5 無双状態五年間
1
ボードゲームにはクリッドを始め、機械達はハマった。
悪魔と機械は基本的に睡眠を必要としないため、三日間完徹してしまった。
『……クリ……ドの……カラタに、悪い』
『そうですね。私達はともかく、クリッドは迷宮の時も基本的に毎日睡眠はとっていました』
「みんな心配しすぎです。悪魔は基本的に睡眠はいらないのです。寝るときは百年位一気に寝ますが」
(確かに、規則正しい生活あっての遊びだ! )
「ユーズ兄上も心配しすぎですよ」
『クリッド、【郷に入れば郷に従え】なる古代語があります。ここは悪魔でいうところの人間界、人間社会を学びに来たのならなおのこと、人間の暮らしをするのが一つの学びになるのではないでしょうか』
「そういわれると……」
(クリッド、口ではガードには勝てないぞ)
『クリ……ド、寝る』
話し合った末に、クリッドには最低でも一日、七時間睡眠を決まりとした。
始めはブツブツ言っていたクリッドであったが、アペンドに風呂に入れられて、ブラッシングしてからのミルクの流れで寝た。
アペンドは、外部メモリーから子守唄も用意していたが、披露する必要はなかったのが、少しだけ残念だった。
2
「おはようございますメエェェェェ」
クリッドはぐっすり寝た。
アペンドは、クリッドの着替えを手伝った。
クリッドが寝ている間に、クリーニングをしてシャツがピシッとしている。
「おおー! シャキ、シャキ」
アペンドは朝食を作った。
カプチーノの表面には泡でリーフを書いた。
クリッドが酷く感動していた。
『クリ……ド、起きたら、絵を描く、たから、毎日、……寝る』
クリッドはその日からアペンドをママと言い始めた。
始めは嫌がっていたアペンドであったが、別に否定はしなかった。
ユーズレスと補助電脳ガードは、ちょっと寂しそうだった。
いつの間にか、一週間が過ぎた。
クリッド今、図書館で読書にハマっている。
ニンゲンの歴史を学ぼうと一生懸命である。
「この漫画は面白いメェ! 手が止まらないメェ! ママー! メロンクリームソーダとポップコーンおかわりメェ」
『……り……』
アペンドが了解の意を示す。
『どうしてこうなってしまったのでしょうか』
(甘やかしすぎた)
今、ユーズレスと補助電脳ガードの前にはソファーに寝っ転がりながらサイドテーブルのおやつを貪り、ダラダラと漫画を読んでいる山羊がいた。
始めは、クリッドも人間社会の歴史を学ぶために歴史書の活字と格闘していた。
しかし、五分で寝てしまった。
そこで、補助電脳ガードはユーズレスと講義をすることにした。
始めはワクワクと好奇心旺盛なクリッドであったが、三分で寝た。
『レキシ……マンガ……アニメ……映画……見……セル』
アペンドがまずは興味を持たせようと、歴史物や戦記物の映像を見せた。
クリッドはハマった。
相変わらず、活字には弱かったが理解を深めるためにユーズレスがオススメの漫画を選んだ。
今では娯楽感覚で人間社会の歴史を勉強?している。
「やっぱり、ポップコーンのキャラメルフレーバーは最高メェ! あっ! ママ、何か音楽もかけてメェ」
アペンドがクラシック音楽をランダムでかける。
「最高だメエェェェェー。ママ、お昼はハンバーガーのチーズマシマシでよろしくお願いねぇ」
クリッドはバカンスを謳歌していた。
『……』
(……)
ユーズレスと補助電脳ガードはため息をつきながらも一応、勉強しているので様子を見ることにした。
3
十年後
『……クリ……ド、アサ、起きる』
「うーん、さっきまでゲームしてたら眠いメェ、まだまだ寝てるメェ」
『……り……ゴハン、おいとく』
アペンドがテーブルの上に、ベーコンエッグトーストにサラダ、コーンポタージュスープと山羊の絵が泡立つカプチーノを置いた。
アペンドは、初期型の機械人形のために対象者に助言はできるが、怒るという概念はない。
「グウ……グウ……」
クリッドは二度寝した。
クリッドは最近は夜型の生活になった。
最初の一年目は、規則正しい生活をして起きて朝ゴハンを食べたら、二階の運動スペースで環境設定を朝日に設定して疑似景色での人工日光浴をしながら皆で散歩した。
生活が破綻したのは、二年目からだった。
クリッドは、頭のできは良かった。何だかんだで、一年目でクリッドは歴史に関する要点は学んだ。
クリッドの凄いところは、理解力の高さだった。【一を聞いて十を知る】とはまさにクリッドのことをいうのだろう。
難しい問題を出す度に、冷凍庫から新しいオヤツを提供したアペンドの作戦勝ちでもあっただろうが……
二年目からクリッドは「ちょっと休憩だメエェェェェ! 頭の体操が必要だメェぇ」といった。
ユーズレス達も、クリッドの理解力には関心していたので、ご褒美に『コンピューターゲーム』をプレゼントした。
これが堕落の始まりだった。
始めは『人生スゴロク』や『チキチキカエルレース』、『格闘対戦機械人形』、『スポーツ大騒動』等で皆で楽しく遊んでいた。
しかし『迷宮クエスト』シリーズで一人で遊べるゲームでほとんど部屋からでなくなってしまった。
このゲームの悪いところは、迷宮攻略してアイテムを集めていくと、自分で迷宮を制作できるところである。
そのために、迷宮を無限にカスタマイズ出来るし、出現する魔獣も自身で作り出すことが可能なのだ。
正直、飽きるまで終わりがないゲームである。
クリッドは暇さえあればゲームをやり続けた。
単純にいって古来の伝説のプレイヤーといわれたものだけが持つ『廃人』である。
『クリッド、一回ゲームを終りに! 』
「シャチョウ! 今は休憩時間だメェ! 魔界では一日はだいたい百年位だメェ! こんなの休憩のきの字も入らないメェ! あっ! ママー! チョコレートなくなったメェ! メロンクリームソーダ飽きたから、ココア欲しいメェー、温かいやつね」
クリッドは手元のコントローラーを離さない。
……三年目
『クリ……ド、風呂、入る……』
アペンドがクリッドに身だしなみをしっかりしろという。
「もうちょいで、リバーシブル迷宮が攻略できるメェー! この『命の雫』を早く持っていかないと、姫様が死んじゃうメェ! そんなことより、ママー! ピザとパフェおかわり! 」
……五年目
ピコピコピコピコ
クリッドのゲームは、廃人に輪をかけて最近では睡眠も取らなくなった。
「ママー、今日のオヤツはダメェェェ! いまさら、干しいもなんて田舎臭いもの食べれないメェー! クリームマシマシのロールケーキと、ミルク氷菓をのせたアップルパイが食べたいメェー! 」
「この漫画は、何かのパクリだメエェェェェー! 後のストーリーが丸分かりだメェ」
「レースゲームも、マシンがアップデートしただけで面白くないメェ! 」
クリッドはワガママになっていた。
気分転換に『迷宮クエスト』以外のゲームもしたが、基本的には引きこもりだった。
「クリーム! ウンメエェェェェ! 」
クリッドの無双状態は続く。
今日も読んで頂きありがとうございます。




