13 老騎士のみる夢は
ドレスをリメイクしに、モノづくりの国ミクスメーレン共和国に来ました。
1
ミクスメーレン共和国はグルドニア王国から遥か南の地に位置する。
国の歴史としてはグルドニア王国が建国する前よりある国である。王族による統治ではなく、元老院という国民の選挙により選ばれた民主国家である。
また、グルドニア王国からは距離が離れすぎているために、世界会議でお互いの国は知っているが行ったことがない。お互いにそういった認識であり、貿易や国交もしていなかった。
だが、七十年前に起きた魔獣大行進でミクスメーレン共和国は滅亡一歩手前だったところを、たまたまドレスを作りにやって来た聖女ジュエルによって救われた。
正直いってジュエルは、ミクスメーレン共和国が失くなればドレスが作れなくなるために泣きじゃくり、フェリーチェとホクト、梟が魔獣を殲滅しただけであった。
さらに、ジュエルは持ち前の《回復》と、薬師の薬をバラまき、あまつさえ当時で紙切れ同然しか価値のない国債を、個人資産で買って最高評議会に譲渡した。
当時、少女だったジュエルはフラワーお姉さまに課金するドレスが出来たため、多額の国債の処理が鬱陶しかったために、評議会に丸投げしただけであった。だが、結果としてミクスメーレン共和国に対する慈愛の行動が国際社会で評価され、これを機に侵略を図っていた近隣諸国は、まさか聖女の行動を無下にするようであれば、他国より恥知らずの汚名を着せられるのを嫌って、戦争の抑止力となった。
ミクスメーレン共和国にこのような唄がある。
その聖女、青き鳥を従えてこの地を災いより救い、女神の奇跡を発現し大地と人々を癒した。
ミクスメーレン共和国には宗教はなかったが、青き鳥の聖女と、聖女が推し活していたフラワー・ウェンリーゼという闘いの女神信仰が根付いた。
ミクスメーレン共和国の皆は、ずっと想っている。
ジュエルの力になりたいと思っている。
しかし、ジュエルは正直『聖女のドレス』を作成して満足してしまい、ミクスメーレン共和国にはほとんど関心がなくなっていた。
だが、世代が変わろうが、ミクスメーレン共和国の皆はジュエルの役に、どんな形であれ恩を返したいと思っている。
ミクスメーレン共和国の皆は待っている。
ずっと、ずっと待っている。
七十年近く経ったいまでも、ずっと待っている。
いつか、聖女ジュエル、そして、ジュエルの推しであるウェンリーゼの女神の化身に精一杯の課金ができることを……
2
ミクスメーレン共和国
最高評議会予算会議
ズキズキ、ズキズキ
(低気圧のせいか)
フォートのこめかみが慌ただしく何かの痛みを感じる。
偏頭痛持ちのフォートであるが、今日の頭痛は何かの懐かしさを感じさせるような、それでいて警鐘を鳴らしているかのようだった。
「ですから、防衛費に」
「いや、新規開拓事業に」
「働き方改革のための、休みの手当てに」
評議会の古参であるフォートは、いつもの足の引っ張りあいに退屈していた。
その退屈と、他の議員の喧騒に似た予算会議がいつも以上に、フォートの頭痛を加速させた。
フォートは今でこそ、最高評議会の議長等しているが、元は軍部出身で乗り込み式機械人形クタムの操縦士であり、魔獣大行進の時に国を守った騎士であり、英雄の一人である。
フォートは評議会議員の中でも最年長で九十近く、足腰も悪くなり杖と介助者が必要な身体であるが、国民からの支持が厚くいまでも国の中枢にいる。
本人は軍を退役し一度は、隠居した身であったが、かつての聖戦を経験し、生き残った胆力たるや政治の世界ではいまだに現役である。
バタン
「皆様、大変でございます! 」
「どうした、今は大事な来年度予算案についての議論中だぞ! 」
扉の勢いと、伝令にきた騎士団長にフォートを中心に評議会議員、皆の厳しい視線が集まる。
「無礼を承知で失礼致します! 先ほど、空より、青い怪鳥フェリーチェらしき物体がミクスメーレン共和国上空に確認されました」
「「「「! ! 」」」」
皆が静まり返った。
「なっ! なんだと、それはまちがいないのか! 」
フォートが皆を代表して口を開く。
「はっ! そして、その……怪鳥より、一人の老婆が……議員の皆様にお目通りねがいたいと」
「その……老婆は、いや、御方はご自身をなんといっておられた」
「グルドニア王国、ジュエル・グルドニア様と名乗っておられました。しかし、ジュエル様は今は千日の祈りの最中で、恐らく偽物であろうと兵達で囲んでおります」
ズキズキ、ズキズキ
「兵で、囲んだだと……」
フォートは青ざめた。
フォートの頭痛が加速した。
九十年間の人生で、これほどまでに背筋が凍りついたことはない。
この騎士団長の判断は正しい。
ジュエルのような大物であれば、本来は国を通して先触れを出してから、日程を調整してからの来訪となるのが普通である。
「だいだいにして、無許可の国境への侵入は、警告なしでの攻撃が通例です」
ズキズキ、ズキズキ、ズキズキ
「攻撃……してないよな! 」
フォートはいよいよ頭痛を忘れ、心の臓が止まりそうになる。
「はっ! このようなことは、前例がないゆえに、評議会の皆様のご判断を……」
「今すぐだ! 」
「と……申しますと」
「今すぐに、その御方をここにお連れしろー! 」
「しかし、あまりにも情報が少なく危険かと! 」
「馬鹿者が! 青い怪鳥など、フェリーチェ以外がいにおらんわー! 先からのこの頭痛は、ああ、間違いないこの全身を鳥肌が支配するような甘美なる魔力波形は…… ジュエル様だ! 聖女様は時を経てミクスメーレン共和国にいらっしゃったのだ! 」
「はっ! りょ!っ了解致しました! 」
騎士団長は素早くその場から離脱するように、消えた。
フォートの目から自然と涙が溢れた。
その溢れた温かい雫は、フォートの頭痛を癒すかのように痛みを洗い流してくれているようだった。
カツカツカツカツ
足跡が聴こえる。
威厳に満ちた心地好い足音である。
フォートを始めとした、古参の議員達はまるで、かつての憧れに似た喜びが身体全体を支配した。
ギィィィィ
扉がゆっくりと開かれた。
「あっ……あああ、貴女様は、あああ」
「ミクスメーレン共和国の皆々様、ごきげんよう。この度の急な来訪に、会議中の無礼を重ねてお詫び申し上げます。ジュエル・グルドニアがご挨拶申し上げます」
「クルルゥゥ」
ミクスメーレン共和国にこのような言葉がある。
『全ては、聖女の推し活のために』
国家の威信をかけた推し活が始まろうとしている。
少しずつ、少しずつストレス解消に書いてるので、文章表現には御容赦を……




