14 二つの月
短めです。
1
「……インヘリットが、やられた……」
木人が驚愕した。
「ご主人様ぁ、お見事です! まさか、決闘の義ですらブラフだったとは! 」
『凄いわ! 凄いわ! アーモンドちゃん、全然、剣使わないで勝ったわねぇん! 現代の剣帝なのに』
二人がアーモンドを祝福した。
ラギサキに悪気はない。
フェンズは悪気しかない。
「はぁ、疲れた」
「あんた……いや、大したもんだよ。アーモンド殿」
木人がアーモンドを褒める。
「よしてくれ、木人殿。フェンズのいうように、初見殺しの一回こっきりの騙し討ちみたいなものだ。純粋な剣の技量では、剣帝が遥かに上だろう。貴女が剣帝の戦いかたを見せてくれたからこその勝利だ」
アーモンドも裏技を使った自覚はあるようだ。
「それを加味してのあんたの実力だよ。道具があっても使い方が分からなきゃ意味がないからねぇ。あんたは、よっくど、猫達に好かれてるみたいだねぇ」
「「「ニャー、にゃん、ニャース」」」
ブーツの中の猫達も大変嬉しそうである。
キャハハハハハハハハハハハ
不意に絶剣の笑い声が聞こえた。
蒼い光の柱が発現した。
2
「絶剣の魔力をインヘリットが喰らった? いや、分け与えたのかい? 」
光の柱が集束し、中からは存在としての格が増した剣帝が現れた。
その姿は最早、人間そのものである。
「どういうことだ。さっきと匂いが違う」
ラギサキが尻尾を逆立てる。
『対象の脅威度を修正します。データーベースに該当しない』
マルチがアナウンスした。
「永いこと生きてきてたけど、こんなの初めてだよ。よっぽど、さっきの決着が悔しかった。いや、楽しかったんだんだねぇ。そうだねぇ、影法師、いや、影人とでもいおうかねぇ」
木人がいう。
「キャン、キャン」
ホクトも同意する。
剣帝が絶剣を握り立ち上がった。
「だよなぁ! 剣帝よ! このままじゃ、終われんよなぁ」
血だらけのアーモンドが笑った。
「アーモンド殿や、今、《回復》を」
「要らん! 」
全身から流れる血がアーモンドを昂らせていた。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
アートレイの血が、竜の気が獲物を求めた。
「ああ、理解した」
アーモンドの瞳が深紅に染まる。
2
サラサラサラサラ
剣帝の身体がゆっくりと砂になっていく。どうやら、《癒し》の光により影人となった剣帝に残された時間は少ないようだ。
剣帝が神速の歩法でアーモンドに詰め寄る。
「元つ月、木更月、弥生、卯の花月」
小細工なしの神速の連撃が放たれた。
キャハハハハハハハハハハハ
絶剣が笑う。
(見る)
アーモンドは眼を見開き集中して、連撃の一つ、一つを良く見た。
アーモンドは片腕独特の重心移動で、連撃を紙一重で躱した。
(構える)
アーモンドが赤橙を構える。
その構えは、海王神シーランドを屠った無意識の構えであった。
「! 」
剣帝は出し惜しみしない。
連撃が躱されたことに驚きはしたが、先と違い、腰ののったかつて、暴炎竜バルドランドすら屠った最強の一撃を放つ。
「「十六夜」」
二人の聖なる騎士が放った一撃は……
ピチャン
水滴の雫よりも静かな美しい一振であった。
キャハハハハハハハハハハハ
絶剣が斬られた腕ごと宙を舞った。
「……参った」
剣帝が満足そうに笑った。
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