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プロローグ 3

「なっ! へっ! あっ! 」

スタウトは言葉にならなかった。


小地竜は、小とはいえど体長十メートルの超大型魔獣に分類される。竜種であるがゆえに、価値としてはかなり高く。地竜というだけあり、防御力と耐久性に優れた魔獣であり、鱗一枚でもその価値は計り知れない。

また、竜の肉は生命力の塊であり最高の魔力触媒なのだ。


ワイワイ、ガヤガヤ


「おいおい! 嘘だろう! 」

「俺、小地竜なんて始めてみたぞ! 」

「しかも、首を綺麗に両断だなんて! 」

「やはり、竜殺し、聖なる騎士アーモンドの噂は本当だったのか」

冒険者組合の外に、アーモンドは小地竜を『四次元の指輪』より出した。

そのために、冒険者や野次馬が集まってきた。


「ばっ! なっ! はぁ! 」

スタウトの状態異常《混乱》は解けない。

「ピルスナー迷宮主、小地竜だ。一応、職員に《鑑定》して貰うとよいだろう」

アーモンドが一応と付け足す。


「失礼致します。《鑑定》……本物です。ピルスナー迷宮最下層の小地竜が、三十年ぶりに討伐されました! 」

《鑑定》持ちの副組合長クラフトが高らかに宣言した。


「はっ! いっ、今からここにいる冒険者に、緊急依頼を出す! 護衛依頼だ! 護衛対象は小地竜の素材だ! クラフト! お前は今すぐに、領主邸まで急ぎ、兄上、領主様を読んでこい! 最重要案件だ! 」

組合長であるスタウトは、《混乱》しながらも最善を尽くした。


「はっ! ただいま参ります」

クラフトが走りながら領主邸へ向かった。


2

「なっ! はっ! へぇっ! 」

ピルスナー男爵が目の前にある、小地竜であったものを見て言葉をつまらせる。

ピルスナー男爵は、クラフトに話をきき、至急、全ての予定を放棄してやってきた。

ピルスナー男爵は、弟であるスタウト同様に状態異常《混乱》している。


使いの者から、アーモンド達パーティーがピルスナー迷宮を踏破したことは先ほど聞いた。

すぐさま、今宵の晩餐会の準備に頭を悩ませていたところであった。


何故ならピルスナー領は現在、街道に魔獣の群れが突発的に出現するために、商人との交易がほとんど途絶えていたのだ。


こちらか商隊を組んで特産物を、王都に持っていくだけでもいつもの三倍以上の護衛が必要であり、ピルスナー産の特産物である果物は、必然的に高い値段となっていた。


いつもの倍以上のその値段では、王都の商人からは渋い顔をされた。さらには、魔獣がいるそのような状況では王都からの商人も自然と足が遠退いた。


領内では、狩人がなかなか狩りに行くことも難しかった。

冬の間何とか、薪はギリギリ間に合ったがそれでも、昨年からの魔獣の群れのせいで、今年の寒さを凌ぐには例年の半分以下の薪で暖をやりくりした。


それだけではなく、魔獣により田畑は荒らされ、収穫量も少なかった。


領民は餓えていた。

冬を越せずに逝ってしまった者もいた。

冒険者組合も魔獣の討伐に力をいれたが、近くに王都があるためピルスナー領にいる冒険者は、地元の銀級になれそうでなれない銅級ばかりだった。


冬を越して春になろうとしていた。

寒さは和らいだが、依然として食料不足は続いた。


そんなところに、アーモンド達がピルスナー迷宮を踏破した。


領内の迷宮踏破は、貴族の誉れで大変名誉なことである。

先代ピルスナー男爵の時、以来三十年ぶりで、ピルスナー男爵は心踊った。


これで近隣貴族にバカにされずに済むと。


だが、同時に頭を悩ませた。

迷宮を踏破したのが、昨年に王となったピーナッツ陛下の息子で、王太子有力候補のアーモンド殿下であった。


海王神祭典でシーランドを討伐した聖なる騎士アーモンドの噂は、聞いていた。


だが、正直、東の海の事情など知ったことではなかった。ただの噂に過ぎない。


しかし、ピルスナー迷宮を踏破したのが、アーモンド殿下と知り、ピルスナー男爵は驚愕した。


竜殺しの噂は本当であったと……


アーモンド殿下きっと、今後、グルドニア王国を背負っては立つお方である。


晩餐会では失礼のないようにしなくてはならない。


しかし、現状、王族であるアーモンド殿下の口に合う料理を出せるわけがなかった。

せいぜい、備蓄として残していたジャガイモや根菜類や果物が精々だ。


肉等のメインが出せるはずがなかった。


それだけピルスナー領は困窮していたのだ。


「あっ、あ、アーモンド殿下におかれましてはご機嫌麗しゅうございます。して、アーモンド殿下は何処に? 」

ピルスナー男爵は、目の前の銀髪隻腕の青年を見ながらリーセルスに訪ねた。


ピルスナー男爵は王都で何度か、アーモンドと面識がある。丸々と太っていたアーモンドを忘れるはずがない。

だからであろう。目の前の筋肉質で、騎士として洗礼された肉体の青年が、アーモンドだということに気付かない。


「ピルスナー男爵閣下、目の前におられるお方がアーモンド・ウェンリーゼ様であります」

リーセルスが悪戯を口にするかのようにいった。

「へっ! はあっ! あっ……アーモンド殿下、へっ! 」

「ああ、私がアーモンド・ウェンリーゼだ。久しいな。ピルスナー男爵」

アーモンドが「またか」とでもいうように溜め息をつきながらいった。


ちなみに、アーモンド達はピルスナー領に来る前には、マーソ領のマーソ迷宮、エッグノッグ領のエッグノッグ迷宮を踏破してきた。

いずれの領主達も、痩せて隻腕となったアーモンドに別人のような反応をみせたからだ。


ちなみに、アーモンド自身は分からなかったが、アーモンドの魔力とは違う強者たる格、存在の力は、度重なる厄災級との戦闘によりアーモンドの存在を際立たせていた。

分かるものには分かるのだ。


目の前の青年から自然と滲み出ている武威がいかなるものかを……


「たっ……大変、無礼を致しました! アーモンド殿下、どうぞお許し下さい」

「あっ、兄上」

ピルスナー男爵が、領民の前だろうが構わずに猫のポーズ(土下座)を決め込んできた。

冒険者組合長のスタウトも戸惑っている。


「猫のポーズ……いや、何もそこまで」

「「「ニャース」」」

アーモンドはスタウト同様に戸惑、ブーツの中の猫達は「潔し」とピルスナー男爵を評価した。


「アーモンド殿下、重ね重ね無礼を働きます。どうか、どうか、殿下にお願いしたき義がございます! 殿下、何卒! 我が領地を、ピルスナーをお救い下さいませ」

ピルスナー男爵が地面に頭を擦り付けた。


リーセルスがまるでこの展開を予測していたかのようにニヤリとした。


「……」

アーモンドは「また始まった」とそんなリーセルスに頭を抱えた。

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