エピローグ 1
ブックマークありがとうございました。
1
「ホウ、ホウ、ホ……うわぁぉぉぁぁぁぁあん」
木人達が部屋を出てから、フォローの擬態が解けて人形になった。
木人は場所を変えて、フォローを酒のみに誘った。
ヒューヒュー
外の中庭は少し冷えたが、気持ちが高ぶった心をそれとなく冷ましてくれた。
「フォローやい、結局、ボールの坊やには出自は話さなかったのかい? 」
木人がフォローに聞いた。
「……私は赤子のボールマン様を見つけたときに誓いました。このお方には、エリティエール王家を背負わないと。エリティエールはアートレイの怒りを買い滅びました。文明レベルだけでいえば、四百年たった今でも見劣りはしません。魔術師の質も、高かった。しかし、滅びの道を歩んでしまった」
「……過ぎ足る力ゆえにかねぇ」
「私は思いました。これは、世界の理なのかと」
「世界の理? 」
木人が興味深そうに、耳を傾ける。
グイッ
フォローが杯に入っていた蒸留酒を一気にあおった。
「エリティエール魔法大国は、かつて栄華を誇りました。それこそ、他の国より頭二つ、三つは抜けていたのではないでしょうか」
「私は、ほとんど森に籠っていた時期だけど、あのままあの国が存在していたらこの大陸を統一していたかもしれないねぇ」
「そうです。当時、エリティエール魔法大国に表立った脅威はありませんでした。それが、一夜にして国が滅びました。運命といえばそれまでですが……」
「偶然ではなく、人為的なものが関係していると」
「アートレイの息子のレイは、才能に溢れた若者でした。それが、猿になってしまった」
「……あえて、聞こうか宰相殿や、あれはあんたがやったのかい?」
木人の目が光を帯びる。
フォローを見つめる。
フォローの瞳に緊張が走る。
ヒューヒュー
風がまるで相槌を打つように吹く。
「エリティエール魔法大国には、宰相は私でした。しかし、それとは別に王族でも無視できない二大貴族がいました」
「そいつらが絡んでいたと」
「その二家は特別に武勇に優れた家ではありませんでしたが、内政や発明という点においては他を寄せ付けなかった。特に研究分野でした。魔術においても、賢者といわれた私でも理解出来ないような理論、知識を持っていました。今考えれば、それは異質なもだった」
「覚えていたらでいいんだけど、そいつらの名前は……」
ビュオォォォ
フォローの魔力が瞬間的に殺気だった。
「忘れもしません。カエルとイタチです」
2
「彼らは、人種を獣人化させる研究を行っていました」
フォローが歯切れが悪そうに言った。
「そいつは……ある種の禁忌だね」
「彼らは言っていました。獣人も元は、人種であったと、遺伝子という根本の仕組みが少し変質し、毛皮や爪、牙、その他の器官が特異的に変化しただけだと。ある意味では、人種の上位互換である進化だと」
「確かに、人種と比べると獣人は肉体的強さは並外れているからねぇ。ある意味では、進化かもしれないねぇ。それが彼らが望んだものではなくとも」
木人も蒸留酒をあおった。
トクトクトク
空になった杯に木人が手酌で、蒸留酒を入れる。フォローが気が利かなくてすみませんと手を出すが、木人がフォローの杯にも蒸留酒を入れた。
その流れは、「気にせずに喋りな」とでも言っているかのようだった。
「肉体的強さや、生命力において獣人は人種を遥かに凌駕します。しかし、当時の獣人には魔術を使えるものがごく僅かでした。そこで、実験をしたのです。獣人に魔術を学習させた場合、魔術を発現させることが出来るのか」
「それは、正規な協力ではないね」
「……戦争にかこつけて捕虜で実験的をしました。冒険者組合やゴロツキども、軍を使って多くの獣人を拉致しました」
「あんたも、一枚噛んでいたね」
「……否定はしません」
「強者ゆえに、ワガママが許されるかね。ああ、誤解しないでおくれねぇ。ある意味では、弱肉強食の自然の摂理だからねぇ。ただ、個人的には私はやりたくないだけでねぇ。続きを話しな。それと、酒を飲みな」
木人があてつけのような視線と語気を強める。
「頂きます……うっ、ロックはキツイ……結果として、獣人では人種のように魔術を発現できるものは多くはありませんでした。体内の魔力循環の回路が人種に比べて不自然だったのです」
「ほう、そいつは興味深いね」
「人種では、体内の魔力循環させるときに全身を血液のように循環させることが可能です。しかし、獣人ではその回路に堰のような場所が各所にあるのです。そのために、堰を溢れさせるほどの魔力を循環させなければ、魔術の発現は難しいことが分かりました。魔力効率が非常に悪く、実用的ではなないことが分かったのです」
「なるほどね。初級魔術を発現するのに通常の何倍も魔力が必要ということだね」
「下手したら上級魔術並の魔力が必要でした。上級魔術が発現できるのは、魔術師の中でもほんの一握りです。獣人では、そこまでの魔力を持つものは極めて少なくかった。そこで、彼らが考えたのは……」
フォローが右腕を前にだし部分的に獣化させた。
腕からは猛禽類特有の力強い羽が生えてくる。
「魔力適性の高い魔術師の獣人化……その成功例が私です」
フォローが木人にいった。
カラン
杯の中の氷が音をたてて鳴った。
フォローの口腔内は、かつてないほどに渇いていた。
レイは、アートレイとエミリア(マム)の長男です。




