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9 聖戦士『隻腕』

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貴族街 高級レストラン 『火の極み』入り口


「ふぅ、少し早く来てしまったか」

アーモンドが尾行がいないかと周りを気にしながら言う。


アーモンドはリーセルス達に気付かれないように王宮を抜け出した。

リーセルスには「怪しすぎるので、情報が集まるまで待機です」と言われたが、あの感じは絶対に行かせてくれないであろうと、分かっていたので抜け出したのだ。


「ラギサキ! いるのは分かってるぞ! 」

アーモンドが不意にいった。

「流石です! ご主人様、分かってしまいましたか、完全に気配は消したつもりだったのですが」

「リーセルスに頼まれたな」

「はい! ですが、これからその聖選騎団にカチコミに行くのですよね! お供致します」

「ラギサキ、何か勘違いしていないか、私はこれから、友を作りにいくのだ」

「なんと、アーモンド様は下僕達を作りにいくのですか。しかし、アーモンド様レベルの下僕には私くらいの強さがなければ勤まりますまい。いくら集めても烏合の衆など、有事の際には全く役に立ちませんぞ」

「ラギサキ、ここはどこだか分かるか」

「クンクン、先からいい匂いがします」

「そうだ。ここは食事処だ。私は今日、ここに招待を受けて、少し酒を飲みながら交流を図るだけだ。カチコミなどせん」

「しかし、それにしてはいつもの装備ですが……」

ラギサキがアーモンドの全身を見る。


アーモンドは王宮を抜け出してきたため、王族の正装ではなく、戦闘用の騎士装備であった。装いだけ見れば、招待客というよりも護衛の騎士に見える。


「「「ニャース」」」

勿論、ブーツの中の猫達も一緒である。


「急いで来てしまったから仕方がない。まぁ、大丈夫だろう。ところで、ラギサキ、王都で行ってみたいところはないか?」

「私はご主人様のお近くが一番でございます」

「そうか……ちなみに、王都に知り合いはいないのか」

「……そういえば、熊獣人の知り合いが、喫茶店を開いたようで一度顔を出したいと」

「それだ! 古代語で、思い立ったが吉日という言葉がある。今直ぐに行ったほうが良いのではないか」

「はっあぁ、しかし、その、実は路銀がないものでして……」

ラギサキが恥ずかしそうにいう。

実のところ、旅先で魔獣の素材や魔石等、相当の額を稼いではいるが、すべてアーモンドの『四次元の指輪』の中にあり換金していないのだ。


「そうだった! スマン、スマン、まだ分配していなかったな。これを」

アーモンドが四次元の指輪から、魔石を適当に取り出す。

「こんなにいっぱい」

「ラギサキよ、あとこれを」

アーモンドがラギサキに王家の短剣を差し出した。


「これを持って、冒険者組合か商人組合に行って換金してくるといい。何か面倒があればこの短剣を見せれば大丈夫だろう」


「しかし、ご主人様の護衛が」

「私は新たに友を作るだけだ。騎士たるもの誰かのお守りになるなど、愚の骨頂」

「実力で、下僕達を従わせるのですね。流石、ご主人様です」

「だから、なんだ、その、せっかくの王都だから遊んできなさい。そうだ、開店祝いで何か花でもかってくるといい! 私からもお祝いを贈りたい」

アーモンドがさらに魔石を追加した。


「よろしいのですか! 」

ラギサキがしっぽを振る。

この時、アーモンドは全く気にもしていなかったが、貴族や王家が店屋に花を贈る行為は、この店はアーモンドの庇護下にあるという行為である。


「ありがとうございます! ご主人様、私の面目も立ちます! 」

ラギサキは嬉しかった。グルドニア王国で、獣人が生活するにはやはりまだまだ、差別がある。その中で、王族であるアーモンドが獣人が開いている店の後ろ楯となるのだ。

ラギサキは大いに感動した。


「うん、えっ! そうか、うん」

ラギサキと違って、アーモンドはやはり意味を理解していなかったが……


2


「ふう、では入るとするか」

アーモンドがレストラン『火の極み』の会場に入ろうとする。


「うん、ちょっと待て、お前は誰だ」

アーモンドに声をかけた青年がいた。


「ああ、お主は確か……アズールじゃないか、久しいな」

アーモンドがアズールに声をかけた。


「うん、私のことを知っているようだが、質問を質問で返すのは些か無礼な奴だな」

アズールがアーモンドにいう。


アズール・エメラルド

エメラルド公爵家の三男であり、聖選騎団の代表で、アーモンドとは学園の同級生にあたる。


学園では、騎士科、魔術科、文官学科、全ての科を優秀な成績で卒業したエリートである。

普通ならば一つの科で十分なところを、三つの科を掛け持ちしたのだから大したものである。


ただし、全ての科で主席ではない。


騎士科の主席はアーモンド。

魔術科と、文官学科の主席はリーセルス。

アズールは三つで次席であった。


極端な話、アーモンドとリーセルスがいなければ、三つの学科で三冠をとっていたのだ。

ちなみに、学園で三つの学科で主席をとった人物は歴代でも数えるほどである。

ここ十年ではアーモンドの兄であるナッツ、さらに数十年前だとピーナッツの兄であったフィナンシェである。


アズール・エメラルド、学園では『最強の器用貧乏(シルバーコレクター)』、『残念な天才』等といわれていた。


「ああ、そうか、外見が変わったから気付いていないか。確か、短剣が、あー、さっきラギサキに」

アーモンドは王家の紋章が入った短剣を見せようとするが、先にラギサキに渡したことを思い出した。


「外見だと、確かにいわれて見ればどこかでみたことあるような」

アズールが思考する。

やはり、劇的に痩せてしまったアーモンドとは気付かないようだ。


「隻腕に、銀髪、その顔立ち……ピーナッツ陛下の面影がある」

「そんなに、父上と似ているか」

アーモンドがヒントを出した。


「父上だと……ちなみにどちらからおいでになりましたか」

アズールが敬語になる。

「今日はナッツ兄上のところからだ」

「ナッツ兄上……やはり、そうでしたか、あなた様は」

「やっと分かったか」

「ピーナッツ陛下の隠し子ですね」

アズールがドヤ顔した。


「いったい何を言っているのか」

アーモンドは混乱した。


「隠さなくても大丈夫であります。銀髪にその顔立ち、間違いなく陛下のお血筋でしょう。その、左腕はやはり御家騒動ですかな。私が推測するに、何処かの貴族に担ぎ上げられそうになったところを、命かなががらナッツ様のところまで、お逃げになられたのでしょう」

「はぁ、アズール、何を言っているのか」

「分かりますよ。私には、貴方からは強者特有の匂いがする。隠していても分かります」

アズールは、アーモンドのことをピーナッツの隠し子と勘違いした。

アズールが残念な天才といわれる由縁の一つに、このように人の話を聞かずに自己完結してしまうことが多々ある。


「ですが、ご安心下さい。我々、聖選騎団は例え、訳ありといえど会員に差別はありませんから」


「聖選騎団アズール、如何した」

副代表のバイタルがやって来た。

「やぁ、聖選戦士バイタル。新入会員の募集だよ」

「いや、その、私は」

アーモンドはまんざらではない。やはり、聖戦士呼びは大好物のようだ。


「まだ、名乗らない方が良いだろ。ナッツ様も何かお考えがあって、貴方を送ってきたのだろうからな」

アズールの勘違いはさらに加速した。


「いや、だから、私は招待状をだな……忘れた」

肝心の招待状はリーセルスが持っていた。


「ははは、招待状なぞ気にするな。確かに、貴方では何か不便だな。よし、決めた」

アズールは閃いたようだ。

「だから、私の名前は」

アーモンドが名前をいおうとした刹那に。


「悪いが、呼び捨てにさせて貰うぞ、同志、()()()()()よ」


「聖戦士だと、隻腕……カッコいいではないか」

「気に入って貰えて良かった。改めて、聖戦士アズールだ」

アズールがアーモンドに手を差し出す。


「せっ、聖戦士隻腕だ。友を、百人作りにきた」

アーモンドは顔を赤らめた。


アーモンドはアズールの手をとった。


アーモンドは堕ちた。


アーモンドは聖戦士となった。


盛大な勘違いによる、 聖戦士隻腕の戦いが始まった。




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