16 領主代行
1
『ビィー、ビィー、機密事項になるため、ウェンリーゼ領主の権限が必要です。木人様、申し訳ありませんが、情報は強制ロックされています』
チルドデクスが権限不足だという。
「ここにいるアーモンド殿は、現ウェンリーゼの領主、ラザア・ウェンリーゼの名代だよ。全ての権限を委任されている」
木人がアーモンドを見ながらいった。
『何か、名代として証明できるような、証はございますでしょうか? 』
「証かぁ」
アーモンドが困った。アーモンドは一応、王族でもあり序列としてはラザアより上ではある。人種相手ならともかく、機械には忖度がない。
『アーモンドちゃん! これならどうかしらぁん』
フェンズがマルチの四次元より、ディックの杖を取り出した。
「ディックの杖、ウェンリーゼの領主しか持つことの出来ない杖だったな」
アーモンドがディックの杖を握る。
ディックはエメラルド色の瞳を点滅させる。
『ほう、ボールマン以外に使われることを許さなかったディックがなぁ。ビィー、ビィー、いいでしょう。九番目の子ディックは今や、魔法の杖としてウェンリーゼ領主の証として十分に認められます。こちらへどうぞ。ただし、領主代行殿だけです』
チルドデクスが申請を許可した。
「すみません、木人殿」
「気にしないでいいねぇ、わたしゃ部外者だからねぇ。酒でも飲んで待ってるさねぇ」
「私はご主人様とともに」
『ダメよぉん。白猫ちゃん、バナナあげるから大人しくしなきゃねぇん』
フェンズがラギサキをバナナで止めた。
『フェンズ、渡すものがあった』
チルドデクスがフェンズに記憶チップを渡した。
『何かしらぁん』
『オトウサンからの手紙だよ。一人ずつ内容は違うみたいだ。地上に戻ったらレングにも取りに来るようにいっといてくれ』
『オトウサンの……手紙、必ず伝えるワァン』
フェンズがそれは嬉しそうに、大事にチップを扱った。
2
「ずいぶんと広いのだな。部屋数も多い」
アーモンドが歩きながらチルドデクスにいう。
既に、左右の道を何回曲がったか分からない。
『元はそんなに大きくなかったのだが、自立拡張システムが誤差動を起こしてな。まったく困ったものだよ』
チルドデクスがエメラルド色の瞳を点滅させた。
「デクス殿は、フェンズとユーズの兄弟と聞いたが」
『ああ、ハイケンも兄弟だ』
「すまないことをした。ハイケンには助けられた」
『あんたが謝ることはない。ハイケンが望んだことだ。ユーズにしても、好きにやっただけだ。私こそ礼を言おう。竜殺し殿、あんたがいなかったらきっと、シーランドに大陸が喰われていた』
「一万体のハイケンがいるといったな」
『正確には、コストカットした量産型だ。ハイケンは、オトウサンの構想をボールマンが形にした特別製だ。全てのハイケンの統率ユニットになる手筈だった』
「特別製」
『ハイケンは電脳が特別でな。超早熟型だが学習する機械人形だった』
「ハイケンは確かに頭が良かった。そして、騎士だった」
『……兄弟を褒められるのは悪くないな。着いたぞ。ここだ』
チルドデクスが『工場』の扉をあけた。
「こっ! これは」
アーモンドが見た光景は……
数えきれないほどのハイケンの形をした起動していない機械人形の山だった。
『まだ、電源は入れていない。現在は、一万と三千体か。一応言っておくが、特性はまだダウンロードしていない』
「特性」
『フェンズなら《防御》、本機は《器用》、ユーズは《統合》とそれぞれの特性があるんだ。ハイケンシリーズは特性を二つまでダウンロードさせることが可能だ』
「正直いって、相当に強いんじゃないか」
『一体でも、大型魔獣位なら無傷で討伐可能だろう。まぁ、二つの特性といっても、我々のせいぜい半分程度だろう。その代わり、組み合わせ次第では、戦闘だけではなく様々な分野で活躍できる。ハイケンがいい例だっただろう』
「確かにそうだな」
『だがな。竜殺し、この戦力なら一日もあれば国一つくらいなら落とせるぞ』
チルドデクスがエメラルド色の瞳を点滅させた。
アーモンドの手にあるディックの杖も同様に光った。
『昨年の王都奪還では大活躍だったそうじゃないか』
「何が言いたい」
『ボールマンは、あの時その気になれば王都を獲れた。王族同士で争ってくれていたおかげで、外からの警戒が薄かったからな』
「元帥閣下が」
『だが、ボールマンは攻めなかった』
「……」
『お前のおかげだ。王子様』
「私は元帥閣下には何もしていないが」
『真っ直ぐだった。お前の真っ直ぐな行動や、ラザアに対するココロが、ボールマンの気持ちを変えたんだと感じた』
「……」
『どんな理由であれ、本機は兄弟達が人種を害するのは本意ではない』
「……それは、元帥閣下も、同じだったんじゃないか」
『……そうかもしれないな。量産型のプランは本機の管理から外れている。ウェンリーゼの領主代行殿にお任せした』
「デクス殿」
『デクスでいい』
「ありがとう。デクス」
『……アリガトウ、いい言葉だなぁ』
チルドデクスのブラックボックスが、ほんの少し揺れた。
3
チルドデクスとアーモンドが帰ってきた。
アーモンドの様子を見た皆は、何かを察したのか何も聞かなかった。
『三時間くれれば、ハイケンの頭部を量産型に接続できるが』
チルドデクスがいった。
「祈りたい」
アーモンドが唐突にいった。
「何に祈りたいんだい? 」
木人がアーモンドに問う。
「ウェンリーゼのために身命を賭したハイケンに。我々の私利私欲のために、眠りについたハイケンを起こしてしまう罪深さに。新たな命に、祈りたい」
アーモンドが膝をついて祈った。
ラギサキが最速のお座りで、主の隣に控える。
『祈るかぁ、やったことないけど私も祈りたいわぁん』
フェンズは見よう見まねだが、初めて祈りを捧げる。
「アーモンド殿や、あんたやっぱり最高のヒトタラシだねぇ」
「キャン、キャン」
皆がそれぞれの作法で祈りを捧げた。
起動する際には、チルドデクスを手伝うようにフェンズとマルチがバックアップした。
本来であれば、衛星であるマザーが補助に入るらしいが、チルドデクスがいうには地下までは通信が難しいらしい。
『懐かしいわねぇん。ユーズを起動したときのことを思い出すわぁん』
『ユーズには悪いが、ハイケンが最優先だ』
ビィー、ビィー
『…………皆様、お初にお目にかかります。介護兼執事機械人形ハイケンと申します。グランドマスターでありますラザア・ウェンリーゼ様の補佐として、今後誠心誠意お仕えすることの一部の報告を終了致します』
ハイケンのメモリーを受け継いだ機械人形が、エメラルド色の瞳を点滅させた。
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