17 エピローグ3
1
二十階層に寄って地上に行ってきます
研究所のテーブルの上には、クリッドの書き置きがあった。
『まさか、パンドラの迷宮を逆走! ? 』
(でも、四十九階層って確か無理ゲーだったんじゃ)
ユーズレス達は今、秘密の部屋にいる。
ここから、地上に行くには五十階層から四十九、四十八階層と上に上がっていかなければならない。
『不味いです。四十九階層は特別で、二極鳥が出現します』
(二極鳥ってどんな魔獣なんだ? )
『二極鳥は上下に頚がある鳥です。飛行能力はありませんが全長は三メートルはあり、上下からの噛み付きは鋼鉄も噛み千切ります。さらには、炎と氷のブレスも吹いてくるので非常に厄介な魔獣なんです。一流の冒険者でもソロでは潔く撤退します』
(それって、一人じゃ不味いんじゃない)
『それだけではないんです。その……四十九階層の難易度が高いのは、五十階層に続く手前の階段に部屋があるのです』
(部屋? 魔獣を寄せ付けないセーフハウスみたいな? )
『普通は、そう考えますよね。ですが、その部屋は、開けたら最後の魔獣血肉祭、百体の二極鳥が出現します』
(ぶっ! 百体って、クリアさせる気ないじゃないか)
『だから、パンドラの迷宮は元々、秘密の部屋を守る防御機構だから踏破させる設計にはなっていないのです』
(下手したら、鉄骨竜のオール兄さんより厄介なんじゃないか。急いで加勢に行かないと)
『様子を見るに、ここを出たのが一週間前と仮定したら、もしかしたら……一旦、迷宮の映像を確認しましょう』
補助電脳ガードがビックデーターから、パンドラの迷宮の映像をピックアップした。
そこには、野性を解放したクリッドが映っていた。
時系列からして一週間前に、魔獣部屋に入った映像である。
「「「ガァァ! ガァァ! 」」」
二極鳥の群れが雄叫びをあげながら、クリッドを威嚇する。
その声からは、どうやって遊ぼうかなとでも言っているようだ。
クリッドが絶剣と夢剣を抜く。
キャハハハハハハハハハハハ
久方ぶりの獲物に剣は歓喜している。
クリッドがブツブツと何かを話す。
音声は聞き取れなかったが、ユーズレスと補助電脳ガードはクリッドの唇から言葉を読んだ。
「「ガァァ? 」」
映像越しではあるが、水面に雫が落ちたような静かなプレッシャーが部屋を支配する。
クリッドの両の瞳が深紅に染まる。
「ああ、理解しました。鳥さん方、申し訳ありませんが、お付き合い下さいね」
熟睡から目を覚ました羊が、満足そうに嗤った。
2
ヒュン、ヒュン
二本の剣は、まるで互いを競い合うようかのようにしゃむしゃに振られる。
キャハハハハハハハハハハハ
絶剣と夢剣の、子供のような無邪気な笑い声は、部屋に木霊した。
ヒュン、ヒュン
「ガァ!ガァァ」
二極鳥の首が跳び、血飛沫が舞う。
クリッドの足元は、大量の血が足場を濡らしている。
中には魔石やドロップ品になった個体もあるがクリッドはまるで気にもせずに、ひたすらに剣を振るう。
高い物理魔法耐性のある自慢の燕尾服は、ボロボロである。
「違う! 違う! こうじゃない」
キャハハハハハハハハハハハ
クリッドは何かをなぞるかのように、剣を振るう。
「「ガァァ! ガァァ! 」」
知能が高い二極鳥は、始めこそクリッドをオモチャ扱いしていたが、既に半数近くがやられている。
二極鳥の戦い方が変わった。
群れとしての各々の役割を全うするかのような陣形を取り始めた。
二極鳥達は、後衛は火と氷のブレスを交互に吹き。
クリッドが避けながらブレスを迎撃した隙に、前衛が接近戦を仕掛ける。
次第にクリッドの被弾が増えていく。
数の暴力
戦場において最も効率的かつ手堅い戦法である。
クリッドが舌をだし自身の唇についた血を舐めとる。
口腔内に鉄を混じらせたような血の味を噛み締める。
「ああ、喉が渇いた。メロンクリームソーダが飲みたいですね」
クリッドが近くに落ちていた。
氷の塊を口に入れる。
二極鳥のブレスによる破片であろう。
「ハッハハッハハッハハッハハッハ! 」
クリッドが一息つくように不気味に笑う。
「ガァァ?」
油断していたであろう前衛の二体の二極鳥の首が跳ぶ。
二体は剣が振るわれたことすら知覚できなかったようだ。
「不味いメエェェェェ! 」
クリッドが何に怒ったのか、それでいて美しい剣技が描かれる。
クリッドの無双は止まらない。
クリッドは剣を振るった。
それはいつしか流れるような、舞いのようであった。
真なる悪魔クリムゾンレッド
魔獣血肉祭
単騎で攻略
パンドラの迷宮におそらく今後、更新されないであろう伝説が記録された。
終わりませんでした。




