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17 古来の秘宝

1

それから一週間かけて糸はほどかれた。

実にミクスメーレン共和国十五万人の八割が作業に従事した。

まさしく、ジュエルのための国をあげた国民的行事であった。


しかし、時間は残酷である。

査問までは残り二日となっていた。

デザインが決まらないのだ。

元のドレスは、七十年前の流行りを元に子どもだったジュエルがデザインしたものだ。

ジュエルは、今回は広くデザインを公募した。採用された場合は、金貨百枚を賞金とした。服一着のデザイン料としては、破格である。国中のデザイナーや、素人の主婦も何か間違いがあるかも知れないと多くの公募があった。


ジュエルは糸をほどきながら審査した。また、自分の他に客観的な意見も聞きたかったため、議員の娘達と比較的若い層にも審査を打診した。

ジュエルは高齢の域に達しているので、ラザアのように若い女性に似合うか、自身のセンスが疑わしかったからだ。


審査は熾烈を極めた。

最終選考では七つに絞られた。

だが、そこからが決まらない。

時間は残り二日しかない。

デザインが決まらない。

時間ばかりが過ぎていく。


「ドレスが変形すればいいのになぁー」

それは、議員の娘が呟いた一言だった。


「それですわ! 魔力によって流動的に、普段使いかはフォーマル、カジュアルまで、ラザア様のご気分によって形を変える、多変式流体記憶形状ドレス! とでもいいましょうか! これですわ! 」

ジュエルの瞳が若返った。


2

「……今のミクスメーレン共和国の技術では難しいかと」

会議場には、魔導技師、鍛冶屋、魔術師団長、仕立て屋、学者等、モノづくりの国を代表する巨匠達が集まっていた。


「……やはり、難しい……ですわよね」

「申し訳ありません……ただ、その」

錬金術師が何か言いたそうにする。


「いかがされましたか? もしや、何か」

ジュエルが藁にもすがる視線が錬金術師に突き刺さる。

会議場の皆も釣られる。


「本当に、これはお伽話のような雲を掴むような話なんですが」

「勿体ぶるな! 」

フォートが急かす。

「錬金術師の中で、その、魔力を通すだけで所有者の意のままに変形する。伝説といわれた金属があるんです」

「「「! ! ! 」」」

「……古代文明、神話の時代より、伝えられし、流体金属です」


「流体金属……! それ! それですわ! その金属を解析して上手くその特性を糸に絡めることができたら! もしかしたら」

ジュエルに覇気が戻る。ジュエルは一気に目が覚めた。


「して、その流体金属は何処に」

フォートが錬金術師に聞く。


「その……ありません」

「「「えっ! 」」」

錬金術師に皆の冷たい視線が集中する。


「流体金属は、錬金術の最高峰といわれており、錬金術師達の夢でもあります。ですが、今だかつて錬成に成功したものはおりません」


「なんだと! 」

「なんとかならんのか! 」

「材料に人の命とか必要なら喜んでさしだすぞ」

何やら物騒な発言が聞かれる。


「やれやれ、騒がしいねぇ」

「キャン、キャン」

会議場に木人がやって来た。

「オババ様、どうやってこちらに」

「なぁに、ちょいと弟子の推し活具合が気になってねぇ。この様子だとまだドレスは出来てないみたいだねぇ」

木人が会議場一同の浮かない顔を見る。

「皆様、この御方は私の師にあたる御方です」

「もちろん存じております。東の魔女様、ご無沙汰しておりました。転移門の件では、大変お世話になりました」

フォートが木人に頭を下げる。

「おや、おや、随分古い話だねぇ。騎士団長殿が今や、議長さんかい。時間の流れはままならないねぇ。転移門は、よく管理してくれてるし、技術もしっかり秘匿してくれてるからねぇ。関心関心」

「オババ様、その……」

「話は聞いたよ。盗み聞きするつもりはなかったんだけどねぇ。流体金属だね。確かに存在はするよ」

「キャン、キャン」

ホクトが勿体ぶるなと鳴く。

「ああ、うるさいね。ホクト、確かここにあった、あった」

木人が懐から流体金属を取り出した。


「なっ! 」

「この清んだ七色に変わる金属」

「まるで、液体のような固体? 」

「なんて、不思議な物体なんだ。こんなのは、みたことがない」

皆が一様に流体金属に食い入るように視線を注ぐ。


「アーモンドの坊やには、呪いの件で貸しがあるからねぇ。流体金属、所有者のイメージで意のままに形を変える金属さね……ただし、一回使う毎に質量が減少してしまうのが難点だけどねぇ」


「それでは、ドレスには使用するのは難しいでしょうか」

ジュエルが木人を見る。

ジュエルは分かっていた。自分の師がそのような言い方をする時は、解決策があるということを。


「なぁに、流体金属の恐ろしいところはね。現存する物体、主に武器の場合は性能は一段下がるけど形ばかりでなく特性まで再現しちまうところなんだよ。だから、扱えるものが少なくてね。器用貧乏、いや、オールラウンド向けの武器でねぇ、だいたいにして、強者たるもの殆どが専用武器をもっているからねぇ。流体金属自体が、二流の代名詞だったんだよ。何でも使い方によるんだけどねぇ」

「オババ様、申し訳ありませんが時間があと二日しかございません。流体金属はつかえるのですか? 使えないのですか? 」


「はぁ、相変わらずせっかちなおじょうちゃんだねぇ」

「キャン、キャン」

ホクトが木人に向かって小言が長いと鳴いた。


ホクトはジュエルの味方のようだった。



ドレス編は次回ラストです。

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