13 トラ、コトラ、シロ(ホーリーナイト)
1
アーモンドが決まったとばかりに剣帝までの歩を進める。
「ご主人様ぁぁ」
ラギサキのアーモンドに対する忠誠心が増した。
『アーモンドちゃん』
フェンズのアーモンドに対する好感度も上がった。
ガッ
それは偶然にも《生命讃歌》により消えていなかった大樹の根であった。
「なっ! あぁぁぁぁぁぁぁ」
アーモンドはハデに転んだ。勢いのまま転がった。アーモンド必殺の『肉車輪』は健在であった。
アーモンドは壁に激突した。
「「「『……』」」」
一同が非常に、反応に困っている。
「あっ、いったたったぁ。最近転んでなかったから、油断しなぁ」
パサリ
その時、アーモンドの服から白い布のようなものが落ちた。
「これは、リーセルスのやつ準備がいいなぁ」
アーモンドが白い布を拾う。
アーモンドがそのまま剣帝に白い布を投げつけた。
「剣帝殿よ! 物語の英雄よ! 勝負に割って入ったこと詫びよう。我の名はウェンリーゼ領主ラザアが騎士、アーモンド・ウェンリーゼ。学園、獣国より剣帝の称号を授かっている。騎士道に則り、貴方に勝負を申し込む」
「しょ……ぶ」
剣帝が嬉しそうに笑った。
剣帝が白い布を拾う。
剣帝が白い布を懐かしそうに見る。
かつて、幾度となく決闘を申し込まれたのであろう。剣帝の名を懸けて……
「ハッハッハハッハッハハッハッハ」
剣帝である影骨が笑った。
影骨である剣帝は、迷宮の迎撃機構の一部である。一定の条件下でしか出現しない、二十階層の隠しボスのような存在である。
迷宮の侵入者の排除
それが本能である。
そんなシステムが笑ったのである。
「《癒し》」
剣帝が自身に《癒し》を発現した。
剣帝の真上に水球のような蒼い球が発現した。《癒し》の球がゆっくりと剣帝に染み込んでいった。
「そんな、インヘリット……影骨のあんたが《癒し》を使ったら消えちまう」
木人が剣帝の心配をする。
剣帝の身体中の筋肉が隆起する。元々、影骨である剣帝は魔力により身体を構成されている。
また、魔力生命体である影骨には《癒し》等の回復系統の魔法は、攻撃魔法のような扱いになる。
おそらく、剣帝は騎士として、自身の最高の力を発揮するために自身に《癒し》を発現したのだろう。
「燃えている? 」
剣帝が全身を焦がしながら、蒼い炎に焼かれているように見えた。
「剣帝殿よ! 貴方も大概だな」
アーモンドが白橙を抜き魔力を込めた。
2
「「「ニャース」」」
ブーツの猫達が啼く。
アーモンドの白橙に魔力を纏わせ刃が深紅に染まる。白橙が赤橙、魔法刀となる。
剣帝は一呼吸置き、絶剣を構えた。
「出し惜しみはしない! 啼けトラ!」
「ニャース」
アーモンドが駆け出した。
猫啼のブーツの効果により、アーモンドの直線的な動きが加速される。
〖猫啼のブーツ〗
〖効果〗
母猫トラが啼く、半径十キロまで直線的な距離を走る速度が加速する。速度はアーモンドの魔力と体力により変化する。
息子コトラが啼く、周囲十メートルまでの任意の距離を《転移》することができる。
娘シロ(ホーリーナイト)が啼く、十メートルまで跳躍が可能、跳躍の高さはアーモンドの任意によって変更できる。
【クールタイム】 は一日各一回
発現詠唱「啼け猫啼、トラ・コトラ・シロ(ホーリーナイト)」を選択する。猫は「ニャース」と返答する。アーモンドのみ無詠唱、詠唱省略が可能。
剣帝までの距離は十数歩であった。剣帝は、アーモンドの加速に度肝を抜かれた。
「元つ月」
剣帝は中途半端な振りで剣を振った。
(見る)
アーモンドは加速しながら剣帝の振りを躱した。
(振る)
アーモンドが赤橙を振る。完璧なタイミングである。
ダン、ダン
剣帝は無理やり足を動かし空中に逃れた。
絶剣の空中を散歩する能力である。
剣帝が地上のアーモンドを見る。
「啼け! コトラ! 」
「ニャース! 」
掛け声と共に、アーモンド消えた。
「《転移》できるのは、木人殿だけではないぞ! 」
「! 」
アーモンドが剣帝の背後に《転移》した。
アーモンドの赤橙を振らずに、剣帝の背中に頭を密着させる。
「悪いが形振りかまっていられないからな! ホーリーナイト! 」
「ニャース! 」
アーモンドは猫啼のブーツの効果で、空中から地面に向けて跳躍した。
ゴッカァァァァァン
床に剣帝とアーモンドがめり込んだ。
メキメキメキメキ
木人の制約を《強奪》し、豚のように太ったアーモンドの重量も加算された衝撃は、剣帝の骨を粉々にした。
「まだだぁぁぁぁ、《騎霧》! 」
アーモンドは油断しない。
アーモンドは密着したまま、自爆技である魔力による内部破壊《騎霧》を発現した。
アーモンドからは全身から血が吹き出した。
剣帝からも、血に似た蒼い魔力粒子が溢れだした。剣帝はピクリとも動かなかった。
「ウオォォォォ! 」
アーモンドが血塗れで泥臭い雄叫びをあげた。
「「「にゃん、ニャー、ニャース」」」
ブーツの中の猫達も、元気よく誇らしげに啼いた。
今日も読んで頂きありがとうございます。
この作品を題材とした「素人底辺作家がダラダラビール飲みながら一年間で60万文字書いてみた件」という、トチ狂ったエッセイ短編で執筆しました。
1日置いて読み返すと全く参考になりませんでした(笑)
今日もダラダラ書きました。