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4 グルドニア王国歴史450年 無口な空

ウーゴ砦内


「ぐっがあぁぁぁ」

ウーゴ砦に入った獣人は重傷者が多くはあるが、周りをグルドニア兵士に囲まれている。

獣人達の中には《回復》持ちはいなかった。

『森の恵み』といわれる獣人特有の傷薬はあったが、怪我人に対しての数が足りない。


「油断するな! この蛮族どもはいつ、襲ってくるか分からんからな!」

グルドニア兵士も実は余裕が無かった。

一時的に『魔獣避け』で魔獣を後退させたものの、砦の周りには五百を超える魔獣に包囲されているのだ。


人は心に余裕がないと、目先のことばかり気にしてしまう。


「誇り高きギの一族を愚弄するとは、貴様ら人種は頭ばかり回るひ弱な種族風情が、噛み殺してやるガルルルゥ」


互いに距離は保っているが、先まで敵同士であった軍は牽制しあっている。


互いに緊張して余裕がないのだ。

風船が破裂する一歩手前の状態である。


「おまえ達、何をしている! 刺激するなとあれほどいったであろうが! 」

ウーゴ男爵が兵士に声をかける。

デニッシュとジュエルがウーゴ男爵に連れられてやってきた。


「ほう、その威勢の良さ。貴様がここの大将か」

ガージャがウーゴ男爵を睨み付けた。

「ああ、私が先ほどまでここの()()()()()()ウーゴ・アワだ。国王陛下より男爵の位を頂いている。そなたが獣王の右腕『牙帝ガージャ』でよかったかな」

「ああ、俺がガージャだ。嬉しいぜ俺の名を知っているとはな。まず、先ず砦に入れてくれたことに礼を言おう。だが、我々は貴様らの見せ物(捕虜)になるつもりはない。どういう考えがあって、敵である我々を引き入れたのかは分からんが」

ガージャが牙を見せながら喋る。

他の獣人達も、ガージャの後ろで構えを見せる。

その姿はその気になれば一戦構えるつもりである。


「ふん! 虚勢をはりおってからに、残念だが貴様らの扱いについては御方に委ねている」

「誰だソイツは、片方は聖女か? クンクン、この臭いは先の撤退を援護した剣士だな」

ガージャがウーゴ男爵の後ろにいたフードつきの外套を被っていた人物に視線を送る。


「随分と鼻がいいのだな」

「狼さんですからね」

デニッシュとジュエルがフードを取り素顔を出した。


「聖女ジュエル、久しぶりだな。停戦協定以来だな。あの時の娘が大きくなったものだ。まさか、お前が戦争に参加していたとはな」

「ご無沙汰しておりました。ガージャ様、このような場でお会いしたことは残念です。しかし、生きてあなた様とお会いできたこと運命神に感謝を」

ジュエルが略式の祈りを捧げた。

この行為は暗に争うつもりはないという意味でもあった。

「お前には、礼をいう。人種に情けをかけられたのは癪だがお前からの情けは受けよう」

ガージャの一言で両軍の緊張は和らいだ。


砦の外にいる魔獣は『魔獣避けの香』により一定の距離を保ってはいるが、ウーゴ迷宮から溢れた魔獣は数を増している。


両軍ともにそのような状況で、息をするだけでも神経をすり減らしていたのだ。


「して、我々を助けてどうするつもりだ」

「それにつきましてはこちらの御方に」

ジュエルがデニッシュの後ろに控えた。


「貴様は? 嗅いだことのある臭いだな。確か、グルドニアの王宮でだ」

ガージャがデニッシュの臭いに集中する。

今は抑えているが、先の戦場を包んだ殺気は間違いなくこいつであると。デニッシュからは、強者の臭いが漂っていた。


「やはり鼻がいいな。あまりにも、ジュエルが有名過ぎて知らんかもしれんが、自己紹介が遅れたな。グルドニア王国第二王子デニッシュ・グルドニアだ」


「「「「! ! ! 」」」」

場が静まり返った。


「……殿下よろしいのですか」

ウーゴ男爵がまずいなといった。

「ウーゴ男爵」

デニッシュがウーゴ男爵の耳元で何かを喋る。

「かしこまりました。殿下のお心のままに」

ウーゴ男爵がデニッシュに礼を取る。

ウーゴ砦の最上位者であるウーゴ男爵が、礼を取った瞬間に皆が理解した。



デニッシュは聖女ジュエルよりは、国際的な知名度こそ低いものの次期グルドニア王国王位に争いでも上位に位置する。


さらには、非公式ではあるが聖女ジュエルとの婚約を控えていた。


普通は後方の補給とはいえ、最前線のこのような場所にはこない。通常であれば、中央の子飼いの家の騎士を派遣すれば名誉も守られるものだ。


さらにはデニッシュは王位争いで上位者はいつの世も暗殺対象となっていた。

自身の兄弟や叔父、叔母や従兄弟と親類縁者は笑顔を張り付けた敵である。


そのために、無用な情報漏洩を避けるためデニッシュのことは一部の貴族しか正体を明かしていなかったのだ。

「王子デニッシュ? ……貴様が? 」

ガージャがデニッシュを値踏みするように見る。

銀髪の剣士、グルドニア王国では不思議なことにアートレイに連なるものは、銀髪の子が生まれる。

世代が変わり、一部分だけ銀髪や色の濃さもあり様々である。


「銀髪だぁぁぁ! 」

「まさしく、王子様だ」

「王子様がこのような辺境に足を運んで下さった」

「ありがや、ありがや」

グルドニア兵達は跪拝した。

広場に集まっていた商人や料理人達もデニッシュにひれ伏す。


ズーイ領は辺境ゆえに、中央の貴族との付き合いが希薄であった。基本的には自治領のようなものであり、嗜好品以外はほぼ自給自足できている。

それ故に、伯爵家であるが王家からの婚姻はこの四半世紀なかった。


代々、領主が武と食料生産以外に興味がなかったこともその一因ではある。


そのため、辺境の皆は自領に誇りをもちつつ、少なからず中央の王都に憧れを持つ。


デニッシュは外套を脱ぎ捨てた。

デニッシュの銀髪は非常に綺麗でいて混じりっ気がない色である。


「なっ! これはまさか! 『暴炎竜バルドランドの皮鎧』か! 」

皆が驚く。


外套の下には王家の秘宝の一つである『バルドランドの皮鎧』をつけていた。

それは、竜を見たことが者達でもそれが一目でただ者でないと分かるほどに真っ赤な鎧であった。


デニッシュが皆を見た。

皆がデニッシュを見て、デニッシュの言葉を待っていた。


空ですら静まり返っていた。


「私が、グルドニア王国第二王子デニッシュ・グルドニアだ」

デニッシュが良く通る声で話し始めた。

次回はヴァリラート様と構想中です。

一月中には頑張ります。

今日も読んで頂きありがとうございます。


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