11 代償と魔法
1
「密着されたら、絶剣も振れないねぇ」
木人が剣帝にいう。
剣帝が苦虫を噛み潰したような表情となる。
チャンポン
木人と剣帝が影の鎖に拘束されて、影の中に引きずり込まれた。
『木人様! 』
フェンズが叫んだ。
「キャン、キャン」
ホクトも鳴く。
ダン、ダン
影の中から地響きのような足音が聴こえた。
キャハハハハハハハハハハハ
剣帝が影から飛び出し宙を駆けた。
「これは、絶剣の能力か」
アーモンドがいう。
絶剣満天・銀
この刀はシーランドによって一度折られたが、鍛冶屋のレツが、ギンの為に己の魂の一部である羽を混ぜて鍛え直した剣である。
効果としては、自動修復機能と三歩だけ空中を歩くことができる。
「まったく、余計なアップデートしてくれたもんだよ《転移》!」
木人も影から飛び出した。
ガギィン
木人が宙にいる剣帝の死角から、剣を振るう。しかし、剣帝はまるで木人の動きを読んでいたかのように、剣を合わせる。
「《落日》」
木人が重力を制御して剣帝を捕まえる。剣帝が宙から叩きつけられるように、地面に引っ張られる。
剣帝は地面に向かって剣を振るう。その衝撃により、落下速度が緩和された。斬撃を叩き付けた反動による慣性を利用して体勢を変え、剣帝が走り出した。
少しでも木人との距離を詰めようと必死である。
「させないよ《守衛》、《成櫃》」
剣帝と木人との直線上に《成櫃》による土壁ができる。剣帝は躱すことなく斬りつける。土壁が無残にも斬られたが、その先には《守衛》による影が迫っていた。
「皐月」
剣帝は受けの構えによる優雅な足裁きで、幾つかの影を斬りつけながら、速度を落とさずに木人に近付く。
「参ったねぇ。牽制にもならないじゃないかい」
木人は重心を前に置き、剣帝の攻撃に備える。
ガギィン
剣と剣が、再び引かれ合うかのように重なりあった。
二人のカウントが始まった。
2
剣帝が技を振るう。
木人が捌きながらも、《転移》で距離を取り魔術による攻撃を仕掛ける。
キャハハハハハハ
絶剣が魔力を喰い破る。
ダン、ダン、ダン
剣帝が距離を詰める。
ガギィン
二人の剣が重なりあう度に薄暗い迷宮では、火花が散る。
アーモンドとラギサキは、二人の戦いに目を奪われていた。
ラギサキ顔負けの剣帝の高速戦闘に、絶剣の空中を三歩する能力、木人は短距離《転移》して対抗した。二人の稲妻のような戦闘は、部屋の隅々まで火花を散らした。
それはまるで、星座を流れ星がなぞるようなファンタジーであった。
「美しい」
アーモンドが言葉を洩らした。
「はい」
ラギサキも同意する。
『まずいわん』
「キャン、キャン」
フェンズとホクトが木人の心配をする。
「はぁ、はぁ、はぁ、《成櫃》」
木人の動きが精彩を欠いた。
木人は連撃の隙をついて、体力回復飴を口に含む。
ガギィン
「はぁ、はぁ」
木人の体力はある程度戻ったようだが、動きにキレがない。
心なしか木人が年齢を重ねているように見える。先まで三十歳程度の外見が今では、四十後半に見える。
「木人殿が! あの影魔術は、何か代償を払うのか」
『違うわ、アーモンドちゃん。木人様は、制約は本気で戦ってはいけないものなのよん。アーモンドちゃんとはまた違った呪いみたいなものよん』
「ご主人様に呪いだとぅ! 」
「フェンズ、私は別に呪われてなどいないが? 」
『はぁー、まぁ、そこがアーモンドちゃんのいいところなんだけどねぇん。竜の血で祓われたから心配ないしねぇん』
ガァァァン
木人が壁際にとばされた。
既に木人の姿は、老婆となっている。
老婆の身体機能では、剣帝の剣を捌くことは難しいであろう。
剣帝も勝敗を決したと思ったのだろう。木人までゆっくりと歩を進める。
「木人殿! ちぃ、私は行くぞ」
「お供致します! 」
『待って二人とも』
フェンズが二人を制止した。
「ふぇっふぇっふぇ、ありがとうねぇ。インヘリット。ここまで老いさせてくれて、体力は無くなったけど、おかげで魔法が使えるよ」
「! 」
剣帝の顔がひきつる。
「なんで私が、あんたの得意な接近戦に付き合ったと思う。燃費の悪い《転移》まで使ってさぁ。おかげで、部屋中に種を撒けたよ」
木人が刃を鞘にしまい、白杖を地面に突き刺した。
木人は熟練の魔力操作で一気に魔力を練り上げる。
木人の周りが魔力粒子が濃くなり大気がボヤける。
「よっくど見ときな! 神代級魔法《生命讃歌》!」
ゴゴゴゴォォォォ
部屋全体が地響きを立てて揺れ始めた。
今日も読んで頂きありがとうございます。