表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

310/423

エピローグ2

アートレイの長男レイが猿王になった昔話が入ります。

「私が獣人化の成功例です」

「私がってことは、成功しなかったものもいるんだろうね」

「仰る通りです」

「それが、レイだと」

木人がフォローに聞く。


「レイ・グルドニア、懐かしき名です。アートレイの長男にして、剣においても魔術、おまけに頭の聡い子でした。彼ほどに才能に恵まれた子はそうそういなかった」

「そうだねぇ。些か夢見がちな坊やだったけど、とても真っ直ぐな瞳をしていたよ。父親以上の才能を持っていたねぇ」

「その才能が、皆の期待が……レイにとっては重圧だったのでしょう。レイは常に劣等感を持っていました。父であるアートレイの影を」

「そこを、カエルとイタチにつけこまれたと」

「彼らからしたら、魔力に溢れ、強靭な肉体を持ったレイは最高の実験体だったのでしょう」

フォローの目が細くなった。




 五百年前 グルドニア王国歴20年 エリティエール魔法大国 訓練場




「我は練る練る、光と音の交わる刹那を《落雷》」


 レイが上級魔術《落雷》を発現した。


 略式詠唱と同時に、一筋の光がフォロー目掛けて走った。


 ドッゴーン


 《落雷》はレイが発現できる魔術の中でも最上級の威力を持つ。雷系統の魔術は適正に左右され、魔術師の中でも扱えるものが稀である。さらには、適性があっても発現まで至らない場合もある。


 レイは父であるアートレイのように、雷系統の魔術を発現できる希少な存在であった。


 バチバチバチバチ


 《落雷》の無慈悲な光は、音と共に周りの視界を奪った。


 高熱の雷は訓練場の地面を抉り、周囲からは焼け焦げた匂いが漂う。


「しまった。やり過ぎたか」


 レイが手加減なしの一撃を悔やむが……


「予備動作でバレバレじゃ《軟土》」


 フォローがレイの死角で呟く。レイの地面が柔らかくなり足が取られた。


「ぐッ、まだ、まだ」


 レイは抜群の戦闘センスで、地面が完全に軟らかくなる前にステップを踏み体勢を建て直そうとする。


「《水球》、《火球》、《石礫》、《微風》、《重力》」


 フォローが並列詠唱で四属性の初級魔術を、まるで息を吐く様に発現させる。


「うう、身体が重い」


 レイは《微風》で体勢を崩されたところでさらに《重力》による負荷がかかる。目の前には《水球》と《火球》が迫ってくる。


「うおおおおおぉおおお《強奪》」


 レイの影より身丈ほどの影が《水球》、《火球》を飲み込んだ。


「ほう、やりおるのう」


 魔術に隠れて、目の前にはいつの間にかフォローがいた。


 フォローの杖による棒術がレイを襲う。


 レイが素早い反応で木剣を振るうが、《重力》の負荷により思うように木剣を振ることができない。


「ぐううう」


 フォローは杖を槍のように扱い、レイのみぞおちに一撃を入れた。




3


「はあ、はあ、はあ、つっ……強い」


 レイが地面に膝をつく。


「ほっほっほ……王子殿なかなかの腕前でしたぞ」


 フォローがレイを称賛し、手を差し出す。


 レイが師匠であるフォローの手を取る。




 レイは十五歳で成人を迎えてからグルドニア王国王太子としての教育を受けるべく、エリティエール魔法大国に留学に来ていた。グルドニア王国では建国してまだ二十年である。そのために、発展途上国として王政であるが、他国に比べて王族たる振る舞いや、文学や教養について十分ではない。


 そこで、アートレイ王とエミリア王妃の魔術の師であるフォローを頼った。エリティエール魔法大国は、アートレイたちがまだ冒険者をやっていた頃からの付き合いであり、王との付き合いもあった。アートレイたちパーティーは当時、エリティエール魔法大国から直接依頼を受けて迷宮を攻略した経緯もあり、建国の時には後ろ盾にもなってくれた。そのような友好国で学べることは多いと、アートレイは王太子であるレイに留学を進めた。


 何よりも、レイは幼少より武や智に優れた子であり戦乱の世であればその武勇を轟かせる騎士になっていたといれるほどの才に溢れた青年であった。


 アートレイとエミリアは、レイには古代語で【井の中の蛙大海を知らず】のような愚者になって欲しくなかった。


 レイも聡い子であり、両親の危惧していることもおおよそ理解できたため、留学に同意した。


 しかし、レイの才能は武や智においても大国であるエリティエールでも同世代は勿論、現役の騎士や魔術師ですら凌駕した。


 今となっては、訓練相手になるのは宰相である賢者フォローくらいであった。


 だが、賢者フォローは強かった。いくらレイが才能あふれる青年といえど、実戦経験の乏しいレイとの実力差は歴然であった……


「くそっ」

手合わせが終わり、フォローが去ってから、レイが先の戦いを振り返り瞑想しながらも、悔しさを露にする。


 今まで父以外に敗北を知らなかったレイからすれば、いくら師とはいえフォローに勝てない日々は、挫折に近いような感覚だった。


「ゲコゲコゲコ」


「クッククク」


 遠くで悪魔たちの笑い声が聴こえた気がした。




更新が不定期ですみません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『機械人形(ゴーレム)は夢をみる~モブ達の救済(海王神祭典 外伝)』 https://ncode.syosetu.com/n1447id/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ