プロローグ 2
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冒険者組合 受付
「えっ! 申し訳ありません。今、なんと仰いましたか? 」
冒険者組合受付嬢が、アーモンドに聞き返す。
「今しがた、ピルスナー迷宮を踏破した。最下層の主である、小地竜の解体を頼みたいので、組合長に会わせてくれないか」
アーモンドがまるで、近所のオツカイから返ってきたとで言うように受付嬢に、迷宮踏破を告げる。
「えっ! あのその……ピルスナー迷宮は最後に踏破されたのは三十年近く前で、その、小地竜もその大きさから、一部の肉と骨を持ってくることが精一杯だって……」
「なかなかの迷宮だった。踏破に三日かかった。まぁ、うちは優秀な索敵がいるから出来たわけだがな」
アーモンドの言葉に、ラギサキがこれでもかと尻尾をブンブン振り回す。
「三! 三日で踏破! あわわわわわ」
「これは、これは、アーモンド様。このような田舎にお越しくださいまして、恐縮であります」
奥より組合長であるスタウトがやって来た。
「ああ、組合長殿か。ううん、はて? 貴公とは、何処かで会ったことがあったかな? 見覚えがあるな」
「アーモンド様、こちらのスタウト様は、ピルスナー男爵の弟ぎみであります。王都でのパーティーの際には、護衛騎士として帯同しておりましたので、その時かと」
リーセルスがアーモンドをフォローする。
アーモンドは基本的にパーティーでは、食べ物ばかりに目がいってしまいがちである。だが、アーモンドは騎士たるもの全てを尊敬している。
そのために、幼い頃より、各家の家紋や、装備品等のそれぞれ個性あるものには興味津々であった。
そのついでに顔もある程度は覚えているのである。
ちなみに、アーモンドの従者であるリーセルスは、全ての貴族と、全ての騎士を把握している。
サンタにクロウも同じである。
昨日の友が今日は暗殺対象なんてことは、日常茶飯事、それが尊きもの達が生き残れる術なのだから。
言葉には出さないが、主であるアーモンドのお心を煩わせることが三兄弟にとっては最も罪深きことなのだから。
「アーモンド様、ウェンリーゼでの海王神祭典のお噂はかねがね存じております。海王神シーランドの討伐のお喜びと、散っていったもの達に神々の祝福があらんことを、お祈り申し上げます」
スタウトが礼をとった。
スタウトは貴族としての教育も受けているのであろう。荒くれ者が集う冒険者組合長という立場からは、想像つかない品格のある所作であった。
「貴公の礼節に敬意を、今日は別件でな。先ほど、そちらの受付にもいったが、ピルスナー迷宮を踏破した。迷宮を踏破したことにより、しばらくは迷宮は休眠期間になる。魔獣がいなくなるため、一時的に冒険者達には、商売あがったりになるだろう。一応、迷宮踏破は王国でもめでたいことである。冒険者達に注意喚起をよろしく頼む」
「迷宮を……踏破ですか……? どこの迷宮を? 」
スタウトが何をいってるんだと口を開けた。無理もない、スタウトは今年で四十になる。最後にピルスナー迷宮が踏破されたのは、スタウトがまだ子供の時である。
「ピルスナー迷宮だ。それとも、ピルスナー領には他に迷宮があったか? 」
アーモンドがそろそろ疲れたという表情で、スタウトにいう。
「本当でございますか? 」
「ああ、三日もかかってしまった」
「三……三日で、ピルスナー迷宮を踏破したのですか! 」
スタウトは現実を受け止めようとしている。
「ああ、それと、小地竜の素材をピルスナー男爵に献上したい。冒険者組合に解体を依頼したいのだが」
「献上でありますか? それは何とも徳の高い行いでございます」
ここでアーモンドは献上という言葉を使った。普通であれば、王族の血を引くアーモンドからピルスナー男爵に、物を譲る場合は下賜するという表現を使う。
目上の立場の者から、何かを下賜された場合は取り扱いについて慎重にならなければならない。
あえて、献上という言葉を使うことで、これはあくまでも冒険者であるアーモンド個人の気持ちであって、小地竜の素材をどのように使おうが構わない、という表れである。
勿論、リーセルスの入れ知恵ではある。
「ここでは、出せないな。外に行くとするか」
「アーモンド様ちなみに、献上していただける部分は魔石ですか? 爪ですか? 」
スタウトは勘違いしていた。どうみても、手荷物程度しかないアーモンドのパーティーを見て、小地竜の素材といえど一部だけ迷宮から持ち帰ったのだろうと……
「……全部に決まっているだろう」
「へっ……?! 」
スタウトの時が止まった。
リーセルスが悪い顔をした。
ラギサキはアーモンドに尊敬の眼差しを送る。
「「「ニャース」」」
ブーツの中のネコ達もさすがご主人様と啼いた。
アーモンドだけは、何故にスタウトが驚いているかイマイチ分からなかった。




