10 魔女の魔術
導入にある剣帝の昔話は、「機械と悪魔 前編」と一緒です。
1
双子の騎士
昔、昔、暴炎竜バルドランドという。欲深い竜がいました。バルドランドはこの世の全てが欲しいと、世界中を焼き払いながら暴食の限りを尽くしました。
人々は困り果てました。厄災としてただ暴炎が過ぎ去るのを待つか、死の業火に炙られるのを涙するしかなかったのです。その時に、笑う二つの剣を持った剣士が現れました。剣士は勇敢にもバルドランドと戦いました。
天は吼え、地は割れる壮絶な戦いは三日三晩続き、永遠に続くと思われた戦いは剣士の勝利で終わりました。
暴炎竜バルドランドは最後に「かなしいね」といって遥か高みへと昇っていきました。
その竜殺しの英雄を皆はこう呼びました。
「剣帝」、「双子の騎士」、「ホーリーナイト」と、双子の騎士は今日も皆を守ります。いつまでも、皆を守っています。
2
「インヘリット……」
木人が剣帝を見て悲しい顔をした。
「女々しい亡霊さねぇ、あんた達は手を出すんじゃないよ。本物の竜殺しだよ!」
しかし、すぐさま顔を引き締める。
どうやら二人は知己のようだ。
ゾクリ
木人の巨大な圧が、部屋全体を包む。
アーモンドとラギサキは、木人が味方だと分かってはいるものの、背筋に寒気を感じ、鳥肌が立った。
『マルチ! 《難攻不落》』
『了解しました。フェンズ様』
ガシャン
フェンズがマルチを大楯として構えて、アーモンドとラギサキの前に出る。
『木人様、こちらは大丈夫よぉん』
フェンズの言葉が合図であったかのように、戦闘が始まった。
「《落実》」
木人が何処からともなく白い木でできた杖を取り出し万有引力による重力魔術を発現する。
ズン
剣帝の周りだけ、空間が重力で歪み床が沈む。
剣帝は身体の重さで足を取られ、機動力を奪われた。
「《成櫃》」
木人は流れるような魔力操作で、魔術を発現した。
ズシャーン
身動き取れない剣帝を、地面の硬度を増した土が【シェルター】のように覆う。
通常であれば、発現中の魔術と違う魔術を発現すると、術は消失してしまう。
だが、木人はまるで息を吸って吐くかのように並行発現している。
術にしても、木人は二つの意味ある言葉を掛け合わせてより難易度の高い術を発現する。大陸中を探しても、おそらくこのような芸当ができる魔術使いはいないであろう。
『流石ねぇん。木人様、一瞬で終わったわぁん』
フェンズが【フラグ】を立ててしまった。
「駄目だ! 木人殿! 魔術や魔法では、絶剣との相性が悪すぎる」
アーモンドがフラグに追い討ちをかける。
キャハハハハハハハハハハハ
笑い声の後に……
ビュン
風が過ぎ去った音が聴こえた。
木人の魔術は、絶剣に喰われてしまった。
パサリ
挨拶代わりとでもいうように、木人の前髪が少し斬られた。
3
「フゥー、やっぱり、本気出さなきゃいけないようだねぇ」
「キャン、キャン」
木人の空気が変わった。
ホクトが止めろと鳴く。
『駄目よぉん! 木人様、遊びじゃなくて、戦うのは駄目よぉん! 制約に喰われるわぁん』
フェンズが意味深な言葉を発する。
「元つ月」
剣帝が木人との距離感を詰め、剣を振るう。
アーモンドはその剣筋を視認することが出来なかった。
ギィィィィィィン
木人が白杖から刃を出し、剣帝の一閃を防御した。どうやら、仕込み杖のようだ。
「《守衛》」
木人の影から無数の鎖が発現され、剣帝を拘束しようとする。
影魔術、樹影は対象を影の中に引きずり込む魔術である。木人と縁の深い樹を言葉に組み込むことで魔術の効果を引き上げている。
キャハハハハハハハハハハハ
絶剣が「お腹が空いたよ」とでも言うように笑う。
「木更月」
剣帝が返しの二閃を放つ。
「ちぃ、憎いくらいに綺麗だねぇ」
木人が白杖の刃で受け止めるが体勢を崩す。
「弥生」
剣帝が三日月をなぞるような剣を振るう。
キャハハハハハハハハハハハ
影の鎖が絶剣に喰われた。
「《落日》、《成櫃》、《守衛》」
木人が呟くように、多重並行で魔術を発現した。
剣帝が一旦距離を取る。
《落日》と《成櫃》は躱されたが、《守衛》の影が剣帝に迫る。
「四極」
剣帝が振るった剣から四つの風刃が放たれた。
《守衛》は掻き消され、尚も風刃が木人に迫る。
「《成櫃》、《成櫃》」
木人は自身に《成櫃》を発現して土の防御シェルターを創る。
スパッ
《成櫃》によるシェルターは斬られたが、木人の姿はなかった。
「あんたの四極を防げると思っちゃいないよ」
木人が剣帝の背後を取った。
木人は《成櫃》をブラフにして、短距離の《転移》を発現したようだ。
「逃がしゃしないよ《守衛》」
木人が剣帝の身体を押さえ付けた。
二人は《守衛》の闇に飲まれていった。
魔術に関しては、原案者のヴァリラート様よりご指導頂きました。
私事ですが、この時期にある人事異動で1ヶ月位、ドキドキのストレスだったのですが残留でした。
転勤だったら執筆活動も継続難しいかなぁと思っていましたが、あと少しは続けられそうです。
今日も読んで頂きありがとうございます。