グルドニア王国歴 70年 混合政体
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1
グルドニア王国歴70年
バスターの姿をしたタイムが国を治めて四十年がたった。
二代目の王は戦争を繰り返してグルドニアを大国とした。
王は皆に『制定王』と言われた。
制定といわる由縁として、タイムはグルドニア王国の法を制定した。
今までの法は、アートレイの名のもとに絶対王政であった。
しかし、バスターはそれで失敗した。
絶対王政の場合は、王家のみの権力集中では建国からは、非常にスムーズであった。だが、それは統治者が傑物であればの話である。
統治者が愚者であれば、国は衰退するのみである。
人とは、常に間違いながら生きていくものだ。
タイムは自分自身を賢者だとは思ってはいなかった。
タイムは、自身のみに権力が集まることを恐れた。
いつどこに、悪魔達が自身に災いをもたらすか分からないのだから……
「ゲコゲコ」
「クククッ」
タイムは忘れない。
目を閉じると今でも、鮮明にバスターを失ったあの時の情景が色褪せずに蘇ってくる。
2
タイムは考えた。
タイムはかつてレイの治療を求めて大陸を旅した。様々な国をみて回った。
グルドニア王国のように王政の国もあれば、王はあくまで象徴という貴族が政を行う、貴族制もあった。
さらには、共和国という国民からなる、市民制の国もあった。これは、国民が数年後ごとに、投票をして複数の指導者を選ぶ古代の【選挙】に似た制度であった。
タイムは考えた。
王と貴族、国民が一体となった国造りが出来ないだろうかと……
タイムは玉座となったアナライズと何度も【シュミレーション】をした。
アナライズの知識には、かつて栄えた古代各国の記録もあった。
アナライズから言わせれば、三つの権力からなる混合制の統治は、結局のところ人気取りのパフォーマンスでしかないと一蹴かれた。
どう頑張っても王と貴族と市民では格差が出ることには変わらないようだ。
タイムは頭を悩ました。
タイムは法の大前提として、『平等な権利』というものを作った。
罪を犯した場合は、必ず罰を与える。
また、必ず誰にでも罪に対して弁明の機会を与える。
例えそれが、平民であろうが貴族であろうが、王であろうが、例外はない。
これにはアナライズも驚いた。
『一部の特権を捨てることになりますが……謎』
「力に魅入られたものは破滅の道をたどる」
タイムが鏡を見ながらまるで、バスターに語りかけるようにいった。
制定王バスターは国力を高めるために、ジャンクランドと不可侵条約を結んだ。
さらには、巨帝ボンドにグルドニアにおける辺境伯の位を与えた。
また、査問会の委員の一人にボンドは名を連ねた。
これは、制定王が機械人形であるボンドを、国際社会で『権利ある生命体』と認めたことである。
ボンドとジャンクランドの住民は、狂ったように喜んだ。
グルドニア王国は安泰であった。
だが、タイムは常に警戒していた。
悪魔達はいつやって来るか分からないのだから……
3
王宮最奥、選定の間『アートレイの部屋』
「父上、いや、陛下、ここがあの噂に名高いアートレイの部屋ですか? 」
王太子であるゼノールは驚愕した。
選定の間は、玉座のさらに奥にある部屋で、王しか入ることが許されない部屋、『アートレイの部屋』である。
部屋は一面、大理石で作られており壁には数々の絵画が飾られていた。
「こっ……これが、もしや、ライドレーの頭蓋骨ですか?! 」
部屋の中央には三メートルはあるであろう、賢き竜ライドレーの頭蓋骨が飾ってある。
そして、頭蓋骨を守るかのようにアートレイの剣、双子の騎士の二振り『絶剣』と『巡剣』が石碑に刺さっている。
その他にも『バルドランドの皮鎧』、『影猫の外套』等、かつてアートレイが愛用した装備品の数々や、アイテムが飾られていた。
「そうだ。グルドニア王国の周辺に魔獣が寄り付かない理由の一つと言われている」
「こっ……これが、ライドレーの……」
ゼノールの瞳が、ライドレーの頭蓋骨に引き寄せられるように注視する。
パァン
「はっ! 」
タイムがゼノールの頬を張った。
「やはり、ダメか。魅いられおってからに」
「あれ、私は」
「ライドレーの頭蓋骨、死しても尚まるで意思を持っているような不気味なものよのう」
タイムがライドレーの頭蓋骨を睨む。
「……申し訳ありません。陛下」
ゼノールが情けないと自身を嘆いた。
「気にするな。私とて、こやつの前では油断できんのも事実じゃ。私達の血には、父であるアートレイがライドレーを喰らったせいで、魔力による親和性が高いのであろう」
タイムがゼノールにいう。
「これを倒したアートレイ様、私のお祖父様はやはり神の子なのでしょうか」
「さぁなぁ、今となっては私にも分からん。正面の絵画を見てみろ」
「絵画ですか? 」
ゼノールがライドレーの頭部から視線を上にあげて一枚の絵画を見た。
その絵画には、アートレイとエミリアに、熊獣人と黄色い機械人形が描かれていた。
「聖なる騎士のメンバーだ」
「これは、まさか! しかし、獣人に機械人形とは」
ゼノールは驚いた。
アートレイの物語では、獣人と機械人形については触れられていなかった。これは、国を作る上で、おそらく邪魔だった事実なのだろう。
「物事には公にはされない部分が必ずしもあるものだ。聖なる騎士とは、アートレイ個人を指すものではなく、パーティーの総称だ。今となっては知るものもほとんどいないがな。私もこのように王などやっているが、このアートレイの秘宝の一つとして、扱うことが出来ない。凡人だよ……私は……」
タイムが部屋を見回しながらいう。
「何をおっしゃいますか! 今のグルドニアは父上があってこその国です。グルドニア王国は栄えました。どこの国よりも、民達は飢えることなく、魔獣にも怯えずに、貴族達は父上を見本としてそれぞれの家紋が誇りを持ち騎士道を歩んでおります。男達は泥臭くも笑いあい、女たちは月のように微笑み、子供たちは太陽のように国を照らしてくれております。それは、制定王たる父上だからこそできたことです。父上は私の誇りです。父上は既にアートレイを超えております」
ゼノールの言葉は真っ直ぐだった。
その真っ直ぐな言葉にタイムは心の臓をわしづかみにされたようだった。
真っ直ぐ過ぎる言葉がタイムに突き刺さる。
ポンッ
バスターがゼノールの頭に手を置いた。
「ゼノールよ、お前に真実を打ち明けよう。いや、見せよう。グルドニアの闇たる私の行いを……《生命置換》」
「なっ! わあわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
タイムは自身の記憶の一部を《生命置換》の魔力にのせてゼノールに分け与えた。
法に関してはフィクションなのでご容赦を……
一話で終わらなかった。




