ウェンリーゼの首席と最難関の試練
バトルはやっぱり難しいのよね。
ディックが非常に頑張ってますよ。
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「ディック、〖再動〗だ。私の魔力もすべて使っていい」
ボールマンは、使い物にならない腕の中にあるディックを見ながらいう。
『了解しました。コマンド〖再動〗を使用します』
ディックの杖が光る。ボールマンの身体からは、魔力が吸われたためか両の腕の複雑骨折も相まって、全身から冷や汗が噴き出す。
『〖再動〗により、この四十年間蓄積した大気中の魔力と主の魔力により【エネルギー残量】が約13%となりました』
ディックは先ほどから、主人であるボールマンにしか聞こえない声を出す。
「ディック、右腕だけでいい、最低でも照準が定まるようにしろ」
ボールマンのガゴンとゴキンは顔には出さないがツラいらしい。
『警告、警告、ご主人様はすでに本日、〖儀誓薬〗を使用し【細胞分裂】が限界を越えております。《回復》を使用することで、右腕が枯れ果ててしまう恐れがあります』
ディックは、ボールマンにしか聴こえない魔力波長で答える。その波長は、若干震えているように感じる。
「数分持てばいい、枯れるギリギリを見極めろ…できるな」
ボールマンはかつてないほど、ディックにキツイ口調でいう。
『機械は人の為に、主の望みを叶えることが私の創造主ユフト師への親孝行であります。〖演算〗を開始します』
ディックはカッコつけた。内心は冷や汗だ。自分でいっておいてなんだが、演算はほとんど補助に頼っていた彼は、神話の時代より一番、頭を使った。
『ピー、ピー、ピー』
ディックは、ボロボロでずぶ濡れのボールマンを見る。
(きっとボクはこの日のために生まれてきたのかな…ありがとう、オトウサン)
だが、この試練を指を咥えて待つほど海の怪物は甘くない。
シーランドは、シロにやられてボロボロになった口から初級魔術《水球》を複数放つ。
海の雨が、ボールマンに降り注ぐ。
「《砂遊戯》、《粘度》」
ランベルトは、空中に〖夜森の杖〗で杖回しをしながら、再び美しい円を描く。
ボールマンの前方に、海水で濡れた密度の高い砂の壁ができる。
また、シーランドの《水球》はランベルトの《粘度》によって粘性が中等度になり威力が半減する。
べちゃ、べちゃ、べちゃ、
シーランドの《水球》は、砂の壁に阻まれ接着剤のように砂に吸収される。
相も変わらず、ランベルトの魔術は粘り気があり、性質もタチが悪そうだ。大陸広といえど、複数の上級・中級魔術を多重発現できる魔術師は、そう多くはないだろう。
しつこいようだが、ランベルトは非常に優秀だ。
海蛇はどうやら、陸には上がりたくないようで海の浅瀬より〖水遊び〗をしてくる。
背鰭が青く発光する。
ランベルトは〖ラザアのファーストキッス〗である眼鏡で《鑑定》する。常に、シーランドの状態と魔術が発現しそうな波を制し、勘と推察により予め準備詠唱を済ませ、ほぼ全ての術を〖レジスト〗する。
バシャッ、バシュ、バシャッ
べちゃ、べちゃ、べちゃ
水遊びと砂遊びの応酬が飛び交う。
だが、無造作に術を放つシーランドと、かつてない程の集中により先を読みボールマンを守り最善手を打ち続けるランベルトでは、気力、体力、魔力においても、明らかに分が悪い。この【シーソーゲーム】は長くはないであろう。
『ピー、ピー、ピー』
ディックの演算はまだ終わらない。
しびれを切らした武神は、何とかディックの計算を手伝ってやりたい。
だが、武神はその場にいた神々皆に手足を、死神には首を鎌の柄で押さえ付けられた。。大神もホッとしている。武神は、計算が苦手なのだろうか?昔に何かあったのだろうか?
『ピー、ビィー、ビィー』
ディックが悲鳴をあげている。
【オーバーヒート】直前だ。
もっと勉強しておけばよかった。誰もが一生に一度は思うことだ。
ディックは反省はするが、後悔はしない。ディックは人知れず、【コマンド】〖根性〗を使った。杖が光を帯びる。気合いは十分に入ったようだ。
武神は、自分が気合いをいれたかったようでガッカリしている。神々が武神の拘束を解く。この場では、アウェイの海と水の女神ですら、武神に呆れている。
初めての試練は
『ビィー、ビィー、ピッ、演算終了です。【コマンド】〖手かげん〗の自己ダウンロードに成功しました』
ちゃんと出来たようだ。
「よくやった、ディック」
ディックは非常に嬉しい。
神々も安堵の表情だ。
本番はここからだ。
「手かげん、《治癒》《回復》」
ボールマンの右手が、筋が収縮する。
ディックは人知れず【コマンド】〖集中〗〖熱血〗を使う。
その魔法の杖からの温かい光は、ボールマンの感覚受容器であるポリモーダル受容器を刺激し、脳まで【シグナル】を送る。
【シグナル】は【フィードバック】【フィードフォワード】を介し、ボールマンの傷みを治癒していく。この五十年の痛みとともに…
その温かな光は…
骨折を転移させぬように
骨膜、緻密質、海綿質に微細な刺激を送り
不自然にならぬように仮骨の骨線を形成し
一本一本の神経を繋ぎ合わせて
例え数分でも筋の収縮が正常に出来るように、【ミオシン】【アクチン】の駆動タンパク質を、血液の循環を、そして皮下組織と表皮の傷を…
最高には程遠いが最適な動作で、魔法の杖を再び振れるように、ディックは針の穴に糸を通すより数億倍難しいこの【オーダー】を
「よし、まあまあだ」
やり遂げることが出来た。
ディックは初めて試練で満点をとった。
ザァァ-、ザァァ-、
波の音の先には、
神々公認の試練を終えた二人が見た光景は…
獲物を咥えたシーランドの姿があった。
まだ、潮の流れはまあまあに変わらないようだ
あの時やっておけば!
でも何度タイムループしてもきっと自分は同じようにやるんでしょうねと…笑
そういえば初「いいね」がつきました!
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