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15 宝石の日

このエピソードは、ジュエルが主役の別作品より一部内容を抜粋しております。

ミクスメーレン共和国歴1234年

この年だけ、国をあげての一週間の国民の休日という建前での一部の者たちによる勤労奉仕ならぬ、奉仕活動(推し活)があった。

一部では強制労働をあげる声があったが、推し活に参加したものからは「余計なお節介で、我々の生き甲斐を取るな」と逆に怒りを買った。


後にその一週間をジュエルに捧げた人々はこういった。

聖女様の微笑みを見ることができた、宝石のような日々だったと……



『聖女のドレス』は雷属性を宿した神獣フェリーチェの羽を糸にして生地を作った特注品である。

正直、その価値は神々の神話の時代に匹敵するものだといわれており価値がつけられない代物である。


このドレスは、基本的な物理魔法攻撃に対して非常に高い耐性をもっており、雷属性のため上級魔術ですら無効化してしまう代物である。


これを布から糸に解体するには、繊細な作業に加えて、作業中は常に一定の魔力を流さもなければいけなかった。


始め、ジュエルはこれを一人で査問会に間に合わせるべく行おうとした。

「お嬢ちゃんや、迷宮主クラスの魔力をもつあんたでも、一人じゃ間に合わないよ。仮に私とマロンが手伝っても不眠不休で、解体だけで半年はかかるさねぇ」

木人が正直間に合わないよといった。


木人曰く、解体作業は熟練の魔術師でも十分がいいところだといった。

いうなれば、全力疾走しながら針に糸を通すような苦行であると……


ジュエルは絶望した。

「ミクスメーレン共和国に行ってみてはいかがでしょうか? 」

マロンがジュエルにいった。


ジュエルは忘れていた。

七十年前に『聖女のドレス』を作った国のことを……



3


「ふうぅぅん! はぁ、はぁ、やはりキツいな」

フォート以下、魔力操作に長けた議員や魔術師たちが布を糸に戻す。

「はぁ、はぁ、なんのこれしき」

「まだまだ、やれるぞ」

「もっとだ! こんなご褒美はもう死ぬまでにないぞ! 」

「まったくだ! この糸を戻すこと全てが、聖女様につながっておる! 」

「皆のものー! 聖女様の推し活のために! 」

「「「おおー! 聖女様のために! ウェンリーゼの女神様のために! 」」」

議員達は議会以上に頑張っている。


このドレスの解体作業は、ほぼ国民総出で十ヵ所で行われた。


参加者にはジュエル特製の『魔力回復飴』と『体力回復飴』が配られた。

フォートや、議員達は既に五周目である。

二つの秘薬も万能ではなく、重複して使用するとその効果も薄れていく。

しかし、フォート達はまるで「もっとご褒美下さい」と酒を浴びるかのようなテンションで作業をしていた。


今、ミクスメーレン共和国では合計十ヶ所でドレスの解体作業が行われている。


そのうち一番難しい部分は、ジュエルが単独で行っており、次いで難しい部分を評議会が担当した。


「どうして、そこまで頑張るのですか? 」

騎士団長が尋常ではない、何かに取りつかれたようなフォートに聞く。


「……」

「ジュエル様がこの国に多大な貢献をした御方ということは、存じています。ですが、国をあげての、中枢である議員のあなた方がここまでするのが……正直、私には理解出来かねます」

騎士団長がフォート達に問う。

今は来年度の国の予算を話し合う大事な時期にいったい何をしているのだ。他国の老婆の趣味になぜそこまで付き合う必要があるのかと、騎士団長は問う。


「……この国はな、一回は、いや、二回は滅んでいてもおかしくなかった」


「二回? 魔獣大進行の他にそのような大事があったのですか? 」

騎士団長が疑問を投げる。


「魔獣大進行……ワシはあの当時、ゴーレムの操縦者じゃった」

「歴戦の戦士だったと御聞きしております」

「……昔の話じゃ。あまり年寄りをからかわんでくれ……千を越える魔獣の群れに、いくらゴーレムといえど太刀打ち出来なかった。もうダメだと思った。皆も絶望した、これから我々や家族が魔獣のエサに……食いつくされるのかと」

フォートの顔に恐怖が甦る。

「……」

騎士団長はフォートの表情を見逃さない。

「ワシは、呪った! 神を呪った! 運命を呪った! そして、助けを求めた。神が助けたまえと、目の前に現れたのが悪魔であろうと、ワシは頭を垂れ全てを捧げても良いと思った……今でもあの時の絶望は忘れたことはこの九十年間一度もたりともない」

「……」

騎士団長は生唾を飲み込む。

他の議員達も当時のことをまるで思い出すかのような空気を出す。


「絶望の中で聴こえたのは、少女の泣き声じゃった……そう、我々の前に現れたのがジュエル様じゃった。ジュエル・ダイヤモンド、遥か北のグルドニア王国の聖女様じゃ」

フォートの表情が和らぐ。


4

七十年前、ミクスメーレン共和国 魔獣大行進


「くそっ! ここも持たんぞ」

ミクスメーレン共和国騎士団団長のフォートは操作型の魔導ゴーレムに乗りながら指揮をしていた。


ミクスメーレン共和国はグルドニア王国から遥か南の地に位置する。

国の歴史としてはグルドニア王国が建国する前よりある国である。王族による統治ではなく、元老院という国民の選挙により選ばれた民主国家である。

また、グルドニア王国からは距離が離れすぎているために、世界会議でお互いの国は知っているが行ったことがない。お互いにそういった認識であり、貿易や国交もしていない。


ミクスメーレン共和国は特殊な地形にあり、『削られ山』と言われる。山の谷にある国で四方を山に囲まれているために非常に見付けづらい。ある意味では隠れ里が大きくなったような国だ。元はもっと小さな国であったが、山々に囲まれているために資源には困らない環境であった。何より、その里には二人の天才がいたのだ。


魔導技師であり、乗り込み式操作型ゴーレムを作った天才と、錬金術師でありゴーレムの各パーツの材料を作った天才である。


この二人の発明は国の文明を飛躍的に加速させた。その噂は近隣の村や里に広がり、自然と彼の地に集まるようになった。

土地柄、助け合いの精神で生きてきた人々は基本的には移住者を快く受け入れた。

山々に囲まれた環境だけあって、自然の恵みは十分に彼らを飢えさせることはなかったからだ。


寄り添いあって生まれたモノづくりの国、それがミクスメーレン共和国である。


5

ボンッ


ゴーレムが稼働時間を過ぎて排熱が間に合わずにオーバーヒートした。


「くそっ! まだ、まだ、まだやれる。左腕部をパージして、冷却機構を最大限まで稼働するんだ。最悪、魔獣に突っ込んで爆発しても構わん! 」


『ビィー、了解しました』


騎士団団長フォートがゴーレムの人工知能に指令を出す。


乗り込み式操作型ゴーレム『クタム』


体長四メートルのこのゴーレムは八本の腕と四本の足を持つ乗り込み式操作型の機械人形である。元は採掘や、インフラ整備に使用している重機の役割を果たしていた。八本の腕はアタッチメント毎取り外し可能であり、作業ばかりではなく、戦闘や災害の救助等どのような状況にも対応できる汎用性に優れた仕様になっている。


ただ、このゴーレムを操作するには莫大な魔力と情報処理技術が必要であり、乗り手は国家資格を持った適正ある一部のものだけである。

さらには最大限稼働時間はどんなに頑張っても、三時間が限界でそれ以上の稼働は機体が熱に耐えられずにオーバーヒートしてしまう。


非常にコストの悪い機体だが、二時間の稼働で整備をしっかりすればコスト以上の仕事が可能であり、戦闘力は騎士を基準として十人~二十人くらいの戦力といわれている。


現在、ミクスメーレン共和国は迷宮から涌き出た数百の魔獣による魔獣大進行を受けていた。

このミクスメーレン共和国は、古代遺跡からの発掘も成功しており、様々な技術や知識、富を得ていた。

きっかけはほんの些細なことで、記録にない新迷宮を発見したのだ。

それには国も歓喜した。

迷宮とは解明されていない謎が多い場所ではあるが、正しく管理すれば多大な理を得ることができる。


だが、発見されたライン迷宮はどうやら古代人が封印した迷宮だったのだ。長く魔力が停滞した迷宮を刺激したら、どうなるかは明白だった。


ミクスメーレン共和国は、大規模な《演算》を行い乗り込み式操作型ゴーレム『クタム』も百体と持てる国力を準備して迷宮に挑んだ。

ある議員からは過剰戦力だといわれたが、備えに備えたのだ。

だが、結果として迷宮からは魔獣大進行が発生し、クタムによる防衛戦を強いられている。

既に国の西部は突破されて首都まで後退を余儀なくされていた。

ミクスメーレン共和国は国を名乗っているが総人口は十万程度の国である。

ましてや職人の国のため戦闘職はほとんどいない。

唯一、軍と呼べる『クタム』達と乗り手に国の命運が握られていたのだ。


ビィー、ビィー、ビィー


だが、悲しいことにクタムの稼働時間が限界を越えようとしていた。


6


「うわぁぁぁぁぁん、ドレスが、ドレスがぁぁぁぁ」


それは少女の泣き声だったのだろう。


その泣き声は天よりミクスメーレン共和国に響いた。


その泣き声と共に上空からクタムよりも一回り大きな青い怪鳥が飛んでいた。


「ワォーン! 」

犬の遠吠えが聴こえた。


「「「ギィィィィィ」」」

するとどうしたのか先ほどまで暴走状態だった魔獣達が動きを止めた。


「ホウ、ホウ、ホウ、ホウ」

続けて怪鳥から梟のような鳥が上空を旋回する。その梟が通った上空に魔方陣が描かれた。

「ホウ、ホウ、ホウ」

上空からは魔獣に向かって数百に及ぶ氷柱が放たれた。

まるで氷柱の雨だ。


「ギィィィ」「ギャン」「ブビィ」

その氷柱はクタムを避けて、正確に魔獣達だけに降り注いだ。


「うわぁぁぁぁぁん」

未だに上空からの少女の泣き声は止まない。


「皆様! 魔獣の足が止まりました! 急いで後退を! 」

上空より女性(従女マロン)の声が聴こえた。


「天よりの助け感謝する! 皆、撤退だ」

フォートは上空に赤い信号弾を放ち撤退の合図を出した。


「クルルルルルゥゥゥ! 」


バチバチバチバチバチバチ


青い怪鳥から否応なしに魔力が集束されるのが分かる。


「クルルルルルゥゥゥ!」


青い怪鳥から魔獣に向かって無慈悲な雷が放たれた。

バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ


辺り一面の視界が雷によって遮られた。


ミクスメーレン共和国に正義の雷(聖女ジュエル)が舞い降りた





今日も読んで頂きありがとうございます。

作者はドレスの代わりに抱っこ紐という、神話級の装備を携えて、執筆しております。


赤子とはある意味で、厄災より恐ろしい

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