閑話 夢物語
銀狼の宴の答え合わせが始まるよ。
姫君の正体もう分かってるだろうけどね
1
〖おーもんどさまのやりたいことりすと〗
・ホーリーナイトといっしょにゆきでおそぶ
・ホーリーナイトとそりをすべる
・ホーリーナイトとああきなああきなこありがしをたべる
・ホーリーナイトとあんせんにはいる
そこにはアーモンドの記憶にはない〖アーモンドのやりたいことリスト〗がまだまだ書かれていた。
アーモンドは、【婚姻届】の名前を見てすべてを理解する。
「あぁ、そうだったのか」
そして再び、姫君の顔を涙で濡らす。
「お前だったのか…ホーリーナイト」
なぜ気付かなかったのだろうか。ホーリーナイトと別れたのは、随分前のことだ。理由は、ホーリーナイトが成長するにつれて猫から人種よりに変化していったからだ。アーモンドは、さして気にもしていなかったが、当時王宮では獣人の間者ではないかと大変な問題になった。
アーモンドは呪う、自身を呪う、自身の弱さを呪う、魔獣を呪う、獣人を呪う、
そして、この国を呪う
カラン…
動くはずのない万華鏡がクルクル回る。
その万華鏡であったものはもう本来の役割を果たすことは出来ないだろう。
だが、アーモンドは万華鏡を見て思い出す。このホーリーナイトとの三週間の楽しかった日々を…
リーセルスやラザア以外にこんなにも自分を見てくれた人が始めてだったことを…
そして、思い出す。子猫の頃から、ずっと万華鏡のようにキラキラしていたホーリーナイトのアーモンドにだけ向けられていた笑顔を…
アーモンドは万華鏡を姫君に供えて、まるで彼女が生きているかのように囁く。
「少し出掛けてくるよホーリーナイト、私が帰ってくるまでいい子にしているんだぞ」
「ニャース」
空耳だろうか〖猫啼のブーツ〗から猫の鳴き声が聴こえた気がした。
2
リーセルスは止める。
「お止めください!アーモンド様、お気持ちは分かりますが行っても無駄死にするだけです」
アーモンドは進む、その足取りはぎこちなく目は焦点が定まっておらず、表情は虚ろだ。
「ホーリーナイト、ホーリーナイト、ホーリーナイト」
リーセルスは意識を保つのもやっとな体で、アーモンドにしがみつく。風が吹けば今にも倒れそうな哀しみに暮れた主を止めなくてはならない。
「ならばせめて、一晩御待ちください。まずはアーモンド様の身体の回復が最優先です」
「ホーリーナイト、待ってろ。すぐに帰ってくるからな」
アーモンドにはリーセルスの声が聞こえてないようだ。
「先ほど、ズーイ伯爵に魔導具で早文を出しました。友軍が来るまで!姫君のいうパーシャルデントの未来は我々のような正式に入隊すらしていない若僧にどうこうできる問題ではないかと具申致します」
リーセスは嘘をついた。そんな気前のいい魔導具を王宮がアーモンドに持たせるはずがない。
「飼い主を諌めてくるだけさ」
アーモンドは、リーセルスに…
「ホーリーナイトを頼むぞ」
自分の宝物を預けた。
「啼け、猫啼〖トラ〗」
「ニャース」
アーモンドは、走り去る。
現実から逃げるように、山の神々の大地を踏みしめていった。
その背中はなぜか小さく、足取りはただ速いだけでおぼつかないものだった。
「くそっ!こい〖サンタクロース〗」
リーセルスは自分を呪う。
肝心な時に何も出来ない役立たずな自分を呪う。
「今回は赤服だ!サンタ、お前はズーイ伯爵に援軍を要請しろ!動かぬようならその場で自分の腹を切れ!雪国の男は義理堅い、なにをしようが連れてこい」
「御意」
影は消えた。言霊だけを残して
「クロウ、アーモンド様を止めろ最悪腕の一本や二本折っても構わん!例え、切り殺されようが絶対に首だけになろうとも行かせるな」
「………」
影は消える。余韻すら残さず消える
時の女神は、風と雲の時間を動かした。しかしまだ雨は降らないようだ。どうやら、天でさえ〖銀狼〗の歩みを軽くしてあげたいようだ。
3
「なにか来るぞ」
誰かが何かをいっている。
「ぐぁぁぁ」
「ぎゃっ」
「ニャース」
(ああ、喉が渇いた)
アーモンドはぶつかった衝撃より、走って喉が渇いたようだ。
先ほどから、何かキラキラしたものがぶつかっているような気がするが気のせいだろう。
無意識に、〖コッケン〗を口につける。傷と喉は潤ったようだ。身体の痛みは治ったが心は壊れたままだ。
(おーもんどさまのやりたいことリスト)
猫達がアーモンドに噛みつき、覆い被さる。
(ホーリーナイトと雪で遊ぶ)
「騎霧」
猫の重みが無くなった。アーモンドは前に進む。
(ホーリーナイトとソリを滑る)
「剣士隊は奴に直接触れるな!いつも通り、己の剣にて応戦せよ」
(ホーリーナイトと大きな大きな氷菓子を食べる)
「いかせるかぁ」
猫がじゃれていた。猫と遊ぶのは昔から得意だ。
(ホーリーナイトと温泉に入る)
「きっさまぁ」
またじゃれてきた。そういえば昔から動物には好かれていたようだ。
猫が集まってくる。猫じゃらしで遊んでやる。
(疲れたな)
「啼け、猫啼き〖コトラ〗」
「ニャース」
アーモンドは呟き、猫達をいっぱい追い越した。なんだか猫達は震えている。寒いのだろうか?
(ホーリーナイトと意地悪なドラゴンをやっつけに行く)
白猫がいる。ホーリーナイトと同じ白猫だ。
「誰も手を出すな!こいつは俺の獲物だ」
白猫が、喋った。
「ニャース、ニャース、ぎぃゃゃあぁぁ」
可愛い白猫だ。
(ホーリーナイトみたいだなぁ)
白猫が、鳴いている。
アーモンドは、楽しかった【習字】を思い出す。
(見る)
白猫が、飛び降りる。
(構える)
白猫が、遊ぼうとじゃれてきた。
(振る)
猫じゃらしで構ってやる。
何故か猫じゃらしが紅くなる。
ゆっくりと白猫を撫でてやろうとする。
白猫は驚いたようだ。
白猫は何故かお漏らしをした。
(ダメじゃないか、オシッコは砂のトイレでしなきゃあ)
「ニャ…ニャー」
(ホーリーナイト…!!)
猫じゃらしが止まる。
「あぁ、お前だったのかホーリーナイト」
アーモンドは、白猫を見る。瞳の色が戻ってきた。彼の意識はいまだに現実にはいないようだ。
白猫が、鳴きながら膝をつく。
「こ…殺せ」
白猫が、癇癪を起こす。
「大丈夫だ、もう大丈夫だ、ホーリーナイト、私がずっとお前のことを守ってやるからな」
アーモンドは泣きながら、ホーリーナイトではない白猫を撫でながらいう。
夢物語の泣き虫な主人公はとても幸せそうだ。
「私の敗けでございます。ご主人様…」
白猫が啼きながら膝をつく。
ピュー、ピュー、ピュー
魔笛が鳴る。
「誰だ、魔笛を鳴らしたのは」
ナミキズが吠える。
「ギィギいいいいギィィィ」
この世の底から雄叫びが聴こえる。
森の生き物達が怯え、まだ見ぬ声の主に逃げ惑う。
「なっ!この声はまさか、森の主〖猿王〗か」
猫達は怯える。〖猿王レイアート〗美しい血の雨が目を覚ましたのだ。
猫達が怯えている。ホーリーナイトが鳴いている。
(たくさんのホーリーナイトが怯えている)
アーモンドは声の主の方へ歩を進めた。
彼はふたたび、暗夜行路を彷徨う。
西の彼の地にて、難破船は錨を沈める。
だがその怒りはまだ水面をユラユラと揺らし続けている。
錨を沈めた船はここに長居をするつもりはないが…
ニヤリ…
狼の牙が輝る
神々は願う。
身体と心を癒す間もない狼に、せめて夢の中だけでも傷を癒して欲しいと
満月の今宵、狼にいい夢をみて欲しいと
神々が覗いたリストの最後の項目は
・ホーリーナイトとこれからもずっとずっといっしょにいる
(一生そばにいるから、一生そばにいてね)
『銀狼の宴』はまだこれからのようだ
いつも読んで頂きありがとうございます!
練習も兼ねて、違う視点での話をしてみたのですが、如何だったでしょうか?
自分的には、ちょい勘違い系でやってみたんですが伝わりましたかね?
出すつもり無かったけど、またおサルさん来ちゃったんであと2話位はお付き合いくださいまして 白猫より
作者の励みや創作意欲向上になりますので、よろしかったらブックマーク、いいね、評価して頂ければ幸いです。




