エピローグ6
1
三人は語り合った。
五百年間の溝を埋めるように言葉がとめどなく溢れた。
エミリアは話した。
アートレイがいなくなってから、悪魔が次男バスターを操り人形のようにしていたこと。
三男タイムが、大猿になったレイと悪魔達を撃退したこと。
この五百年間、悪魔達に備えてタイムと歴代の王達は《強奪》、《生命置換》を繰り返してデニッシュの代までグルドニアを守っていたこと。
昨年の王都奪還では、第三王子バターに憑依した悪魔によるクーデターで、前王デニッシュ、第一王子フィナンシェと第二王子ゼリーが殺されたこと。
ピーナッツとアーモンドの活躍により、最終的には王都は奪還されたが、なんとも後味の悪い少ない傷跡を残したこと。
それをエミリアは影として見守ることしか出来なかったことを酷く後悔していると、エミリアは語った。
最近一番嬉しかった出来事は、ジュエルが推し活に一生懸命で非常にイキイキしていると分かったことだ。
正直、千日の祈りを誤魔化して抜け出したのは頂けないが、神獣フェリーチェの主、聖女としてグルドニアを守護してきたジュエルには残りの人生を謳歌して欲しいと思っていると。
面には出さないが、王族とはいえ夫と子を失った悲しみは深いものだろうからと、エミリアがいった。
2
「アートレイの雷獣化は、何か思い当たるフシはないかねぇ」
木人がふと漏らした。
「先もいいましたが、私やレイのように薬によるものではありませんでした。いいえるなら、まるで怒りを具現化したような……獣人が《獣化変化》いや、その上の《獣神変化》したような神々しさを感じました」
フォローが震えている。
それほどまでに、雷獣ガーヒュは規格外だったのだろう。
「となると、先にフォローがいった天然ってのも頷けるね。あと、悪魔達がレイに言った混じってる。エミリアは何か心当たりはあるかい? 」
「えっ! ……正直思い付くのは、ありません。可能性としては、ライドレーの血肉を喰らったことによる何かしらの影響としか……冒険者時代、確かにアートレイは自分や、仲間に危機が迫ると、強敵が現れた時は、死地に追い込まれれば、深く潜るとでもいうか、信じられない力を発揮しました。ですが、外見が変わるような変化はなかったです」
エミリアが思考する。
「アートレイは、古代魔法といわれた雷属性の魔術を使い、独自魔術《強奪》、《生命置換》の使い手でした。そして、血は薄まりましたが時代、時代で《強奪》の使い手は現れた。雷獣化にしても、何かしらの出自が関係しているのではないかと」
フォローがいった。
「可能性としては、獣人と人種のハーフってところねぇ。エミリアは、何か知っているかいね? 」
「……アートレイの生まれですか? 木人様、ご存知ではなかったのですか……私はてっきり知っているものと」
エミリアが木人を見て驚いた。
「なんだって勿体振るね」
「だって、アートレイは秘密の部屋で、ユーズが拾ってきたのですもの」
「「はっ? ! 」」
木人とフォローがぶったまげた。
3
「はっ! 秘密の部屋で拾ってきただって? 」
木人がいった。
「ええ、ウェンリーゼのパンドラの迷宮は当時は開かずの迷宮でした。しかし、村長ウェンとユーズが秘密の部屋で発見したんです」
エミリアが恐る恐るいう。
「ウェンリーゼ、確か、元は小国でしたね」
「小国とはいいますが、元はただの村です。それが、人が集まるようになってどんどんと大きくなっていった」
「エミリア、あんたのお姉さんがウェンリーゼの巫女だったんだっけねぇ」
「ええ、私の姉、リーゼが海王神シーランドと共に海の彷徨える魂を浄化した、海王神祭典の巫女です。その夫であるウェンがユーズとともに、アートレイを拾ってきた。なぜ、アートレイが秘密の部屋にいたか、アートレイ自身も記憶はほとんどなくて……正直それ以上は分からないんです。スミマセン、逆に木人様なら何か知っているのかと思っていました」
エミリアがバツの悪そうな顔をする。
「秘密の部屋、私もいったことはないので分かりませんが、パンドラの迷宮と対をなす彼の場所はいったいなんなのですか? 木人様が管理者権限をお持ちと聞きましたが」
フォローが木人に探るように聞く。
「まあ、なんだいねぇ。今日は気分がいいから話すけど秘密の部屋は、元々は私の研究室みたいなところなんだよねぇ。ヴァリラート歴、随分古い時代になっちまったけど、私も教鞭を振るっていたことがあってねぇ。結局、私の研究は実のならなかったから、弟子だったユフトっていう機械バカにくれてやったんだよ」
「ユフトって、ガードがいっていたユーズのオトウサン? 」
「産みの親だね。機械人形の父なんていわれていたよ。あんまりにも、頭が良すぎてね。機械分野だけだけど、それこそ、カエルやイタチにも利用されてね。地下の秘密の部屋に閉じ籠っちまったのさ」
「パンドラの迷宮を攻略して秘密の部屋まで行くのは苦労したでしょうに」
「いや、それはちょっと違うよ。この際だから教えとくけど、迷宮は本当に昔からある神々が作ったとされる古代迷宮と、機械厄災戦争で人類が一度いなくなってからできた、人工迷宮に分けられるんだよ」
「人工迷宮? ジャンクランドのようなですか」
「うーん? 惜しいけどちょっと違うんだよね。パンドラの迷宮は元々、秘密の部屋の侵入者を寄せ付けないための防衛機構みたいなものだからねぇ。ジャンクランドの人工迷宮はアトラクションっていうか、使い方によっちゃぁ修業する場所みたいなもんだしねぇ。ボンドも元々は、秘密の部屋で造られたから迷宮の造りとしては似てるんだけどね」
「その……ということは、パンドラの迷宮が全ての始まりなんですか? 」
「うーん、ちょっと違うけどね。クホート迷宮やダイアン迷宮は古代迷宮だし、極端な話、グルドニア国内の迷宮はほとんど人工迷宮だね。機械厄災戦争から、地上は一気に魔力濃度が上がっちまってね。生物が住める環境じゃなくなったんだよねぇ」
「木人様、酔ってらっしゃってあのー、人類の核心みたいな歴史喋ってません」
「フォロー先生、せっかくですから喋らせておきましょう。口の軽い木人様なんて、かなり貴重ですから」
エミリアはフォロー賢者よりしたたかであった。
トクトクトク
エミリアはすかさずに木人の杯に酒を追加で注ぐ。
「おっと、グルドニアの後宮長様は気が利くね。まぁ、バラしちまうとね。今みたいに魔力濃度を落ち着かせるための機構として、人工迷宮が造られたんだよ」
「「? ? 」」
話が飛躍して二人は混乱した。
「人工迷宮ってのは、魔力をエサにして魔獣を作り出すプログラムが組み込まれていてねぇ。要するに、地上の魔力濃度を一定まで低下させるために、人工迷宮を作って魔力だまりを作る。迷宮は魔力を形にして魔獣を作り出す。そして、魔獣の核となるものは何か分かるだろう? 」
「「魔石! ! 」」
「そういうことだよ。魔石は、過去の過ち……厄災戦争の副産物なのさ」
木人がニヤリとした。
「その仕組みを作ったのが、弟子のユフトさんですか。凄い人物ですね」
「いや、違うよ。ユフトはただの人種だからね。魔力濃度の高い地上では活動出来なかった」
「では、木人様が、迷宮をお造りに」
エミリアが木人を尊敬の眼差しで見る。
「ハッハッハ、なんだいエミリア、ここまでいっても分からないかい? 魔力濃度の高い地上で活動できる生命体なんて当時はいなかったよ」
「だとしたら誰が? 」
「悪魔と機械人形だよ」
木人が満足そうにドヤ顔した。
次でエピローグ終わりです。




