エピローグ 中編
1
アーモンドにラギサキは、二日間は休養日とした。
海王神祭典以降、休息をとれていなかったアーモンドは、泥のように眠った。
アーモンドは、僅か一週間の間に『海王神シーランド』と『双子の騎士』を倒した。
木人いわく、アーモンドは既に存在の格だけでいえば厄災級、単体で下手をすれば国すら崩せる存在だそうだ。
木人は老婆の姿で皆の前に出たが、誰も不思議がらなかった。元から放っていた気が、大樹のようにドッシリとした感じが変わらなかったせいもあるだろう。
木人は、インヘリットの件以来、本当に憑き物が取れたような。木々や草のように柔らかな表情をしていた。
前メイド長のマロンに、医術士のジュエルが木人のことを「オババ様」と言っていた。どうやら、二人は木人の弟子のような関係らしい。
「キャン、キャン」
「ホウ、ホウ」
「クルルル」
ホクトに、ジュエルの肩にのっているフクロウと青い鳥も再会を喜ぶように鳴いていた。
アーモンドが目を覚ますと、フェンズと親衛隊はジャンクランドに帰ったとのことだった。
ジャンクランドの機械人形達の力もあって、この一週間で、ウェンリーゼ領での《地震》による魔獣の移動や、ウェンリーゼを狙う輩の整理はついたようだった。
皮肉なことに領内ではマナバーンによる、魔力粒子放出によって引き起こされるであろう魔導具の誤作動や、他の迷宮の活性化はなかった。
神々に守られし土地とはよくいったものだ。
余談であるが、フェンズはチルドデクスに、ディックを機械人形に戻せるか相談していた。
元々の本体は、ボールマンが回収して秘密の部屋で管理しているとのことだった。
チルドデクスが、ハイケンを直すより簡単だといった。
だが、ディックが杖のままでいいと拒否した。
フェンズはちょっと悲しそうだった。
ラザアがフェンズに「今回の対価はいかにすれば」と聞いた。
『対価なら、うちの王様宛に木人様から貰ったわぁん』
フェンズが何枚かの写真を持っていた。
『アーモンドちゃんに、楽しかったわぁんと。よろしくねぇん』
フェンズがエメラルド色の瞳を点滅させて帰っていった。
ラギサキは二日間休んだ後に、獣国に戻った。海王神祭典を聞いて、四年に一度の獣王を決める獣神祭の途中で抜け出して来たようだ。
アーモンドはラギサキに「ありがとう」と礼をいった。
ラギサキは「私はご主人様の聖なる騎士ですから」と答えた。
アーモンドはラギサキの満面の笑みを見て、自身の聖なる騎士という重荷が少し軽くなった気がした。
リーセルスに、サンタとクロウが少しだけラギサキに嫉妬した。
アーモンドは、秘密の部屋にいる一万体のハイケンについては、ラザアには秘密にした。アーモンドは、ラザアに余計な心労をかけたくなかった。その判断が正しいかどうかは分からなかったが、きっとボールマンも、同じことをしただろう。
ディックは、そんなアーモンドのことを少しだけ好きになった。
ボールマンとモブ達の葬儀は残念ながら、後回しになった。
「ホウ、ホウ、ホウ、ホウ、ホウ」
ジュエルのフクロウがひどく悲しげに鳴いていた。
2
ウェンリーゼ重臣会議
「ふざけてるのかぁ! 」
アルパインの怒声が部屋に響く。
『元のハイケンのメモリーには、ボールマン様より、王都での対応はプランBにと記録していることの一部の報告を終了致します』
「ホウ、ホウ、ホウ、ホウ、ホウ」
ジュエルのフクロウも、アルパインと同様に騒いでいた。
「私たちの感情は二の次よ。ハイケン、それが私たちの打てる最善手なのかしら」
ラザアがピシャリといった。
『中央はおそらく、マナバーンのことを引き合いに、王都の被害による責任を追及してきます。また、アーモンド様を皇太子に祭り上げるでしょう。いまや、グルドニア国内は竜殺しの話題で持ちきりでしょうから。そうなれば、ラザア様は必然的に次期王妃となります。ウェンリーゼの正当なる血縁者はラザア様のみです。中央はウェンリーゼに新たな領主を送り込むでしょう。自分達に非常に都合の良い人材を。一部の報告を終了致します』
ハイケンが報告する。
「冷静に吟味すれば、アーモンド様が次期国王になるのは、悪い話ではありません。一時的にウェンリーゼは手放す形にはなりますが……」
「リーセルス! 」
アーモンドがリーセルスを睨む。
「ですが、アーモンド・グルドニアではなく、アーモンド・ウェンリーゼなのでしょう」
リーセルスが分かっていますよと悪い顔をした。
「それにしても、これは領主様の腕が問われるねぇ。査問会には女狐や、イタチにカエルみたいな奴等ばかりさねぇ」
木人がラザアにいう。
「覚悟は出来ておりますわ」
ラザアが決意するようにいった。
ラザアの後ろに控えていた、マロンとジュエルからも並々ならぬ覇気を感じる。
「ハイケン、王都の招集は残り幾日だ」
『アーモンド様の質問にお答致します。王都での査問会までは残り二十日となります。ただし、諸々の準備を考えれば五日前には王都入り頂くのが間違いないかと一部の報告をしたことを終了致します』
「リーセルス、転移門は使えるのか? 」
「整備は完了しております。第一級人工魔石を十個ほど使用すれば、《転移》可能です。ただし、最大で四名までです」
リーセルスが答えた。
「馬を使った場合は、早くて十日、余裕を持てば十と三日はかかるかと。馬車でしたら間違いなく二十日はかかります」
「ギリギリか」
「ただし、私たちとアーモンド様でしたら、魔獣の心配もいらないので近道をして七日間で十分です」
リーセルスが自分は必ずついていきますといった。