グルドニア王国歴 元年 竜殺し
アートレイのパーティー『聖なる騎士』
アートレイ、 魔術剣士
エミリア・ウェンリーゼ、 回復役、弓使い
ヒグマ獣人 マダラ、大鎚使い、タンク
機械人形ユーズレス、エミリアの保護者
1
昔、昔あるところに一人の名無しがいました。
名無しはいいました お腹が空いたと。
名無しは食べ物を食べたときがありません。
名無しはお腹が空いたと泣きました。
名無しは何を食べたらいいのか分からないのです。
そんな名無しの泣き声を聴いて、二人の旅人が名無しに食べ物をあげました。
名無しは泣きながら初めて食べ物を食べました。
そんな名無しをみたまわりの村のみんなも名無しに食べ物をあげました。
名無しは泣きました。
お腹がいっぱいになって心もお腹いっぱいになったからです。
あるとき、いじわるなドラゴンがいました
いじわるなドラゴンは頭がいいドラゴンでした。
ドラゴンは毎日毎日、村のみんなにいじわるをしていました。
名無しはいいました。
ボクがいってやっつけてきてやる。
名無しは、頭のいいいじわるなドラゴンのところへいきました。
名無しを心配して、頭のいい人と木こりとカラダの大きい人形がついていきました
名無しはうれしくなりました「なかま」ができたのです。
名無しは、ドラゴンにみんなをいじめるのはもうやめてといいました。
いじわるな頭のいいドラゴンはいいました。
おまえの「なかま」を食べさせてくれればやめてやろうと、ドラゴンはボーッと火をふいてきました。
名無しは、ドラゴンとケンカをしました
ドラゴンはやっぱり悪いドラゴンだったのです。
名無しはみんなとちからをあわせてドラゴンをやつけました。
村にかえった名無しはみんなに「聖なる騎士」といわれました。
名無しははじめて名前をもらいました。
名無しはうれしくなりました。
名無しはうれしくなってもっとみんなを集めたいと思いました。
名無しは人をいっぱい集めました。
そして「国」を作りました。
いじわるなひとがいない、みんながニコニコしている「国」を作りました。
いまもその「国」ではいっぱいのひとがニコニコして暮らしています。
「アートレイの冒険より」
2
グルドニア迷宮 百二十階層 主部屋
賢き竜ライドレー
体長二十メートルに及ぶ巨体で、最硬度を誇るグレン鉱石をも上回る鱗は『神の盾』と呼ばれている。
《演算》による正確無比な戦闘、雷系統の魔術はすべてを消し尽くす、荒ぶる厄災である。
かつて、ライドレーを討伐しようと数々の冒険者パーティー、軍隊が派遣されたが生きて帰った者はいない。
戦闘開始から、一時間
「ガァァァァォァァォァォァ」
ライドレーが《雷撃》を放つ。
「《強奪》、がぁぁぁぁぁあ! 」
アートレイは自身の影より大きな漆黒の手を発現したが、ライドレーの強力な《雷撃》全ての雷を奪い取ることは出来なかった。
「アートレイ! 」
エミリアがすかさず、アートレイに駆け寄り《回復》を発現する。
全てを消し去るといわれたライドレーの《雷撃》であるが、アートレイが装備していた『バルドランドの皮鎧』の高い魔法防御に助けられた。
「ガァァァァォァァォァォァ」
ライドレーが再び《雷撃》を発現した。
「ユーズ! 《魔法抵抗》」
ユーズレスのマスターであるエミリアが指示を出す。
『《魔法抵抗・極》』
ユーズレスが赤色の瞳を点滅させながら、《雷撃》に向かって掌を出した。
ピシャリ
《雷撃》がユーズレスの《魔法抵抗》によって掻き消された。
「グオォォォォ」
獣化変化したヒグマ獣人のマダラが、《雷撃》発現後の硬直を見逃さず、巨人殺しの大槌でライドレーに攻撃する。
「ガァァァァォァァォァォァ」
威力十分なマダラの一撃は、ライドレーの右足関節の骨を砕いた。
グラリ
ライドレーがバランスを崩す。
ここで通常であればアートレイが追撃の一手を打つが、アートレイの身体が動かない。
「くっ! 正射必中」
エミリアがオトキチ流の弓裁きで、魔法の矢を連射する。
「ガガッ! 」
しかし、遠距離からの弓ではライドレーに致命傷を与えることは難しい。
「ガァァァァォァァォァォァ」
ライドレーが大きな口を開けてブレスを放つ。
上級殲滅魔術《獄炎》を遥かに凌駕する絶望の炎が放たれた。
キャハハハハハハ、キャハハハハハハ
「元つ月、神無し月」
アートレイの二振り、巡剣と絶剣が笑い。
アートレイがブレスを引き裂いた。
「大丈夫、アートレイ」
すかさず、エミリアがアートレイに再び《回復》をかけようとするが……
「エミリア、マダラ、ユーズ、手を出すな。やっと温まってきたところだ」
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
アートレイの心の臓から血が逆流するかのように爆発的な鼓動を奏でる。
ー奪われるな、奪えー
アートレイの根源が呪いのように囁く。
「ああ、理解した」
深紅の瞳が獲物を捉えた。
3
戦闘が始まり既に半日が経過しようとしている。
「ガァァァァォァァォァォァ」
ライドレーが叫ぶ。
全身からは少なくない血を流しがら怒れる竜の咆哮が、主部屋を支配する。
「うるせえぇぇぇぇ! 」
アートレイが怯むことなく、ライドレーに突っ込む。
キャハハハハハハ、キャハハハハハハ
二振りの剣も楽しそうに笑う。
「ガァァァァォ」
ライドレーが《雷撃》を放つ。
「それはもう何度も見た!《強奪》、《雷撃》」
アートレイが先よりも大きな影を発現させ、千に勝る雷を奪った。
《雷撃》はそのままに、アートレイからライドレーに放たれる。
「ガァァァァォァァォァォァ」
ライドレーが驚愕の声をあげると共に、痛みを叫ぶ。
ただし、その叫びには狂喜が見られた。
ライドレーは楽しんでいた。
賢き竜ライドレーに傷をつけ、尚且つ痛みを与えた存在などほとんどいない。
かつて、魔獣大進行で一時的に迷宮の束縛から解放された時に戦った『青い怪鳥フェリーチェ』以来の好敵手である。
「ガァァァァォァァォァォァ」
ライドレーが爪牙を振るう。
「弥生」
アートレイが三日月の振りで弾く。
「ガァァァァォァァォァォァ」
ライドレーが弾かれた勢いのまま回転して、尾による薙ぎ払いをする。
「卯の花月」
アートレイの二刀流による剛剣が負けじと拮抗するように瞬発的に力を加える。
「ガァァァァォァァォァォァ」
「ハッハッハハッハッハ」
二匹の獣はまるでダンスを踊るかのような、殺し合いを楽しんだ。
竜と人種では体力に大きな差がある。
アートレイの体力や傷を補うように、ユーズレスとマダラが、隙を見計らってタンクとしての役割を果たし、エミリアが素早く《回復》や薬によるアートレイの補給を担った。
ただ、本当の意味で、エミリアに、マダラ、ユーズレスは、獣達のステップに割って入ること叶わなかった。
4
キャハハハハハハ、キャハハハハハハ
巡剣と絶剣が笑う。
「がるあぁぁぁぁぁ! 十六夜」
荒々しくも美しい月の剣が迷宮を照らすかのように、振られた。
スパン
「ガッァ! 」
賢き竜ライドレーの首がとんだ。
アートレイがライドレーの血渋きを浴びながら……倒れた。
「「アートレイ! 」」
エミリアと、マダラがアートレイに駆け寄る。
ユーズレスは首となったライドレーを警戒するように視線を送る。
「アートレイ! しっかり! 今、《回復》を!」
エミリアがアートレイに《回復》 を発現する。
「治……らない」
エミリアが《回復》を発現するが、傷が治った直後から血が吹き出す。
「なんで! どうして! 」
「どけ! エミリア」
マダラが森の秘薬をアートレイにかける。効果としては上級回復薬をも上回る薬だが、傷が修復された側から再び血が吹き出す。
「馬鹿な! 森の恵みでも治らんだと」
マダラもお手上げである。
『肉体が限界を超えていると推察します……諾』
ライドレーの巣穴の奥から一体の機械人形が歩いてきた。
「誰だ! 」
マダラが大槌を構える。
『アナ……ネ……サン』
ユーズレスがアナライズに向かってエメラルド色の瞳を点滅させた。
『久しぶりね。ユーズ、警戒させてごめんなさい。私はアナライズ、ユーズレスシリーズ二番目の子……諾』
アナライズがエメラルドの瞳を点滅させた。
「お前は敵か味方か? 」
マダラは未だに警戒を解かない。
エミリアはアナライズの存在に構う余裕がなく、アートレイに《回復》をかけ続ける。
『アート……ナオ……ス』
ユーズレスがアナライズにアートレイを助けて欲しいと願う。
『……優しい子に育ったのね……了。《演算》』
演算を司るアナライズがアートレイの治療法を《演算》した。
『……《演算》が終了しました。対象は既に生命をまっとうしております。可能性があるとするなら、神なる魔法、神代級魔法《延命》……疑』
アナライズがエメラルドの瞳を点滅させた。
作者の悪い癖が始まったよ。




