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グルドニア王国歴 70年 猿芝居とおもてなし

「ゼノール……分かっていような。謀反人は、重罪だ。王族であれ、死刑、弁明の余地はないぞ」

タイムが片腕となったゼノールにいう。


ドクドクドク


ゼノールは肩から利き腕を斬られていた。出血は止まらない。いや、敗者たるゼノールは最早、自身の血を止める気はなかった。


「いい勝負でした。非常にいい勝負でした。死刑……重罪だ、何を甘いことを、やはり老いましたね。昔の父上なら否応なしに、敵の首をはねておりました」

「お前は、いったい、何処で何を、間違えた! がぁ、ごふっ、ごふっ」

タイムが口から血を吐き出した。

全魔力を解放して、さらに、『十六夜』の一振にはほとんど力を使わなかったとはいえ、老体には身体を酷似したのだろう。


「闘いに負けて、勝負に勝つとはこのことですな! 最早、父上に残された時間は短い、私が死んだら残るのは、カカオにビターのみ、グルドニア王国は、悪魔達の意のままにされるでしょうな」

「お前はどこまで、かどわかされたか! ごふっ、ごふっ」

タイムの怒気がゼノールを貫くように刺さる。

「でしたら、やることは一つしかないでしょう」

ゼノールが穏やかな顔になった。ゼノールは一瞬だけ悲しい顔をしたあとに、イタズラがバレて、バツが悪そうになる子供のような表情になる。

「お前、何を……」

「当初の予定通り、私の肉体を《強奪》するしかないでしょう」

ゼノールが優しく笑った。



ドクドクドク


血が止まらない。

高貴なる竜殺しの一族の血が惜しみ無く、ゼノールの肩から流れ落ちる。


ゼノールがタイムに近づく。


「今や、王宮は私の近衛達で包囲されています。父上の近衛達は、ルビー家の軍が抑えておりますので、ほぼ無傷です。血を流したのは、実質的に()()()、私の姿をした父上が再び国を治め下さい」

ゼノールがタイムに肉体を差し出しますと言った。


「お前は何をいっている」

「元から、その予定でしたよね。今日でちょうど期限の三日ですよ。最後に少しだけ、かまって欲しかったんです。遅い反抗期みたいなものですよ」

「……バカものが……」

タイムが涙を流した。


ゼノールが「やれやれ」といいながらも嬉しく思った。


ゼノールは分かっていたのだ。

初めから、タイムがゼノールを《強奪》出来ないことを……


幾度となく、国を守るために、繁栄のために、容赦なかったタイムであるが、自分の家族を犠牲にすることが出来ないことを……


何故ならゼノールが気付いたのだ。

自分の部屋で、子供達を愛でる時に自分なら、父と同様に覚悟を試すだけだということを……


自分は誰よりも、グルドニア王国よりも、父に愛されていたことを……


ゼノールが目を瞑った。


「はぁ、はぁ、《強だッ》、はぁ、はぁ」

タイムがうまく魔力を練り上げることが出来ない。頭では分かっているが心が《強奪》により、ゼノールを取り込むことを拒否している。


「ぐっ、がぁぁぁぁぁ」

ゼノールが目を瞑ったまま、片手で短剣を取り出し、脇腹に刺した。


「ゼノール何を! 」

「父上、(いと)うございます。すべてはアートレイの望むままに……」

ゼノールが父に決意させた。


「……《強奪》、《生命置換》」

「……やっと、親孝行できた」

ゼノールが最後に敬愛する父を瞳に焼き付けた。


3


「がああああああ」

タイムがゼノールを《強奪》で取り込み《生命置換》で自身の肉体を作り上げた。


想像を絶する痛みを要するが、タイムの叫びは、自身に対する後悔だった。


ゼノールの記憶がタイムに流れてくる。


幼い頃からタイムを慕っていたこと。


王であるタイムとは、必然的に関わることが少なくなり、自分を見て貰いたくて武芸や勉学に励んだこと。


模擬戦で初めてタイムに一太刀浴びせて、本当に嬉しかったこと、その後はボコボコにされたがとても、愛嬌のあるいい思い出だ。


騎士団に入り、少しでもグルドニア王国のために、父であるタイムの役に立ちたかったこと。


敵国の将を討ち取った時は

「よくやった。ゼノール、さすがワシの息子だ」

初めて父に認められたような、父の役に立っている事実で胸がいっぱいだったこと。


今回の反乱に際する。

ゼノールの想い。

タイムが少しでも、憂いなく自分を取り込めるように、国を巻き込んだ猿芝居だ。


お・も・て・な・し、だったのだ。


ゼノールは父であろうと、容赦しなかった。

ゼノールは本気で戦った。

何故なら、どんな状況であれ、父であるタイムが敗北するはずがないと、微塵も疑っていなかったからだ。


もちろん、悪魔となんて繋がりはない。


タイムをその気にさせるための方便だったのだ。タイムが更なる高みへ近づくための……


「嘘だ、嘘だ、ゼノール、ゼノール! 」

タイムは《強奪》により取り込んだゼノールの意識を読んだ。肉体と違い、ゼノールの意識は目覚めなかった。


「ゼノォォォォオルゥゥゥゥー! 」

ゼノールの姿をしたタイムが、血の涙を流しながら叫んだ。


タイムから暴走した《強奪》の黒い影が、王都全域を包んだ。

無慈悲なる黒い影が、全てを飲み込もうとしている。


「ゲコゲコ」

「クククッ」

脳内でカエルとイタチの笑い声が聴こえた気がした。

どうして終わらないんだ!笑

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