7 自立型可変式大楯 マルチ
ブックマークありがとうございます。
1
「大丈夫ですか? ご主人様」
「ああ、油断したようだ。二人ともすまなかった」
『ごめんなさいね。アーモンドちゃん、私がいながら……』
十八階層での戦闘は順調であった。
戦闘は四回あり、いずれも六体~八体と集団であったが、先の戦闘と同じくラギサキが先制し、フェンズが多彩な武器を使用し戦闘の流れをコントロールした。
後衛のアーモンドが《強奪》、《銀狼》の組み合わせで集団に止めをさした。
ある意味ではルーチン作業となっていたが、これはこのメンバーだから可能な戦法であった。数的に不利な状況であっても、ラギサキの奇襲で数を減らして、フェンズが攻撃型のタンクとして敵を引き寄せる。
その隙に、アーモンドが魔術を放つといった戦法がハマった。
この戦法を支えているのは、間違いなくフェンズだった。
フェンズは一瞬にして、敵戦力を把握して遠距離攻撃持ちを潰した。
また、近接戦闘の相手には牽制を入れて、自分に攻撃を集めたのだ。
そのため、ラギサキは白猫獣人特有の立体的な動きで遊撃が可能であった。
アーモンドの《強奪》、《銀狼》は決まれば相手を一撃で消し去っていたので、フェンズとしては脅威を排除した後は、時間を稼ぐだけで良かった。
問題が起きたのは十九階層だった。
十体の影骨と遭遇したのである。
しかも、魔獣は階層を降りる毎に強くなっており、動きも早い。
「十体! 先制します! 」
ラギサキはいつも通り先制した。四足歩行となり、ジグザグに集団に接近する。
ラギサキに向かって、弓矢や《発火》が放たれる。
「ちっ! 」
ラギサキは難なく躱すが、明らかに一つ前の階層より影骨の初動が速い。
ラギサキが弓使いを爪牙にかけようとするが、盾持ちと槍使いが立ちはだかり、ラギサキは足を止めた。
速攻は潰された。
「アーモンドちゃんは、そのままいつも通り! 」
ガッシャン
フェンズがマルチより棍棒を手に取る。
ラギサキのサポートに入りつつ、アーモンドに攻撃が行かないように牽制をする。
だが、数が多かった。
ラギサキは弓使いを一体仕留め、一旦距離を取るようにして、集団を回る。
「《強奪》」
アーモンドの右腕から大きな漆黒の手が四体を闇に飲み込む。
四体は沈黙した。
「《銀狼》! 《銀狼》! 《銀狼》! 《銀狼》!」
アーモンドは、沈黙した四体を無視してラギサキとフェンズのサポートに回った。
アーモンドの放った《銀狼》は、槍持と、杖持ちに、剣持ちの影骨を消し去ったが、盾持ちには盾で《銀狼》が防御される。
残り六体。
フェンズがその隙に棍棒で盾持ちを殴打した。
残り五体。
アーモンドは混戦の中で、沈黙した四体を片付けようと駆け出した。
盾持ちがいなくなったことで、集団の戦線は崩れた。
ラギサキが剣持ちを屠る。
残り沈黙した四体。
アーモンドが模造刀に魔力を纏わせて切り込む。
アーモンドは素早く、二体の首を屠った。だが、三体目でバランスを崩す。
残り二体。
やはり、隻腕独特の高速戦闘にはまだ慣れていないようだ。
フェンズがアーモンドの加勢に入ろうとした刹那に……
ダン
影骨がアーモンドの影を踏んだ。
「なっ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
《告解》が発現した。
2
アーモンドは《告解》にかかり精神が乱された。
「ぐっ! はぁぁぉあ」
アーモンドの影が慌ただしく動く。
『不味いわ、白猫ちゃん! こっちに! 』
「ご主人様ー!」
ラギサキがアーモンドを助けに行こうとしたのを制する。
アーモンドの影が暴走して闇が辺りを包む。
残り二体の影骨が、アーモンドの制御不能となった《強奪》に飲み込まれた。
ガッシャン
『マルチ! お願い! 』
『常に準備は整っております』
フェンズの背負っていた。自立式可変盾が浮遊してフェンズの前方を守る。
アーモンドの《強奪》が迫る。
『魔力による攻撃と認定しました。展開します』
マルチから《多重魔力障壁》が発現された。
パリパリパリパリ
《強奪》が《魔力障壁》を侵食するが、その度にマルチが新しい《魔力障壁》を展開する。
「はぁ、はぁ、はぁ」
影骨を《強奪》で飲み込んだために《告解》が解けた。
アーモンドが正気に戻った。
『マルチ、ありがとねぇん。今日も完璧よん』
『いつも通りです』
マルチが機械的にいう。
「ご主人様ー! 」
ラギサキがアーモンドに駆け寄った。
3
『それにしても、アーモンドちゃんの《強奪》スゴいわねぇん』
先のアーモンドの《強奪》は半径三十メートル四方に拡がった。
地面は、マルチが《魔力障壁》をフィールドのように展開した場所以外は、クレーターが出来ている。
「ご主人様、お怪我はありませんか? 」
「ああ、外傷はない。ただ、《強奪》で魔力を不完全燃焼したようだ。少し、気持ち悪い」
『少し、休みましょう』
フェンズが言葉を発した瞬間に……
ゾクッ
真っ先に反応したのはラギサキだった。毛を逆立てて、アーモンドを守るように警戒する。
続けてフェンズが再びマルチを展開した。
カッカッカッ
足跡が聴こえる。
相手は一人だろう。
だが、ラギサキとフェンズ、そしてアーモンドには分かる。
間違いなく強者であろう圧を感じる。
三人の視線の先には、フルプレイトを装備した首のない影骨が現れた。
100ポイント達成しました。
ダラダラと一年更新して、六十五万字まで来てしまいました。
底辺ですが、励みになります。
今日も読んで頂きありがとうございます。




