

正直、神殿を統括しているダイヤモンド家のジュエルを前にして、いうべきではないがいった。

「! ! ! 」

「……」

特段、ジュエルは気にしていなかったが、皆は冷や汗をかいた。

ジュエルにとっての最上位の女神は、推しであるフラワー・ウェンリーゼであるからだ。

ちなみに、フラワーの誹謗中傷の場合は、もれなく厄災といわれた『青い怪鳥フェリーチェ』が降臨するであろう。


「今あることは、この目の前にある現実を受け入れることだ。外には五百、いや、それ以上の魔獣がいる。その数は増え続けているだろう」

「「……」」

皆が絶望する。


「奴らは、ウーゴ迷宮から何らかの影響で、溢れた魔獣だろう。今は、奴らの標的は砦の我々だ。だが、我々が……ここを抜かれたらどうなる! ウーゴの先人達が守り抜いてきた豊かな田畑は魔獣に蹂躙され、次代に受け渡すことができなくなる! それはつまり、ウーゴ、ズーイ、グルドニア王国全体が飢えることになる! それにより、グルドニアは今は、息を潜めている隣国の属国となり、我が子孫達は泥水を常に啜るような苦難の道を歩むことになるであろう」

デニッシュは大袈裟に言ったかも知れないが、実際は間違っていない。


ウーゴ領の穀物生産量はグルドニア王国の四割を担っている。

今は戦時下ゆえに生産力は落ち、多少なり中央でも隣国からの輸入に頼っているが、ウーゴ領がグルドニアのある意味では心臓であることには違いない。


グルドニアという大国はかつては、全体で食料生産をしていたが、豊かになるにつれて都市部では産業が盛んとなった。国もそれを奨励したために、中央での食料自給率は大きく低下した。

それに反して西のズーイ伯爵領では食糧生産量が多くなった。


仮に、ウーゴ領での生産が止まった場合は、まずは西のズーイ伯爵領において補給が出来ずに戦線は崩壊し、国境は大きく東へと後退するだろう。

西の民達は、東へと流れざるを得ないが東へと進めば進むほどに食糧難となる。

また、中央には西のズーイ伯爵領の民達を受け入れる器がない。

食糧は、他国からの輸入に頼らざるを得なくなる。法外な値段で……

取引が出来ればまだいい。

取引が出来ない場合は、食糧難の飢饉によって国は衰退し、容易に侵略される。


グルドニア王国民は、奴隷として犬畜生以下の扱いを受けること……この時代、それが世の常であった。


デニッシュ自身、自分でそこまで考えていたわけではない。

しかし、ウーゴ男爵を初め、ジョルジにハンチング、ジュエルはウーゴ男爵領の重要性を理解していた。

さらには、兵士達も本能で分かっていた。

実際に徴兵された兵士達の祖父の代では、大飢饉によって餓死者が増え、女たちは身売りをしなければならないほどだったと、伝え聞いていた。


「「「……」」」

皆はデニッシュの言葉を聞いた。

絶望していた兵士達の目が生き返ってくる。


「皆、話しは変わるが【パフォーマンス】という古代語を知っているか」

デニッシュがおもむろに短剣を取り出した。





なるべく一週間に一話は書けるように努力します。

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