4 焚き火
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パンドラの迷宮十階層 主部屋
パチパチパチパチ
焚き火の揺らめく火が、薪を気まぐれな楽器のように鳴らす。
『アーモンドちゃん、アーモンドちゃん』
「ご主人様」
フェンズとラギサキが心あらずのアーモンドに声をかける。
「あ、ああ、すまない二人とも、少し考え事をしていた」
アーモンドの意識が二人に向きながらも、その瞳は焚き火の揺らめく火から離れない。
「今日は急ぎ足で十階層まで来ましたから、お疲れでしょう」
「いや、ラギサキほどではない。今日はよくやってくれた」
『本当、白猫ちゃんの索敵には機械人形の私以上だわ。見直しちゃったぁん』
アーモンドとフェンズがラギサキを褒める。
ラギサキは「感激です」と尻尾を振る。
実際にラギサキの索敵は素晴らしかった。
パンドラの迷宮は十階層毎に違う種類の魔獣が出現する仕組になっている。
ラギサキは一階層~六階層までは獣人特有の、聴覚、嗅覚、気配察知により魔猿の出現をいち早く察知して殲滅した。
おかげで、不意打ち等による奇襲は皆無であったため比較的楽に攻略していった。
「領主部屋に地図があったのも幸いでしたが、魔猿は獣国でも大量に狩っていますから、独特の匂いがするんです」
『一応、私も探知機能はついてるんだけど、負けたわぁ』
パチパチパチパチ
焚き火もラギサキを褒めているように、音を鳴らす。
フェンズは冷凍肉を一口大にカットして、串を指す。
「フェンズ殿、見事な手際ですね」
『あらぁん、ありがとう。アーモンドちゃんちょっと刺すときにコツがあるのよ。この手間一つで味が変わるみたいよぉん』
フェンズが肉を串うちし、焚き火で炙る。
「フェンズはスゴいな! 槍も上手くて、料理もできる」
『まぁ、残念だけど機械だから味は分からないんだけどねぇん』
ラギサキはフェンズに対しては言葉遣いは砕けている。
それはそれで悪くない関係のようだ。
アーモンドとラギサキはフェンズの串焼きを頬張った。噛み締めるほどに、肉汁が口の中いっぱいに拡がり、疲れた身体に英気がよみがえるようだった。
フェンズは機械ビールを「一杯だけ」といって半分ほど一気に飲んだ。残りはチビチビと口をつけている。
ラギサキは疲れたのだろう。
三日三晩の強行軍に加えて、パンドラの迷宮探索といくら体力に自信のある獣人でも休息は必要だ。
ラギサキは、自身が主と認めたアーモンドの匂いに安心したかのように丸まって眠った。
『あらぁん、こうしてると本当に猫ねぇん。可愛いだからぁん。アーモンドちゃんも、休んでいいわよ。階層間の階段は、魔獣が出現しない安全地帯だから大丈夫よん。それに、私は兄弟達の中でも連続稼働に定評があるから、一応、見張りしとくわぁん』
普段はボンドにツンデレなフェンズだが、久しぶりにお姉さん役ができて嬉しいのだろう。フェンズは非常に上機嫌だ。
パチパチパチパチ
「ああ、それは助かる」
アーモンドの空返事が焚き火の音に掻き消される。
『……木人様とのこと。前もいったけどあんまり本気にしない方がいいわよん』
だが、機械の聴覚センサーは優秀なようだ。
「……少し思うところがあっただけさ」
『そう、ならいいけどねぇん』
「そういえば、フェンズ殿はユーズと兄弟だと聞いたが」
『ああねぇ、そうよう。私達は十人兄弟なのよん。あっ! ハイケンも入れたら十一人かしらん。ちなみに、ユーズは十番目で、私は四番目の子よん。ふふふ、お姉さんねん』
フェンズはエメラルド色の瞳を点滅させる。
「私は機械のことには、よく分からないが、フェンズ殿やボンド王のようにまるで人種のように言語を話し、自身で行動する機械を見たのは始めてだ。さぞ、腕の良い方があなた達に命を吹き込んだのだろう」
『あらぁん、アーモンドちゃんったらぁん。嬉しいこといってくれるわねぇ。まぁ、確かに今の技術では私達を一から造るのは難しいわねぇん。私達は当時即戦力として期待された機械だから、早熟型なのよん』
「ユーズとは違うのか」
『そうねぇ。ユーズは超大器晩成型だから様々な可能性を秘めた機械人形、私達九体の兄弟のデーターを元にできた子だからねぇん。まだ、上手くしゃべれないけど、しっかり自分の意思はもっているし、逆に一番、人種に近い機械じゃないかしらん』
「超大器晩成型? 」
『そう。私達と違って、成長をし続ける機械人形、それがユーズよ。あの子が、いい子育ってくれたのは、ボールマン様やラザア様、アーモンドちゃんにもお世話になったわねぇん。ありがとう』
「私は、これといって何もしていないが」
『あらぁん、ラザア様を巡ってユーズに決闘を申し込んだそうじゃない。私、そのお話を聞いたときには、ブラックボックスがキュンキュンしちゃったわぁ。青春ってやつよねぇ、羨ましいわぁん』
「……その時は、手袋を忘れてしまってな。確かに、恥ずかしかった」
『恥ずかしいポイントって、そこ? 流石、アーモンドちゃんだわ。あなた、きっと大物になるわよ! あっ! もう、竜殺しだったわね! 十分に大物だわん』
アーモンドのちょっとズレているメンタルに、フェンズは関心する。
「「「ニャース」」」
ブーツの中の猫達もアーモンドを褒める。
「……竜殺しか、フェンズ殿、聖なる騎士とはいったいなんなのだろうな」
パチパチパチパチ
焚き火の炎にアーモンドの溜め息が消えていった。
第一部の学園で、アーモンドはユーズレスに決闘申し込んでいた描写あります。




