エピローグ 後編
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1
《転移》で王都に行くメンバーが決まった。
査問会に呼ばれているラザア、身の回りの世話にマロン、ラザアの主治医として医術士のジュエル、執事のハイケンとした。
メイド長は残念ながら、まだ安定期に入っていないため辞退した。アルパインは今回もお留守番である。夫婦の時間は大事である。
転移組の出発は、査問会招集の七日前とした。
アーモンドとリーセルスは、会議が終わってから二日後に出発とした。
強行軍ではなく、なるべく他領に寄っていく方針となった。
どうやらリーセルスには何か考えがあるようだ。
次の日に木人がアーモンドに魔術の指導をした。アーモンドはどうにかして《銀狼》を単体で使えないか四苦八苦していた。
木人が改めてアーモンドを《鑑定》すると、新たに水と雷の魔術に適性があるとのことだった。
木人いわく、シーランドの水適性とライドレーの雷適性が身体に馴染んできたのだろうとのことだった。
木人は手本として《水球》と《感電》を発現してみせた。
アーモンドは一日頑張ったが、水滴と静電気が発現出来て終わった。
アーモンドは悔しがっていたが、リーセルスは「あの何をやっても不器用なアーモンド様が一日で……」素で驚いていた。
出発当日にアルパインがアーモンドに、ギンのウォルンの剣と、ヒョウの大剣夜朔を預けた。
アルパインが「必ず返しに来い」といった。アルパインなりにアーモンドのことを認めているのだろう。
アーモンドは「お預かり致します。少将閣下」と敬礼した。
アーモンドは預かりものを、四次元の指に、閉まった。
「アーモンド気をつけてね」
「ラザアも身体を労れ。マロン、ジュエル、ラザアをよろしく頼む」
「身命を懸けて」
「万難を排します」
二人からはメイドではなく騎士のような覚悟が見えた。
「ジュエル、やはり何処かで会った時がないか」
アーモンドがジュエルをまじまじと見た。
「王都は広いようで狭いですから」
ジュエルは汗をダラダラ流しながらいった。
「ホウ、ホウ」
「クルルルゥゥ」
「キャン、キャン」
動物達があまりジュエルをいじめるなと、アーモンドに鳴いた。
2
パカラ、パカラ、パカラ
晴天の空の下、二頭の馬がゆっくりと歩く。
「リーセルス」
「はっ! アーモンド様」
「……いや、何でもない」
アーモンドがリーセルスに何か遠慮をしようとした。アーモンドが将来王になれば、リーセルスは宰相の地位が約束されたようなものだ。
「あのなぁ、リーセルス」
アーモンドがリーセルスに声をかけると、既に馬で先にいっていた。
「早くしないと、置いていきますよ。せっかく、お痩せになったのに、ボーッとして如何しました」
リーセルスがいつものようにアーモンドを軽くディスる。
「……そうだよなぁ。お前はそういう奴だったなぁ」
アーモンドも馬を走らせた。
「言っておきますが今更、置いていかれるのは御免ですよ。私もサンタにクロウも、権力には興味ありませんから」
「今なら、オリア家を見返せるぞ」
「……古い話です。私達はパン屋の息子ですよ」
影のように追従していたクロウとサンタも同意した。
「……お前は欲がないな」
「……私はアーモンド様のように、欲しいものはあまり、ありませんから」
「まるで、私が欲張りみたいじゃないか」
「竜殺し、剣帝殺し、おまけに絶剣、控えめにいっても既に、歩く厄災ですよアーモンド様は。だいたい、賢き竜の魔石食べるって常人なら魔力が多すぎて破裂してますからね。物語の英雄様」
「……リーセルス、なんか怒ってないか」
「秘密の部屋での、秘密を独りで背負っている方にそんな怒るなんて」
「……」
「……よほど、秘密なんですね」
「今は、言えない」
「困りました。口が開くまでどこまでもお供しなくてはなりませんね」
リーセルスの笑顔が爆発した。
「言っておくが、私の道は山を素手で崩していくほど途方がないぞ」
「伝説の竜や剣帝を退治するよりは、簡単そうですね。旨いパンを焼くほうがもっと難しいですよ」
リーセルスの舌が調子を取り戻してきた。
「お前、やっぱり、口だけだったら意地悪な竜に勝てるんじゃないか」
「竜殺し様に言われても、嬉しくないですね」
「独りで勝ってた訳じゃない。お前も頑張ってくれた。誰一人、欠けても勝てなかった。私は本当に美味しいところを……運が良かっただけだ」
「……左腕良かったのですか。機械の義手、付けなかったみたいですが」
リーセルスがアーモンドの左肩を見た。
「左腕が竜化したのは私の弱さだ。ハイケンには感謝している。おかげで私はニンゲンのままでいられた」
「……」
「それに、元々、五歳の時にバターに差し出した腕だ。今更、惜しくない。十数年使えただけで儲けたとしよう」
アーモンドの思考は剛胆だった。
「……そうやって、誰にでも……タチ悪いですよ」
リーセルスの舌でも、アーモンドの無差別攻撃をレジスト出来なかった。
どうやら呪いと違い、インヘリットの《癒し》でもアーモンドのひとたらしは浄化出来なかったようだ。
「御意」
「御意」
影となっているサンタとクロウも同意した。
「……アーモンド様」
「なんだリーセルス?」
「あなたはやはり、誰よりもアートレイですね」
「違うぞ、リーセルス。聖なる騎士だ」
アーモンドの笑顔も爆発した。
「「「ニャー、にゃん、ニャース」」」
今日も今日とて猫達は元気だった。
パカラ、パカラ、パカラ
馬が先より幾分軽快に走る。
その音色は、聴くものをとても幸せな気持ちにさせる。
パカラ、パカラ、パカラ
神々は、美しい音色を聴きながら、聖なる騎士と騎士達と猫の旅路を祈った。
運命神がダイスを振ろうとしたが、大神に止められた。
最高神さえも、旅人達の行く末は分からない。
王都での聖戦が始まろうとしている。
『第五部 機械の権利 前編 』 完