味わい深いパン
閑話が張り切りすぎて七千字いってたので、ペース戻します。
また、オッサンの会話パートなんですが我慢してね。
1
「ハイケン」
ボールマンは機械人形に命ずる。
「了解致しました。
皆様には、こちらのベン様と主の最新にして傑作である、単独行動専用魔導水上船、通称【水上バイク】に乗ってそれぞれ任務にあたって貰います。ちなみに機体の愛称は〖ルーググ〗と申します。
作戦の一部の報告を終了致します」
ハイケンは、通常運転に戻った。
「水上の直線距離でいえば馬よりも早いぞ。まぁ、方向転換で多少コツがいるがな」
ボールマンは、顎に手を当てていう。
「俺の持ってる魔導漁船の小型版ってとこか?」漁師のスイが【水上バイク】を隅々まで検分しながらいう。
「本来の用途とは多少違うが、舵の取り方も船と違い特徴的だかな、速度については保証する」
速度についてはベンの御墨付きだ。
「ハイケン」
「了解致しました。
スイ様を除いた皆様に一台ずつ、用意させて頂きました。三十~六十分前後の慣らし運転のあとに、作戦を開始して頂く予定です。
作戦の一部の報告を終了致します」
「だけどよう、俺たち【ロートル】に今さら新しい【機械】の使い方なんて難しいぞ」
クロは、面倒臭そうだ。
大神と武神も岩にもたれ掛かりながら頷く。スイを除く他のモブ達も頷く。
ベンのおやっさんは、残念そうだ。
「ハイケン」
「了解致しました。こちらを御覧ください。
命令の一部の報告を終了致します」
ハイケンは、【水上バイク】ルーググのより二~三回りは小さいであろう板のようなものを皆に御披露目する。
「こりゃあ〖蚊蜻蛉〗じゃねぇか」
「「「…!!」」」
モブ達の目が見開く。
「ハイケン」
ボールマンも懐かしそうに蚊蜻蛉を見る。
「了解致しました。
旧式魔導波乗り、通称〖蚊蜻蛉〗に二級魔石を設置可能にした蚊蜻蛉【カスタム】です。通常の波乗りに加えて、速度と空気中の魔力の流れを読むことが出来れば五~十秒程度ですが、空中飛行も可能であります。直線速度に関しては【水上バイク】ルーググには敵いませんが、小回りと三次元な走行であれば〖蚊蜻蛉〗に1日の長があります。
機械の性能の一部の報告を終了致します」
ハイケンのプレゼンは実に分かりやすい。
果たして競売の結果はいかに。
「お前たちどちらを獲る?」
ボールマンは、不敵な笑みを魅せる。
「「「こっちだ」」」
モブ達は満場一致で…
蚊蜻蛉カスタムを指差した。
ボールマンとベンのおやっさんが若干残念そうにしていたのをハイケンは記録しなかった。
武神と大神も乗れないくせに蚊蜻蛉を…
死神だけがルーググを指差した。
モブ達の命運まだ尽きていないようだ。
2
作戦開始後の浜辺にて
ボールマンとランベルト
「薬の効果が出てきたようですね」
ランベルはボールマンに意味深な視線を送る。
「いったいなんのことだ」
ボールマンは、髭を撫でながらいう。
「二月近くベッドから動けなかった方が、杖に支えられながらとはいえこんな浜辺までこれるはずがないでしょう。普通は…ですが」
ランベルトの眼鏡が光る。眼鏡に【嘘発見器】の付与でもしてあるのだろうか。
「皆にもある程度バレてますよ。芝居の下手な【狼少年】さん」
モブ達の猿芝居はまだ続いていたようだ。海の猿達はしつこい。
「さすがに騙せんか」
「皆長い付き合いですから、黙って行った彼らも【浜っ子】ですから不粋な別れはしたくなかったんでしょう」
「そういうお前はずいぶん不粋なだな」
「不粋なでなければ、他人のことばかり気遣うあなたの参謀は出来ませんよ」
ランベルトは、いつもの癖でタバコを探すが空振りする。
「〖偽誓薬〗を飲んだ。
全盛期とまではいかんが十~二十は若くなるだろう。一時的だがな」
ボールマンは、杖なしで膝の屈伸を始める。
「〖森の恵み〗ですか!どうしてまた伝説級のものを次から次へと、〖根源の魔女〗にでも取引したんですか」
「詳細は省くが、これもユーズ絡みだ」
ボールマンは、屈伸の後で腕を上げて伸びをする。
「どんな副作用があるのですか?確か、時の女神の理を無視した〖木人〗しか許されてない秘薬と聞きましたが」
ランベルトは、懐からタバコの代わりにスプーンと同じ【サイズ】の〖夜森の杖〗を器用に指で回す。流石にペン回しほど速くはない。
「今宵、月が沈むまでは三十~四十歳代でいられるだろう。明日には、ベンよりもお祖父さんになっているだろうな」
ボールマンは、腰に手を当てて腰を回し始めた。
ランベルトの杖回しが若干遅くなる。
「明日を生きるつもりはありませんか?」
「まずは今日を生きるためのパンのほうが大事ではないか、五十年前のように…」
「あなたのやってることは九死に一生ではなく、十死無生ですよ」
ランベルトの杖回しがペンと同等の速度になる。
大神は、ランベルトの杖回しに関心している。
「私はベンたちに死んでこいと言ったのと同じだ、過去のウェンリーゼの民たちにもだ!私の命と決意と誇りは今日このためにある」
ボールマンは一旦、動きを止める。
死神が興味深そうにボールマンを見ている。
武神は死神の視線を逸らせようと、ボールマンと同じく屈伸を始めた。
大神は神々の関係についてはいつもの如く中立だ。
「ならば、せめて私たちがあなたの今日のパンを作りましょう。任せて下さい、ご存知の通りパン作りは得意なので」
ランベルトは、杖を握り懐に戻した。
杖も慣らしを終えたようだ。
「最後まで苦労をかけるな」
ボールマンが深呼吸をし、息を吐き終わった。心なしかボールマンが若返ってきた気がする。
「それが参謀のお仕事ですから」
ランベルトは、本日何回目になるか分からない眼鏡の位置を直す。
ハイケンは杖の役割を終えて少し残念そうに見える。
「ちなみにさっきからやっているその踊りは何かの儀式か何かでしょうか?」
「あぁ、何か大事を成すときに行う神々への舞だそうだ。確か【ラジオ体操】といったかな。これを行うことで、身体の【損傷率】を大幅に軽減できるとユーズが昔いっていたな」
『………』
「色々と、遠からず近からずといった気がしますが」
ハイケンと武神は踊りの意味を知り驚愕している。
ボールマンは杖を背中に回し、両肘と背中を支点にして背筋を伸ばした。年の頃は三十半ばから四十前半に見える。
お互いの杖と主人達も【準備運動】は終わったようだ。
「皆を信じて待とう」
パンに釣られて女神たちが地上にやってきた。女神たちは料理が苦手なので、ランベルトにコツを聞きたがっている。
ボールマンの【押し達】はパンを上手に焼いて、パンを皆に食べさせたがっている。
ボールマンは、身体は全盛期には程遠いが、今の彼は領主代行として、とても知恵が回り、脂ののった年に戻った。
人もパンも焼きたてが美味ではあるが、【賞味期限手前】もまた多少堅くて味わい深いものだ。
ディックの杖とハイケンは杖のいらなくなった主人を嬉しくも思い、悲しくもなった。
ハイケンは記録する。今日ではなく、明日にはまた杖が必要とされる日が来ることを。
そして、これから我が主が毎日パンを食べられることを…
神界では、しばらく女神達によるパン作りと、神々によるペン回しが流行したようだ。
だが、パンもペンもランベルトより上手くできた神々はいないことを機械人形は知らない。
賞味期限手前のディスカウントのパンってよく買っちゃうんですよね。
【フードロス】に貢献してますよ!笑
オッサン達も準備出来てきたみたいですね。
やっぱりバトルパートが憂鬱ですよねー
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