3 クリア報酬と管理者特典
1
『管理……特典として、秘密の部屋……ある施設の使用が可能です』
アペンドがクリッドにいった。
秘密の部屋
玄関とリビングから奥は、さらに地下一階には居住スペースとしてユーズレスシリーズ達の部屋がある。
部屋数としては二十部屋あり、ユーズレスの部屋もあった。
地下二階には稼働テスト用の闘技場となっている。
稼働テスト用の闘技場は設備を変えれば自動で、スポーツ等の競技も可能である。
地下三階は飲食スペースである。
大型の冷蔵室に、調理場がある。別の区画では、水耕栽培により自動で食物を栽培している。
地下四階は、娯楽スペースになっており。映画館ばりの巨大スクリーンに、図書館、資料室、玩具施設がありそこには人類の全ての娯楽が、書物からデーターまで保存されている。
地下五階は、ユフト師の研究施設になっている。ユーズレスの誕生した場所でもあり、ユフト師が寝泊まりしていた場所でもあった。
秘密の部屋には眠っている。
ヴァリラート歴の最高の叡智が眠っている。
秘密の部屋には眠っている。
人種の未来を救うであろう未来が眠っている。
2
「この、ピザなるものはいったいどんな食べ物なのですか? 」
クリッドがメニューの説明をアペンドに求める。
『こ……ちらの、ピザは冷凍を……カイトウしたも……なります』
「霊刀? 迷宮のドロップ品が食べ物? 」
(クリッド、ピザはあれだ! トマトソースにサラミとピーマンを散らしてチーズをトッピングしたものだ)
ユーズレスがアペンドの代わりにクリッドに説明した。
『クリッド、焚き火でパンにトロトロのチーズを掛けて食べたじゃありませんか。あれに近い食べ物ですよ』
「メエェェェェ、チーズトロトロのやつだメエェェェェ! それにするメエェェェェ! 」
『かしこ……まり』
アペンドがエメラルド色の瞳を点滅させた。
「ちなみに、この、メロンクリームソーダのおかわりは可能ですか」
クリッドが遠慮しがちにおかわりをねだる。
『ピィー、ピィー、クリッド様は、パ……ドラ迷宮攻略報酬により……管理者特典を……アップデート……アップデート……、クリッド様はお客様用メニューに加えて、地下三階にある食料の管理権限を……解放……全ての食材の飲食が可能……す』
「メエェェェェ! 夢のようだメエェェェェ! 私は人類の全ての叡智の結晶を食すことができるメエェェェェ! 迷宮攻略最高! 父上、母上、クリッドは世界で一番の幸せな悪魔だメエェェェェ! 」
クリッドは歓喜した。
美味しいものには悪魔も人種も関係ないようだ。
3
「モチモチしてて、ウメェです」
クリッドがピザのチーズを伸ばしながら頬張る。
『クリッド、良かったですね』
「メエェェェェ」
(クリッド、どうした? いつもより、リアクションが薄いな)
ユーズレスが不思議だとばかりにクリッドに聞いた。
「はい、何でしょうねぇ! このピザなるものは確かにとても美味であります。ですが、前に兄上が迷宮の焚き火で作ってくれたパンには及ばないのです」
クリッドが不思議だメエェェェェという。
(焚き火の魔力だな)
「メエェェェェ! 焚き火には食べ物を美味しくする魔力があるのですか! 」
(クリッド、焚き火は本来、火の女神様が旅人に安らぎを与えるために下さった炎といわれている)
ユーズレスは古代図書館から神話のウンチクを披露した。
「さすが、兄上は物知りだメエェェ」
『メロン……クリーム……そだ』
アペンドがお代わりのメロンクリームソーダを持ってくる。
「来た! 来た! 来ましたメエェェェェ! ああ、先ほどは腐った魔界の沼のような色かと思いましたが、こうして改めて見るとエメラルドグリーンのなんたる美しさ」
トロリ
メロンクリームソーダのミルク氷菓が少しずつメロンソーダに溶け込んでいく。
「いいメエェェェェ! このミルク氷菓が混じりあうことで、マリアージュが生まれるメエェェェェ! ゴクゴク、ウンメェェェェェ! もう、メロンクリームソーダと結婚しちゃうメエェェェェ」
ちなみにクリッドのお気に入りは、ミルク氷菓のガリガリとした部分のようだ。
『クリ……ド、ウ……シソウ。よかた』
歓喜したクリッドを観察してアペンドも嬉しそうである。
「このガリガリの存在感が時間と共に儚く消えていく、なんたる芸術だメエェェェェ! ゴクコク、このしっかりとしたボディこの美味たる芸術は神々もビックリだメエェェェェ! 」
クリッドは早くも秘密の部屋に取り憑かれたようだ。
4
クリッドはさらに、干しいもをしゃぶりながら、ダラダラと爆裂黒炭酸を飲み始めた。
『一応の我々のユフト師を探す目的は一段落しました。次はクリッドの目的を達成させる番です』
(クリッド、ありがとうな。今度は本機達がクリッドの願いを叶えたい)
「あれ? そういえば、私は人間界に何をしに来たのでしたっけ? 」
メロンクリームソーダのウメェは、悪魔の思考をも奪うようだ。
上機嫌になったクリッドはべしゃり始めた。
父である魔界大帝が、神になるために次代の統治者を決めなくてはならない。
クリッドは時の女神との混血であるために、魔界では腫れ物扱いされてきた。
兄弟による無用な争いを避けるべく、魔界大帝はクリッドに人間界での勉強をしていくように、魔界から追い出したのであった。
クリッドは人間界に来ようとしたが、少しうたた寝をしていたら、地上に生物らしき存在感がいなかった。
そんな時に、莫大な負の魔力を感知してユーズレスの影と魔力によって地上に受肉を果たしたのだ。
クリッドは一万年近くをボッチだった。
しかし、受肉してからの二週間はユーズレスや補助電脳ガードと共に迷宮攻略を通して、人種の感情である喜怒哀楽を学んだ。
二十階層では、始めて師といえる剣帝に出会った。
最下層の入り口では、自身を見つめ直した。
フィールアとの対戦では、二刀流に開花した。
「そうでした。私は、人間界にはお勉強に来たのでした。すっかり、ウンメェ食べ物の魅了で忘れておりました」
『クリ……ド、エラ……い』
アペンドがユーズレスを助けてくれていたクリッドに感謝する。
「私と兄上は、兄弟ですから当然であります。はあ、それよりも人種はいないようです。あわよくば、ユフトさんに色々と人間社会について教えて頂こうと思いましたが、残念であります」
『あー、クリッド、正直、ユフト師は機械オタクのコミュ症だったのであんまり、参考にはならないと思われますよ』
補助電脳ガードが残念なことをいう。
(……)
『……テンス』
ユーズレスは上の空で、補助電脳ガードが気にかける。
『そうですね。せっかくですから、パンドラの迷宮クリア報酬を存分に使いましょう』
「食べ物グルメツアーだメエェェェェ! 」
クリッドは目をキラキラと輝かせている。
『クリッドはこの二週間、迷宮攻略を手伝ってくれました。テンスは十年間を地上で頑張りました。少しばかり、バカンスを満喫してもいいのではないですか』
「バッ……バカンス……ってなんダメエェェェェ? 」
『……みなで、あ……そぶ』
アペンドがとても嬉しそうにアナウンスした。
ユーズレス達のスローライフが始まろうとしている。
今日も読んで頂きありがとうございます。




