15 秘密の部屋と坊
第5部だんだん終わります。
1
「勝ったのか……」
「「「にゃー、にゃん、ニャース」」」
猫達が頑張ったねという。
アーモンドは気絶した。先の一撃に己の全身全霊を懸けたのであろう。
ラギサキとフェンズが駆け寄る。
「……インヘリット、完璧に負けたね」
「……強いねあの子、ちょっとクリッドに似てる」
剣帝も全てを懸けたのであろう。
本当に紙一重であった。
「野次馬がいうのもなんだけど、技の完成度はあんたには及ばないよ。勝敗を分けたのは、坊やの気迫さねぇ、どんなことをしても生き残ってやるっていう想いだねぇ」
「……変わったね。らしくないことを言うようになった」
「時計の針は無情だよ。望まなくともただただ進んでは廻るんだよ。グルグルグルグルとね」
「あなたの時計はどれくらい進んだ」
「……さあねぇ」
サラサラサラサラ
剣帝が砂に還っていく。
二人は少しの時間だけ話をできた。
それは本当に少しの時間だった。
「ありがとう。ファトゥム」
「……ふん! あんたもらしくないね」
木人が泣いた。
インヘリットが微笑んだ。
インヘリットが左手で絶剣を拾う。
キャハ、キャハ、キャハ
絶剣もインヘリットと話す。
「ありがとう、待っててくれて」
インヘリットがアーモンドに近づく。
ラギサキとフェンズは一瞬だけ警戒したが、インヘリットの清々しい顔を見て警戒を解いた。
サラサラサラサラ
身体が砂になっていく。
インヘリットが、気絶したアーモンドの傍に絶剣を置いた。
「この子をよろしく。結構寂しがり屋だから」
インヘリットがアーモンドに《癒し》を発現した。
アーモンドの傷が治っていく。
アーモンドの《不運》ですら浄化されたのだろう。アーモンドの体型が元に戻った。
サラサラサラサラ
《癒し》の光とともに聖なる騎士が天に還った。
「時計の針が進んだねぇ」
「キャン、キャン」
今日も今日とて時間は進んだ。
2
アーモンドが気が付いた時には既に、秘密の部屋にいた。
あの後、本来の二十階層主である大型の影骨が出現した。
アーモンドの闘いに感銘を受けたラギサキが瞬殺した。
ラギサキは自身の身体が思いの外、軽いことに驚いた。迷宮での闘いで、討伐した魔獣から存在の力が流れたんだろうと木人がいった。
『あぁーん、白猫ちゃんズルいワァン』
フェンズが拗ねた。
秘密の部屋には、七番目の子であるチルドデクスがいた。
『エレベーターはちょっとズルくないですか? 木人様』
「インヘリットより強い階層主はいないだろうに、だいたい五十階層には鉄骨竜もいないだろう」
『それもそうですね』
チルドデクスは思ったより物分かりが良かった。
秘密の部屋は研究所のような施設であった。
扉からは客間になっているようで、座り心地の良いソファーに、檜の立派なテーブルが置かれていた。
正面にはモニターがあり、アーモンド達の戦闘記録が映像として流れていた。
アーモンドは以前ユーズレスに、プロジェクター機能で映像を見せてもらったため驚かなかったが、ラギサキは「ご主人様の魂が薄っぺらい板に封印されている」といってモニターを壊しそうになったのをフェンズが止めた。
ハイケンと同じタイプの機械人形が、皆に茶を出した。
皆が一息ついた。
茶は旨かった。フェンズとチルドデクスは機械ビールを飲んだ。
一息ついた後に、フェンズがユーズレスとハイケンを四次元から出した。
「ハイケンを通して海王神祭典を覗いてたから、だいたいは分かるだろう。直せるかい? 」
木人がチルドデクスにいった。
チルドデクスがスクラップになったユーズレスと、頭部だけとなったハイケンを診断した。
『ユーズは、ボディは工場で予備パーツなど使って直せますが、強制シャットダウンしたため電脳を無理に起こすのはオススメしません。自然に目覚めるのを待つしかないでしょう』
「時間はどれくらいだい? 」
『また、ハーフヒューマンになったようですね。数年~数十年はかかると思われます』
「ハイケンはどうだい? 」
『残念ながら、ハイケンのブラックボックスは《統合》されました。以前のハイケンはもう……』
「頭部のメモリーは? 」
『メモリーは無事です。量産型に頭部を換装することは可能ですが、それはハイケンの記憶を受け継いだ機械人形。ハイケンであって、ハイケンでない機械人形です』
一同の表情が曇った。
「ちなみに聞くけど、その量産型は何体いるんだい? 」
木人の目が光った。
『……一万から先は数えていません』
パンドラの迷宮の先には、秘密の部屋という機械人形の父といわれた、亜神ユフト師の研究所がある。
そこにはかつての古代文明の人類の叡知が詰まっているといわれていた。
「一万体の機械人形、坊は、いったい何を企んでたんだい」
『……』
一同が沈黙した。
今日も読んで頂きありがとうございます。