エピローグ 前編
1
ハイケンはハイケンであった。
だが、正確にはハイケンの記憶を引き継いだ別の機械人形だという。
『遅くなったが、迷宮踏破おめでとう』
チルドデクスが、アーモンドとラギサキに神誓薬を一本ずつ渡した。
「かなりの貴重品だねぇ。大迷宮の主を倒しても低確率でしか出てこない魔法の薬だよ。材料が手に入らないから、いまや幻の万能薬さねぇ」
木人が羨ましそうにいう。
『申し訳ありませんが、管理者の方にはちょっと、フェンズも悪いな』
『気にしないで頂戴ぁい。楽しかったしねぇん』
アーモンドはフェンズの四次元から、自分の竜化した左腕を出した。
布にくるまれた左腕は、木人による《冷続》で凍らせてある。
アーモンドがチルドデクスに竜化した腕を、渡した。
「私が持っていても意味がないものだ。何か意味あることに役立て欲しい」
『代わりに機械の義手をつけようか』
「いや、今はまだ片腕でやっていきたい」
『やっぱり、お前さんは相当変わっているな竜殺し』
チルドデクスが、笑うようにエメラルド色の瞳を点滅させた。
木人がアーモンドに四次元の指輪を渡した。
魔力登録した者以外は引き出せない代物で、物置小屋程度の収納が可能らしい。
「インヘリットの討伐報酬だよ。それに、いくら神誓薬といえ、竜化した腕には対価として及ばないからねぇ」
「キャン、キャン」
「そうだねぇ。解呪いの分も含めてねぇ。アーモンド殿や」
「では、ありがたく頂こう。それと、木人殿、アーモンド殿は止してくれ。先から、何だかゾワゾワとする」
「こう見えて、インヘリットの件は感謝してるんだよねぇ」
木人がいうには、インヘリットは木人にとっての兄弟であり、友であり、師であり、家族のようなものだったようだ。
「まだまだ、坊やで十分だ」
アーモンドが絶剣を見ながら自分自身を諭すようにいった。
2
一同はエレベーターで地上の領主部屋に戻った。
フェンズがチルドデクスに、ジャンクランドに来ないかと誘った。
『ここが本機の実家だ』
チルドデクスは、外に出るつもりはないようだった。
三日間の迷宮探索であったが、アーモンドにとっては海王神祭典並みに疲れたイベントであった。
「おかえりなさい」
ラザアが一番に迎えてくれた。
「ただいま」
アーモンドがラザアに微笑んだ。
ラザアには、ユーズレスのことを話した。ガッカリするかと思われたが「また会えるならそれまで待っているわ」といった。
ラザアは強き女性だった。
皆がハイケンの復活を喜んだ。
ハイケンはメモリーから精一杯の記憶をダウンロードしていた。
実はハイケンは左腕だけしか装着出来なかった。
チルドデクスが何度、右腕を接続してもパージしてしまうと頭を悩ませた。
木人が《鑑定》をかけると、《武神の加護》が見えたらしい。
木人が、何かの誓約に近いものだろうねといった。
アーモンドが「ハイケンが神々に認めれたのだろう」といった。
リーセルスとアルパインは、帰ってきたアーモンドとラギサキを見て驚いた。
迷宮での死闘が彼らを強くしたのだろう。元々強かった二人から感じられる存在の格がさらに上がっていた。
ラザア達の方にも変化があった。
現状のウェンリーゼの内情を見かねてか、引退した前メイド長であるマロンが復職した。
年齢は既に八十になろうという位であるが、《回復》の使い手のためか実年齢より若く見えた。
もう一人、マロンの知り合いで王都で医術に心得のあるジュエルという老婆が来た。なんでも、ウェンリーゼには浅かはぬ縁があるとのことだだった。
ちなみにジュエルの見た目は五十代だが実年齢は、マロンより少し下のようだった。両肩に青い鳥とフクロウをのせていた。
アーモンドがジュエルに「どこかでお会いしましたか? 」とジュエルに尋ねた。
木人が横から入って「新手のナンパかい? 」と冷やかした。
「キャン、キャン」
「ホウ、ホウ」
「クルルル」
動物達が喜んでいた。